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蓮は、夕方、真知子と晩ご飯を食べに行ったあとで、街をぶらぶらしていた。
「そうだ。
今日、卵が安いのよ」
と真知子はドラッグストアに寄る。
「ドラッグストアで卵とか意味不明ですけど。
最近、いろんなもの置いてますよね」
とついていった蓮も買うことにした。
なんとなく棚を眺めるが、ドラッグストアは危険だ。
気をついたら、お掃除グッズを買ったり、あれもなかった、これもなかった、と気がついたりして、レジに行くたび、一万円くらい払ってしまう。
二人で、美容グッズを眺めたりしながら、とめどないおしゃべりをしていたが、ふと思いつき、
「そういえば、進展しましたか?
石井さんと」
と訊いてみた。
「あ、ちょっとご飯食べに行ったりしたんだけど……」
とそこで、真知子は言い淀む。
「いや、でも、……もうちょっと、今のままがいいかなーと思ったり」
「えっ。
意外ですねっ」
と言うと、なによ、それ、と真知子は眉をひそめる。
「私は相手のことも考えず、ガンガン行きそうだっての?」
「そうじゃないですけど。
……まあ、そういうのもいいかなって最近は思いますが」
どうも自分は考えすぎる気がするから、と思っていると、真知子は言う。
「うーん。
なんていうか。
もうちょっと見極めたいかなって思っただけなの。
憧れから近づいたら、印象変わったりするでしょ?」
「変わったんですか?」
「まだ変わらないけど。
変わるかもしれないじゃない」
あら、と真知子は車の芳香剤を手に取り微笑む。
「これ、石井さんの車のと同じ匂いがする。
買っちゃおうかなー」
「そうですね。
匂いって、なんか、いろいろ思い出せていいですよね」
「あら、あんたの口からそんな言葉聞くとは思わなかったわ。
さては、社長と進展したわね?」
そんなことはないですが、と笑って誤魔化す。
雨の匂いは少し苦手だったのだが。
昨日の一件以来、嫌いでなくなっていた。
不思議だな、と思う。
「真知子さんって可愛いですよね」
と言うと、
「なにその上から目線~」
と言いながらも、真知子は笑っていた。
ピンポーンとチャイムが鳴ったとき、蓮はどきりとしていた。
渚さんかな、と思う。
だが、インターフォンを覗くと、そこには未来が映っていた。
「未来?」
とドアを開けると、
「ごめん。
今日はなんにも手土産ないよ」
と笑わずに言う。
「稗田社長は来た?」
と問われ、思わず、
「まだだけど……」
と言うと、
「やっぱり今日も来るんだ」
と言う。
「い、いや、わかんないわよ。
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そう毎日は来れないんじゃない?」
と慌てて言った。
未来に言われると、親や未来の叔母に咎められている感じがするからだ。
未来は、腰に手をやり、溜息をついて言う。
「いいや。
たぶん、あの人、今日も来るよ」
蓮、と真面目な顔で呼びかけてきた。
「偉く本末転倒な相手だけど、いいの?」
と問われて、ぐっ、と詰まる。
「いいよ、僕は別に。
蓮がそれでいいのなら、ごちゃごちゃ言うつもりはないし、うるさく報告もしない。
……ところで、それ、なに?」
と未来は玄関の棚の上に飾ってあったものに気づき、言ってくる。
あの可愛らしいティアラだ。
小さな椅子の上に、レースを置いて、その上に飾っている。
「ああ。
えっと……これは、渚さんがその、お姫様扱いしてやるって言って」
つい、途切れがちに言ってしまう。
「買ってきたの」
「……変わった人だね」
「そうなのよ……」
「被ってみてよ」
と真顔で、未来は言い出す。
「ええっ。
嫌よっ」
「いいじゃん、ほら」
と手に取った未来は、さすが、
「本物じゃんっ」
とすぐに言ってきた。
「本物なのよ」
「玄関に飾らないでよ、こんなの。
幾らだよ」
まあ、こんなところに、ポンと置いてる方がみんなオモチャかなにかだと思うだろうが。
勝手に蓮の頭に載せてみて、未来は、可愛い可愛い、と手を叩いている。
「よく似合うよ」
「あ、ありがとう……?」
部屋着と合ってないと思うんだけど、と思っていると、未来は、ティアラを被った蓮を見、
「姫、これからいろいろあるかもしれないけど。
後悔ないよね?」
と言ってくる。
「な、なに、その脅しみたいなの……」
「脅しじゃないよ。
いろいろ覚悟しといた方がいいよって話。
ああ、ほら、来たじゃん」
と振り返っている。
が、そちらを見たが、渚の姿はなかった。
「今、下に着いたよ。
電気自動車の音がした」
怖いよ、未来。
そして、何故、今日、渚が会社にあの電気自動車で来たことを知っている? と思う。
「じゃあね、お姫様。
その格好のまま、廊下に立ってたら、莫迦みたいだよ、じゃ」
と最後はいつものように毒を吐いて去っていく。
はあ……と思いながら、見送った。