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ー 交わり始める ー

夜の駅。

屋根の下に光る蛍光灯が、薄く色褪せたベンチを照らしていた。

あやねはその端に座って、ペットボトルの麦茶を握っていた。

バイト終わりの制服のまま。

汗の匂いが、自分でも少しきつかった。

(電車早く来ないかな。)

今日もいろいろあった。

体も心もぐったりして、足元は少しふらついていた。


そのときーー隣に、誰かが座った。

ベンチの端から伝わる、微かな体温。

香水のような、服の柔軟剤のような、清潔な香り。

(……男の人…かな。)


過去のあやねの経験が蘇る。


ーー

「おい笹原。」



「ぎゃはははは!!!」


涙を流す、幼いあやね。

その記憶が、男の人が近づくたびに、

フラッシュバックするのだった。


あやねが立ち上がろうとした瞬間、横目で隣の男性を見るとそこには、

思わず目を見開いた。

黒いシャツにすらりとした手足。

目鼻立ちのはっきりとした、 スマホを無造作にいじる、涼しい横顔。

間違いない…。


(神谷 湊…。)


教室の中心に居て、どこか違う世界の人間みたいだった。

テレビにも出ている、大人気モデル。


(神谷くんが…隣にいる…。)


驚きと緊張が混じって、

思わず声が漏れた。

「…あっ…。。」

その声に、湊がちらりと横を向いた。

無表情のまま、あやねを見た。

けれどーー


「あぁごめん。隣、居たんだ。」


その目は、まるで”人”として見ていなかった。

ただそこに”誰かいた”というだけ。


あやねは何も言えなかった。

うつむいて、小さく首を横に振った。


(私のこと…わかんないんだ、同じクラスなのにな…。)


それが、少しだけーー

安心でもあり、

少しだけーー

悔しかった。


「すみません…。退きますね。私の隣座らない方がいいと思うので。」


「あぁ、ごめん。気にしないで。俺のこと知ってたんだ。雑誌とか読まなそうなのに(笑)なんかごめんね。いいよ、俺が退くから。」


(ファンか…?優しくして株あげとくか。)


そう言って立ち上がろうとした時、湊は制服が同じことに気づいた。


「あ、ごめん。気づかなかったけど、桜野高校だったんだ。先輩ですか?」


あやねは胸がぎゅっとなった。

同じクラスなのに、存在を知られていなかった悔しさがこみ上げる。


小さな声で呟く。


「同じクラス……。」


聞き取るのが難しかった。湊が聞き返す。

「…なんて言いましたか?」

あやねは少しだけ声を張って言った。

「同じクラスなのっ……。」

湊は苦笑いを浮かべながら、少し申し訳なさそうに言った。

「あぁ、そーだったんだ。忘れっぽくてごめんね笑。俺別に気にしないから、隣座ってていいよ。」


あやねは少し照れくさそうにしながら、またベンチの端に腰掛けた。

自分の汗の匂いを気にしながら、ぐっと鞄を握った。


ーーだが、優しそうな湊の言葉とは裏腹に、心の中はーー


本当は論外なだけだった。それだけだった。


(こんなんが俺の隣に座れるなんて奇跡だな。)


彼の瞳は冷たく、けれどその事実は決して口には出さなかった。


ーーしばらくしてアナウンスが流れた。


「まもなく3番ホームに電車がーー」


アナウンスと同時に電車が3番ホームに止まる。

あやねも、湊も、この電車に乗る。

だがあやね立ち上がらない。

湊はスマホをいじりながら、あやねと出会ったことは無かったかのように電車に乗り込む。


最後、一言もない湊の冷たさに胸が苦しい。


(まぁ、当然のことだよね…。私と神谷くんなんて…。)


春のまだ冷たい夜風が、ひどく肌に染みた。

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