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厄災に勝ったぞ!!
賢者の魔法使いが勝ったわ!!
そんな歓声が聞こえた冬の夜。
私はどこか喜べないでいた
賢者「皆さん、お疲れ様です」
アーサー「賢者様、ありがとうございます」
ネロ「今日はご馳走だ、たらふく食えよ」
賢者「ネロ、厄災の後だっていうのに…
ありがとうございます」
ネロ「何言ってんだ、これは俺の仕事だからな」
ムル「はあ…綺麗な月…
また遠くに行っちゃった」
シャイロック「こら、ムル
特別な感情を抱くのはやめなさいと…」
賢者「ご馳走様でした」
ファウスト「ネロ、ありがとう、美味しかったよ」
ミチル「ネロさん!今日のご馳走美味しかったです、また作ってください!」
ルチル「ミチル、ネロさんが困ってしまうよ」
ミチル「あ…」
ネロ「ははっ、じゃあミチルが頑張ったらご褒美に作ってやるよ」
ミチル「ほんとですか?!やったー!」
ルチル「ありがとうございます、ネロさん」
みんなが勝てたのはすごく嬉しいことだけど…
きっと同時に
私が元の世界へ戻る時期も来たんじゃないか…
そう思っている。
前の賢者様は厄災の後、いなくなってしまった
何があって、どこに行ってしまったのかは分からないけど
何となく、そんな予感がする
「…忘れられたくないな」
明日の朝起きたら、もう元の世界に戻っているかも
もしかしたら、私が賢者だった記憶すら、なくなっているかもしれない
そう思ったら、何だか眠れなかった
コンコン、と扉をノックする音がした
賢者「はい」
アーサー「賢者様、失礼します」
アーサーは私の隣に腰掛けた
賢者「アーサー、何かありましたか?」
アーサー「いえ…
なんだかあまり眠れなくて」
賢者「奇遇ですね、私もです」
アーサー「よかったです…」
お互いに、詳しいことを話さなくても
考えていることは同じようだった
ふと、アーサーを見やると
“大いなる厄災”を見つめながら
どこか寂しそうな目をしていた
賢者「…アーサー…?」
アーサー「すみません、ぼーっとしてしまって」
賢者「いいえ、大丈夫ですよ」
アーサー「…こんなことを言うのはよくないと思うのですが…
どうしても賢者様とのお別れを考えてしまって」
賢者「仕方ないですよね…
私も、今日寝て起きたら、もう明日にはいないんじゃないかなとか、そんな風に考えてしまって」
アーサー「…賢者様」
賢者「…?…わっ」
アーサー「私は生憎…賢者様に残せるものがないのですが…
この温もりが私です」
賢者「…アーサー…」
何を言えばいいか分からず、ただ弱く、アーサーの背中を抱きしめた
アーサー「できれば…
賢者様とのお別れはしたくないです
ですがそれは恐らく…
叶わない願いで、賢者様にとっても良くないことなのだと分かっています
なので、私の温もりを、覚えておいていただけたら
とても嬉しいです」
賢者「…私も、みんなとのお別れはしたくないです
だからすごく、悲しいけど…
アーサーがこうやって、私の中に残るものをくれたことがとっても嬉しいです。
ありがとう、アーサー」
なるべく聞こえないように、その日はたくさん泣いた
それからは1週間ほど、厄災が訪れる前と
まるで何も変わらない1日1日を過ごした
だけどある日
賢者「…朝だ」
部屋から見える空には、白い月が浮かんでいた
私がここに来た時と同じくらい
まだ遠い場所にいる
賢者「…今日、きっとお別れだ」
なんだか、そう告げられた気がした
それからはまるで、最後の1日のようで
そんなことを考えないように、過ごそうとした
カイン「賢者様!起きてるか?」
賢者「カイン、起きてますよ」
はい、といつものようにカインとハイタッチをする
カイン「…賢者様?俺のことをジロジロ見てるが…何か付いてるか?」
あと何回、こうやってカインの顔を見られるのだろう
きっと手に触れることはもうできないだろう
そんな風に思っていたらなんだか悲しくなって
賢者「握手してもいいですか…?」
咄嗟にそんなことを言ってしまった
カイン「へっ?…あ、いいぞ」
あまりに突然だったから驚かせてしまったようだった
賢者「ごめんなさい、いきなり。
カインのこと、しっかり覚えておきたくて」
カイン「…賢者様、大丈夫…」
クロエ「賢者様〜!起きてる?!」
賢者「…ありがとうございます、カイン
クロエ、起きてますよ!何かありましたか?」
クロエ「賢者様に似合いそうな服ができたから、着てみて欲しくて!」
賢者「わあ、ありがとうございます!
