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西の三人が殉職し、只一人残され、段々壊れていく忍者を東の四人が見守る話です。
死ネタ注意です。苦手な方はお戻りください。
死ネタなので一応センシティブ設定入れてます。
あまりにも暗すぎる話になると思います。結末はまだ決めてませんが多分あんまり幸せにならないのでご注意ください。
普段はBL書いてますがこの話はBLじゃ無いです。
大丈夫な方はどうぞ。
駄文にお付き合いください。
おおかみが、僕を呼んどる。
カゲツ、おいで、って。
よく見たら、星導も、伊波もおる。
カゲツ、こっちだよ、って、手を振ってる。
みんなが呼んどるから、行かんと。
僕がみんなの方に向かって歩き出すと、おおかみは僕に背を向けて歩き出した。
星導と伊波も、おおかみと並んで歩き出した。
僕が走って追いつこうとしても、三人はどんどん、遠くなって、離れていく。
待って、って僕が叫んでも、三人はこっちを向いてくれなかった。
何で、何で待ってくれんのやろ。
呼んだの、お前らやん。なぁ、おおかみ。星導。伊波。
なぁ。
目を覚ます。
ここ、どこやろ。
いつもと違うベッド。いつもと違う枕。横を見ると、テツが気持ちよさそうに眠っている。
ああ、東か、此処は。
まだ朝の六時半。初めての東での朝。
新しく始まる生活は、いつだって僕を不安にさせる。
目を擦ると、涙が乾いた跡があるのに気が付いた。
西に、帰りたい。
でももう、僕の帰るところは、無い。
あの日から、目を閉じると、いつも西のみんながまぶたの裏に映る。
星導のへにゃへにゃの笑顔と揺れる髪、伊波のヘアピンが光を反射したときの輝き、おおかみの剣が鞘から抜ける時の透き通った色。
どれも日常を切り取った、何気ない瞬間。
もう、今は無い、そんな日常。
今までは毎日が慌ただしく過ぎていって、意識したことなどなかったけれど、どれも本当にきらきらして、光っていた。
今はただただ、暗い。
前はもう見えない。僕は、前を見ようともしていない。
カゲツくんを東で引き取って、三日が経った。
まだカゲツくんは、ずっとぼんやりしていて、心がそこに無い。
まだ、と言ったが、たかが三日で癒えるはずもない。
それだけ大きな傷を、彼は背負ってしまった。
ロウくんと、ライくんと、るべくんは、カゲツくんと四人で、西で起こった災害の救助に駆り出されていた。
逃げ遅れた人の誘導、取り残された人の救出、やる事はとにかく多かったらしい。
特に被害が大きかった地域に四人で出向いて、民家に取り残された人を誘導しようとした時に、大きな土砂崩れが起こって、それに、三人は飲み込まれた。
カゲツくんを一人残して。
と、俺達は本部づてに聞いた。
カゲツくんを、東で引き取ろうと言ったのはウェンくんだった。
今の状態のカゲツくんを、一人で西には置いておけないし、何より今は周りのサポートが必要だろう、と。
西にはいずれ、俺たち以外の、新しいヒーローが補充される事だろう。
カゲツくんが、三人の最期を見たのかは、俺達は知らない。
カゲツくんはその事を話したがらないから。
…当たり前だ。
俺達は、カゲツくんを待ってあげなきゃならない。
カゲツくんが、前を向けるようになるまで、俺達が守ってあげないと。
カゲツくんと、拠点の共有部分でゆっくりしていると、カゲツくんが急に辺りを見回して言った。
「テツ、おおかみ、おおかみの声がする」
「カゲツくん…?」
カゲツくんはすくっと立ち上がり、目を閉じて何かを探している。
「呼んどる、僕のこと。こっちおいでって…テツ、聴こえん?」
「お、俺には何も…」
「こっち…、な、なぁ、おおかみ!おおかみ!どこっ!?」
カゲツくんはきょろきょろと辺りを見まわしながら、ドタバタと拠点の二階に上がり、ゲストルームに入って、そのまま一直線にベランダに向かって走る。俺はその後を追いかける。
「お、おおかみ…、そんなとこに、おったん…?」
カゲツくんは何かを見つけたように立ち尽くし、急いで窓を開け、ベランダに出て、なんの躊躇いもなく柵を乗り越えようとした。
「カゲツくんっ!!」
俺は慌ててカゲツくんの服を掴み、柵から引きずり下ろす。俺はどさりと尻餅をつき、カゲツくんは俺に覆い被さるように倒れ込んだ。
「あ、あ…」
カゲツくんはゆっくり起き上がり、震える手で、柵の向こう側を指差した。
「て、テツ、おおかみ、おおかみがおった…ほん、ほんとなんよ…っ!」
カゲツくんは必死な顔をして、俺に訴えた。
俺はそれを否定することも、肯定することも出来なかった。カゲツくんの声は震え、目は涙で潤んでいて、今にも溢れてしまいそうだ。
俺はカゲツくんがまた柵を越えないように、彼を必死に抱きしめながら、自室に居るマナくんたちを呼んだ。カゲツくんはまだ俺の腕の中で、おおかみ、おおかみ、とうわごとのようにロウくんを呼びながら、暴れている。
カゲツくんには、一体何が見えたんだろう。
俺も、もう一度、ロウくんの声が聴きたいよ。
マナくん達が慌ててやってきて、カゲツくんをなだめてくれた。
ちょっと酷かもしれないけど、マナくんはカゲツくんに、「ロウはもう居らんねんで」って言い聞かせた。
カゲツくんは、そんな事ない!って、聞く耳を持たなかった。
でも本当はカゲツくんも分かってる。マナくんの言う通りだって事。
カゲツくんは、そんな事ない、そんな事ない、と言い、自分に暗示をかけているみたいだった。
しばらくして、カゲツくんは急に呪縛から解かれたみたいに、そうよな、と呟いた。
カゲツくんがぽろぽろと涙を溢す。
涙を溢しながら、ポツリと呟いた。
「こんな思い、するなら…、みんなと、僕、みんなと、一緒に、し、…死にたかった…っ」
カゲツくんのそばに居たウェンくんが、悲しそうに目を伏せた。
リトくんは今のカゲツくんを見ていられないのか、悔しそうな顔をして、キリンちゃんと一緒に部屋を後にする。
「なぁ、なんで僕なん…?なんで生き残ったの、おおかみやなくて、伊波やなくて、星導やなくて、僕なん…っ」
「カゲツ…」
「も、嫌や…、みんな、ぼくを置いて…おらんなる…っ、お前らもそうや…、いつかおらんなるんやろ、僕の前から!」
マナくんが、項垂れて泣きじゃくるカゲツくんを抱きしめた。涙が溢れないように少し上を向いて、カゲツくんの背中をゆっくり摩る。
「カゲツ、大丈夫やから、な?もう、それ以上言うな…。ライたちも、カゲツが死にたいなんて言うん、聴きたないよ、きっと…。少し、休もう…、俺ら、一緒に居ったるから…」
月並みな言葉しかでてこんな、と、マナくんは後で、俺と二人の時にそう言ってた。
三人の死を背負うには、カゲツくんの身体は、あまりにも小さすぎる。と、俺は思う。
続きます。