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<凌太>
松本ふみ子の動向を確認していると、自分が住んでいるマンション、勤めているらしい会社、そして俺のマンションのある駅付近にマークがついている。
当然、俺のマンションはバレていると言うことか。
土曜日に瞳と会う約束をしたが、気をつけないといけないと思っていた時、スマホが瞳からの着信を知らせた。
瞳から連絡が来ることがないから、何かあったのかと急いで出るが電話の先にざわつきが感じられるが当の瞳の声が聞こえない。
胸騒ぎがして名前を呼ぶと、「僕が説明しましょうか」という男性の声が聞こえてきた。
心臓が波打つ。
何か悪いことが起きているのか
瞳はポツリと警察署の名前だけを言ったのを聞いた途端に飛び出していた。
エレベーターの待ち時間も駐車場から車を出す時間もイライラする。
瞳が勤めている会社近くの警察署はそれほど遠いわけではないが、焦っているときはとても長く感じる。
マンションではなく戸建てに引っ越しをしよう。
そんなことを考えていると警察署が見えてきてその手前にあるパーキングに駐車をし、車を降りると走り出していた。
警察署に到着し受付に向かおうとした所で瞳の姿が見えて名前を呼ぶと飛び込んでくるという表現がピッタリ来るほどあっという間に俺の腕の中にいた。
泣きじゃくる瞳を抱きしめていると、先日見かけた青年が「アカツキ食品の里中と言います」と名前を名乗った後、何があったのか説明してくれた。
車の助手席で落ち着くまで待った。
「家まで送る」
そう言うと、瞳は首を横に振る。
「何かあったってお母さんにバレちゃう」
敗れたストッキングは履き替えればいいが、泣き腫らした目はすぐにはどうにもなりそうもない。
「俺のマンションに行こう」
その言葉に頷くと電話をかけ始めた。
「今日、里子の所に泊まるから」
その後、二言三言話をして通話を終了するとしばらくスマホを操作する。
「学生時代みたい。里子の名前を使っちゃった」
「懐かしいな」
「うん」
マンションに着くまで二人とも何も言わずエンジン音だけが響いた。
部屋に入ると先ずはシャワーを使うように言って俺のスウェットを用意した。
脱衣所に置いてある洗濯機を指さし「よかったら使って、そのまま乾燥も出来るから」
「ありがとう」
「あと、コンビニに行ってくるから何か必要なものはある?」
「あの・・・嫌じゃなければストッキングが欲しいかも」
かなり盛大に伝染しているのを見て、犯人に殺意を覚えた。
「分かった」
と答えて、部屋を出た。
瞳の上司が強制性交未遂。しかも、今までハラスメントを受けていたと里中という青年が言っていた。
会社で嫌な思いをしていたのに、松本ふみ子の事でも瞳に迷惑をかけてしまっていた。
自分自身が嫌になる。
コンビニでストッキングとサンドイッチ、ペットボトル飲料数本、そしてチョコレート菓子と歯ブラシと基礎化粧品のサンプルのようなセットを購入して部屋に戻ると洗濯機の回る音が聞こえる。
昔、引っ越しの日にシャワーを浴びて手洗いで下着を洗っていたことを思い出す。
懐かしい。
リビングに入るとダボダボの俺のスウェットを着た瞳がソファに座って居た。
「何がいいか分からなかったから」
適当に選んできたペットボトル飲料をテーブルに並べるとジャスミンティーのボトルと手に取り「ありがとう」と言って一口飲んだ。
大まかなことは里中君から聞いているから特に俺からは聞かないことにした。
「あと、お菓子。ライバル会社のだけど」
そう言ってチョコレート菓子を3つほどテーブルに置き、動物の形をしたお菓子の箱を持つと「これ大好きなんだ。でも、凌太がこのお菓子をレジに持っていく所を見てみたかった」と言って箱を開けてお菓子を取り出すと口の中に入れた。
サクッと音がしたした時、箱を持つ瞳の手の甲に涙が落ちた。
抱きしめると腕の中で肩を振るわせながらぽつりぽつりを話し始めたので髪を撫でる。
「怖かった」
「写真を撮られて」
「大丈夫だ。流出なんかさせない」
絶対に許さない。
腕の中でコクリと頷いた。
「今日はもう寝よう。明日の午前中は念のために病院で検査してもらおう、頭を打ってるかもしれないし里中さんも心配していたから」
「うん」
この日、実に健全に瞳を抱きしめながら眠りについた。
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