基本的に、バイト探しと言っても、前回もご説明した通り、UT変異体の失敗作を易々と雇ってくれるところなんて簡単には見つからない。
当然だ。
国からは一応、人権が与えられ、尊厳を失わないように接しなければならない相手のくせに、俺のように、簡単に物を壊してしまったりする異端児なのだ。
とは言っても、今日は運が良かった。
本来であれば、早くても一週間は歩き回り、頼み込んでやっとこさ見つかる働き口を、呆気なく見つけてしまったのだ。
なんだか嫌な予感がする……。
「それじゃ採用と言うことで! 次に健康状態を測るために採血を行います! あちらの部屋でお待ちください!」
随分と上機嫌な、白衣を着た若い男は、ニコニコと俺の履歴書を持って奥の部屋へと去って行った。
いつも、あまり考えずに動いてるから何も知らないんだけど……ここは何をするところなんだ……?
このご時世に治験……? は、ないだろうが……少し用心した方がいいか……? いや、俺の身体なら、普通の人なら耐えられない薬や医療にも耐えられるか……?
そんなこんなで待合室で待っていると、ニコニコと変わらぬ表情を浮かべた白衣の少年は、何枚かの紙を用意して机に置いた。
「日払いになるんですけど、いくら欲しいですか?」
「え……は、はい……? こちらが、そんなもの決めていいんですか……?」
「もちろんです!! 鯨井さんの……アッ……。ハハッ、UT変異体になられた方の血液を採血させて頂くわけですから、給料より、報酬って形になりますから!」
「報酬……?」
やはり、このガキ……なんかおかしい。
俺の血液がなんだ……? いや、その前に、『UT変異体になった奴の血液が欲しい』ことがおかしい。
「お前、何者なんだ? UT技術の関係者か!!」
俺は立ち上がり、汗混じりに強気な態度で威圧した。
少年は、ムスッと笑みを消すと、俯く。
やはり……UT技術関係者……。
今更、こんな失敗作に何を期待しているんだ……。
しかし、少年は次第に、わなわなと涙を浮かべる。
「滅相もないです、鯨井さん!! 僕は確かに、UT技術の促進に関わっていましたが、今のUT変異体の方々にはあまり興味がないんです!!」
「え……?」
「僕が興味あるのは、鯨井さんだけなんです!!」
「俺だけ……?」
「あ……つい本音が……」
そう言うと、照れ臭そうにそっぽを向いた。
「お、おい……ちょっと待て……。頭が追いつかない。っつーことは何か……? バイトもこれ全部……」
「へへ……僕が鯨井さんのことを研究したいだけです」
ドッ!!
俺は怒りに身を任せ、自然とその場を足で叩き付けた。
地面はパキパキと割れる。
「ふざけんじゃねぇ!! こっちは失敗作として特殊部隊に入れなかったのに……今更……!!」
「その怪力……やはり、鯨井さんの能力は凄いです。これで特殊部隊に配属させなかっただなんて、僕はUT技術班を疑いましたよ」
その確固たる真剣な眼差しに、俺は唖然とした。
コイツ……俺を本当に必要として……。
「僕、まだUT技術班に入ったばかりの新米なんです。そこで過去の資料を見ていた時、鯨井さんのことを知りました。こんな素晴らしい方が特殊部隊にいないだなんて、おかしいです!!」
「お、おう……それはだって、宇宙武装に適さなかったわけで、仕方ないことだしな……。昨日も、侵略者の襲撃に遭って死にかけたし……」
すると、その言葉に、少年は不思議そうな目を向ける。
「死にかけた……? 鯨井さんが……?」
「あ、あぁ……。当然だろ……? 宇宙武装も、防護フィルターもない中じゃ、侵略者の攻撃なんて……」
「いえ、確かに未だ侵略者たちの皮膚や内臓については未知な点も多いですが、巨大な侵略者でもない限り、鯨井さんの能力が負けるなんてことは有り得ません」
「は……? でも実際……」
「それって例えば、不意を狙われた、とか、集中力が低下していた、とか、瞬発力が及ばなかった……みたいな状況ではなかったですか?」
