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「クレハ様!!」
「レナードさんに、ミシェルさん……!?」
部屋に入るやいなや、彼らは物凄い勢いでクレハ様のもとへと駆け寄った。そんな彼らの後に続いて、呆れ顔をしたルイスさんも登場する。
「ごめんね。こいつら姫さんの事聞いたら、じっとしていられなかったみたいで……」
「クレハ様、具合はいかがですか? 私たちにして欲しい事があったら遠慮なく言って下さいね」
「レナードの言う通りです。私たちはクレハ様の味方です。貴女のためなら何でもしますから……」
「おふたり共、ありがとうございます。体の方はもう何ともありません。だから心配なさらないで下さい」
クレハ様の穏やかな笑顔を見て、レナードさんとミシェルさんは安心したようだ。二人揃って大きく息を吐きだす。ミシェルさんなんてその場にへたり込んでしまった。
「ほら、大丈夫だって言ったろ。俺の話最後まで聞かないで突っ走って行くんだからよ。お前らの剣幕に姫さん驚いてるじゃん」
「ルイスだって私たちと同じ立場なら取り乱したに決まってる。今回はたまたまクレハ様の側にいたから、状況把握済みで冷静なだけでしょ」
「あの時、ルイスさんは旦那様に殴りかかりそうなくらい激昂なさってましたよね。隣にいた私は恐ろしくて泣いてしまいそうでした」
「リズ!!!! おまっ、余計なこと……」
「ほら、やっぱり。私たちの事をとやかく言えない癖に」
「皆さん。私と姉の事で気苦労をかけてしまい、申し訳ありませんでした。平気ですと言い切りたいところですが、正直まだ少し落ち込んでいます。それでも自分なりに気持ちの整理をしたつもりです。事件の捜査が落ち着いたら、レオンとしっかり話をします。そして、時間はかかるでしょうが姉とも……」
「……そうですね。時が経てば姉君の心境にも変化があるかもしれません」
「クレハ様、無理だけはしないで下さいね。絶対ですよ!!」
やはりクレハ様は、フィオナ様とも直接お話しをしたいと考えておられる。私もあの方の真意は気になる。本当に周囲の人間が予想しているような理由で、婚約に反対されたのか。もしかしたら……誰もが全く想像もしていない答えが隠れているのかもしれない。
「でも本当に良かったです。クレハ様が殿下のこと見捨てちゃったら……婚約を解消するなんて言われたらどうしようって。私心配で心配で……」
「私もっ!! 今更クレハ様以外の方なんて想像できない。他のご令嬢なんて絶対イヤだもん」
「それは俺もミシェルに同意。てか、ボスが許さないだろ」
「えっと……私の方からそのような申し出をすることはありませんので……」
みんな考えることが一緒なんだよなぁ。クレハ様の性格を踏まえると、婚約を辞退するんじゃないかって結論に至る。
ミシェルさんたちの熱弁にクレハ様はたじたじだ。『とまり木』の面々は今や私に負けないくらいクレハ様の事が好きなのだ。彼らは婚約が解消されて縁が絶たれてしまうことを恐れている。
「あの、レナードさんとミシェルさんはニュアージュから来た二人組の見張りをなさっているんですよね。離れていて大丈夫なんですか」
みんなから向けられる好意に照れ臭くなったのだろう。クレハ様は別の話を持ち出した。
レナードさんとミシェルさん……このふたりはカレンとノアの見張りを付きっきりで行なっていたのだ。そんな彼らがクレハ様の部屋を同時に訪れている。これは二人組の処遇に何らかの変化があったことを意味する。
「ええ。現在我々に代わって彼らの監視をしているのは、セドリックさんと殿下です」
「ニュアージュの二人にはこれから取り調べが行われるのです。よって、その間私とレナードもルイスと共にクレハ様の身辺警護を徹底するようにと、殿下から仰せつかりました」
「……不測の事態に備えてね。この機会に乗じてニュアージュの奴らが何か仕掛けてくる可能性は無きにしも非ずってやつ。だからリズも出来るだけ姫さんの側にいるようにして」
「はい……」
取り調べはルーイ先生の主導で行われるらしい。どうして先生がと疑問に思ったけど、あの方には作戦があるのだという。上手くいけばカレンとノアの正体はもちろん、グレッグに関する情報も引き出せるんだって。どんな作戦なんだろう。
「ルーイ様、怪我が治ってないのに……無理してるんじゃないのかな」
「ボスとセドリックさんも最初は止めたの。だけど、先生は自分にしか出来ない作戦だからって譲らなくてね。説得失敗。ボスたちは白旗上げちゃった」
「あの二人組の口を割らせるのは骨が折れると思いますが、ルーイ先生ならきっと成し遂げて下さるでしょう」
「殿下も作戦の内容を聞いて成功を確信したそうですからね。クレハ様、準備も念入りに行なっています。大丈夫ですよ」
「バルト隊長も凄い協力的だって聞いた。あの人、私たちのこと嫌ってるのに珍しい。合同捜査自体よく引き受けたなって思ってたのに……」
バルト隊長……一番隊の隊長さんだ。私はまだちゃんとお話ししたことないんだよね。見た目はちょっと怖そうな人だったけど……
「そこは陛下のご命令だからさ。あの隊長も逆らえないって。そんなんでも俺らにはしっかり小言プレゼントしてくれたからな。通常運転だよ」
「先生はバルト隊長とも穏やかに会話できてるみたい。何というか……さすがだよねぇ」
全体で見れば同じ軍内の部隊であることに変わりないけど『とまり木』は王太子殿下直轄……それに対して警備隊は、国王陛下の管理下にある。
レオン殿下とジェラール陛下は仲が良さそうなのに、直属の隊同士は仲が悪いのか。きっと、当事者同士にしか分からない確執やしがらみがあるのだろうな。難しいな。