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目覚める。
男は照らされ、重い瞼を開くと共に気だるげに洗面所に向かい、カウンターに手をかけ虚ろに鏡と目を合わせた。
逆だった寝癖、浮腫みあがった頬。
まさにその風貌は愚の骨頂という他ないだろう。
自堕落で非生産的、杜撰で貧相な男はいかにもこの世を憎んでいた。
恵まれる花形、贔屓される逸材を背にいつも汚れ仕事を買ってでる役割を任されていた彼にとって、この世は理不尽であり憎む対象以外の何でもなかった…。
そんな男にも、目的はあった。
ふと、洗面所越しの床に目を向ける。
赤い何かを…引きずった後。
こびりついたその赤は、黒く…鈍く…異質を極めるものだろう。
男は洗面所を出て、身支度を整える。
慣れた手つきでスーツのボタンを留める、アイロンにかかった、綺麗なスーツだ。
男は会社員、数年前大手に買われ、程々の待遇が約束された、言わば中小の括りの一般企業であった。
ボタンを留める音、襟を着付ける音、仕事の時間を伝えるアラーム音
ヤツが、近づいてくる音。
ズッ…..
ズッ…..
ズッ…..
男は近づいてくる「ソレ」を優しく抱き抱えた。
少し重い、大きさは…バスケットボールくらいだろうか。
男が抱え、腕に締め付けられると、「ソレ」はとめどなく赤色の粘性のあるものをゆっくりと吹き出す。
ゴポッ…
グプ…
ピシャ…
床が染まる。
男は嬉々として蕪雑な話題を持ちかける、ヤツは相槌を打つように脈を打つ。
少し温もりを持つ「ソレ」は男の腕に縋り付くようにこびりつく。
ヤツと男はまるで愛し合っている。
まるで家族のよう、または飼い主とペットのように。
男は「ソレ」を床に置き、汚れた床を拭く。
床は鈍く、赤く輝く液体が床に広がり汚れる中、男の手が止まった。
広がる赤、それと相反するように青く冷める手は物悲しげに置かれていた。
塊の朝ごはんは済んだようだ。