確かに……言われてみればあの時は、おっさんを救うことに夢中で、侵略者から意識が逸れていたし、攻撃も、地面から触手を伸ばしてくるとは考えられなかった……。
「急所を狙われない限り、侵略者たちの攻撃力では、鯨井さんの皮膚に傷を付けることは出来ません。これは、宇宙武装を身に纏っていても無理なものなんです」
「そ……そう……なのか……?」
すると、突然、奥の扉がバタリと開かれる。
「その通りだ! 優! ハッハッハッハ!!」
「お前……!!」
そこには、会いたくもない奴が立っていた。
しかし、その姿に合点が行くこともある。
「そうか……。クソッ、お前がコイツに、俺の居場所を教えたんだな……」
「その通りだ! 盟友よ! ここに今、技術者を前に証明された、貴様の力が! 私と共に戦おう!」
馴れ馴れしく、金髪をキラリと輝かせ、釣り目にニタニタと笑う、見ているだけでムカつくコイツは、
「戦うわけねぇだろ、”ゲス野郎” 」
通称、 “ゲス野郎” 。
「ロドリゲスだ!! ゲス野郎ではない!! ロドリゲス・B・フォードマン! 愛を込めて、ロディと呼ぶことを許してやった仲ではないか!」
「勝手に人様の住居を教えやがって、何が盟友だ。笑わせんじゃねぇよ」
「ふっふっふ、この私に向かって、相変わらずの太々しい態度……。流石は優だ」
コイツ、ゲス野郎こと、ロドリゲス・B・フォードマンに会いたくない理由は幾つかある。
それは、単にムカつく性格なのもあるが……。
「さあ、共に宇宙人を排除する為、手を取ろう!!」
「やっぱりその話か……」
ロディの家は金持ちで、B型世代から金を積み、更なる力を求めんと裏で仲間を募り、俺のL型世代まで居座ったくせに、本当の目的は、この地球を乗っ取り、自分たちを機械とした宇宙人たちを排除する為の活動をしている、言わばお尋ね者なのである。
「さあ優も、“βの使徒” へ来い! 皆、志の高い良い奴ばかりだぞ! ハッハッハッハ! この技術者の佐藤くんも連れて行くつもりだ!」
「いや、僕は鯨井さんが行くなら、って条件なので、鯨井さんが行かないなら行かないですよ!?」
「何!? ここまで連れて来てやったではないか!」
「でも僕も、研究所に忍び込んで危なかったところを、無事に外まで逃がしてあげましたよね?」
「ぐ……確かに。それならおあいこだな。ならば改めて、技術者が欲しいのだ。私たち、βの使徒へ来てくれ」
「だから、鯨井さんが……」
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
そんな時、突如として地面が強く揺れ動く。
「地震か……!?」
「いや……この揺れ方は……」
ふっとロディは上空を見上げ、足に力を込める。
「優、上だ。先に行くぞ」
ゴッ!!
ヒーローのパンチングポーズのような格好で、ロディはゴッゴッと壁を破壊し、ビルの頂上まで跳躍した。
あれでいて……何世代も技術を吸収して来た奴だから、ちゃんと力もあるのもまた、ムカつくんだよな……。
「おいお前、佐藤って言ったか」
「は、はい……! 鯨井さんに名前を呼んで頂けるなんて光栄です……! 佐藤学です! 学くんって呼んでくれてもいいですよ!!」
「うるせぇな! 今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!! ここは崩れ落ちるかも知んねぇ。まあ、ロディがいるから侵略者は倒せると思うが……俺も一応、増援に向かう。お前は、黙ってこの建物から逃げてろ!」
そして、俺も再び地面を踏み込み、ロディの開けた穴を通じて上空まで飛び上がった。
――
ロドリゲス・B・フォードマン(βの使徒)
能力:何個かある
B型世代から研究に参加し、金を注ぎ込んでL型世代の技術まで吸収したが、技術者を裏切り、βの使徒と名乗り、宇宙人を排そうと試みている指導者。
佐藤 学
元UT技術班の新米。鯨井の能力のファン。
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