西の三人が殉職し、只一人残され、段々壊れていく忍者を東の四人が見守る話です。
死ネタ注意です。苦手な方はお戻りください。
死ネタなので一応センシティブ設定入れてます。
一話の前書きもお読みください。
カゲツを東で引き取って、一週間が経った。
カゲツはまだ時折幻覚を見て、幻聴を聴いている。
最近は星導がよく僕に会いに来る、と、俺に漏らした。
たまに、現実とそうでないものの区別がつかなくなるらしい。
俺の前にちょこちょことやって来て、なあ宇佐美、今、ぼくの横に、星導居るやんな?と、カゲツは聞いてくる。
俺はその度に、居ねえよ、と教えてやる。
カゲツは、そっか、と、悲しそうな顔をする。
西の奴らは、いつまでもカゲツに呪いのように、纏わりついている。
昨日、俺が拠点の共有部分でコーヒーでも飲もうかとしていると、カゲツの話し声が聞こえてきた。テツか、ウェンか、とか考えていると、カゲツは一人で部屋に入って来た。
カゲツは嬉しそうに笑ってた。
俺と目が合うと、少し気まずそうな顔をして、また「何か」と話し始めた。
カゲツの行動は、日に日に酷くなっているように見える。
俺は思わずカゲツに話しかける。
「カゲツ」
「え?」
「誰と話してるんだ」
「誰って、星導、やけど…」
カゲツは自分のすぐ横を見やった。
俺はカゲツの両肩に手を置いて、彼を諭した。
「カゲツ、目え覚ませ、星導は…」
「な、なに、宇佐美」
カゲツは目の焦点が合っていなかった。俺を見ているようで、何処か遠くを見ている。
俺が言葉に詰まっていると、カゲツはまた横を見て話し始める。
「なぁ、星導、お前なんで東来たん?」
「…」
「ああそっか、こっちで任務なんや、そっか。僕もやから、終わったら一緒に西に帰ろう」
そう言って、またカゲツは笑った。
カゲツには、星導の声が聴こえているんだろうか。
星導は、カゲツの横で笑っているんだろうか。
なんだか今のカゲツを見ていると、俺の方が間違っているんじゃないかって、たまに錯覚しそうになる。
カゲツを否定することの方が、本当はおかしいんじゃないかって、そう思えてくる。
三人のことを忘れろ、というのは違う。
ただ、幻影に囚われているままじゃきっと前には進めない。
カゲツは今のままじゃ多分駄目になる。
なんとかしてやりたい、と思っているのに、俺も、現実から目を背けたくて、ただカゲツのことを否定することしかできない。
ああ、もう勘弁してくれ、星導。
「リトは優しいね、弱いけど」と、彼の声が聴こえた気がした。
「カゲツ」
夜中に、僕を呼ぶ声がして、目が覚める。
身体を起こすと、ベッドに星導が腰掛けていた。月明かりが彼の頬を照らしている。夜が本当によく似合うなあ、と、ぼんやり考える。
「星導」
「カゲツ、東にはもう慣れた?」
「え?」
星導はカーテンの開いた窓の外を見つめている。
「慣れた、って…、僕、任務終わったら西に…」
星導は少し困ったように笑った。
「カゲツ。カゲツはもう、ずっとここに居るんだよ。もう、こっちに帰ってこなくても良いんだよ」
「なん、なんで、そんなこと言うん。お前らが、いっつも僕を呼ぶんやん、夢ん中でも、こっちおいで、って…」
「ごめんね、本当は、そっちが本音なんだけど」
星導は立ち上がった。
「でも、ライも小柳くんも、きっと同じこと言うよ。東で頑張れ、って。こっちに来るんじゃない、って」
「なんで、僕だけ…」
「カゲツなら大丈夫」
僕は俯いて、自分の手を見つめた。掌に、大きな切り傷があった。まだ少し生々しい傷。こんなの、いつ付けたんだっけ。
顔をあげると、もう、星導は居なくなっていた。
テツの寝息がやけに大きく聴こえて、よく部屋に響いている。
次話、169組がありえん喧嘩する話。
多分四話で終わります!
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