見せてもらえますか??」
カイン「…」
クロエ「これこれ!」
賢者「わあ、素敵…!ありがとうございます、クロエ」
クロエ「じゃあこれは賢者様にプレゼント!」
賢者「…いいんですか?ありがとうございます、クロエ。
…あの」
クロエ「うん??」
賢者「ここに、クロエの紋章と同じ刺繍を入れてもらうことってできますか?」
クロエ「えっ?できるけど…入れていいの?」
賢者「はい…
クロエから貰った服だってことを忘れないようにしたくて」
クロエ「…分かった、じゃあそうするね!」
賢者「お願いします」
ネロ「賢者さん、飯できてるよ」
賢者「あっ、ごめんなさい今行きます!
クロエ、できたら私の部屋に置いておいてもらってもいいですか?」
クロエ「分かった!」
賢者「今日の朝ごはんはおじやなんですね!」
ネロ「ああ、昨日はめでたい日だったからな
せっかくなら賢者さんの国の料理にしようと思って」
賢者「…ありがとうございます、ネロ」
…
みんなの優しい想いに触れる度
別れが頭をよぎった
悲しくなった
…でも、最後くらい笑ってお別れしなきゃ
あまり深く考えないように、精一杯笑っていた
…
賢者「もう、夜ですよ…」
今日も、今までと何ら変わらない1日を過ごした
いつお別れが来るのかと、ソワソワしながら。
賢者「…!」
ふと、”大いなる厄災”それが目の前に現れた気がして
窓を開けた
賢者「…貴方が、私を元の世界に…?」
声は聞こえなかったが、それは確かに
頷いたように感じた
ふと、体が軽くなるのを感じて
下を見ると
みんなが今まで私を箒に乗せてくれていた時に見たような
綺麗な街並みが広がっていた
賢者「…綺麗だな」
みんな、気づかないといいな。
誰にも見られず、いなくなりたかった
今何か、この世界と繋がるものを見たら
また泣いてしまいそうだったから
いよいよ、それが目の前まで迫った時
“ご苦労だった、賢者”
そんな風に聞こえた気がした
賢者「月って、近くで見ると眩しくないんだね」
賢者「…」
アラームを止めると、鳥の鳴く声が聞こえる。
賢者「…7時…
起きなきゃ」
…
?
私、誰かを待ってる?
誰も来ない、分かってる
賢者「誰も…?来ない…」
分かっているはずなのに、なんだか寂しさを感じた
…だけど、どこか暖かい。
机を見やると、見たことのない服があった
賢者「…綺麗な色…
なにこれ、不思議なマーク…?」
ク、ロ、エ、と
ローマ字で縫ってあった
賢者「くろえ…
こんな服あったかな…」
???「賢者様」
賢者「…っ、誰?」
???「誰って…酷いなあ
ムル・ハートだよ」
賢者「ムル・ハート…?」
ムル「本当に忘れたの?
君の服のポケットに、僕の魂の欠片が入ってるよ」
賢者「…紫の…」
ムル「そう、それ」
…君は本当に、物わかりが良いよね」
賢者「…?あの…」
ムル「自分が傷つけばいい、そう思ってる?
悲劇さえも、上手く飲み込んでしまえばって」
賢者「…」
ムル「君は…
君を守ったっていいと思うんだ。
きみの代わりは、いないんだよ」
賢者「…っ!ムル…?!
えっ、なんでこっちの世界に…」
ムル「君が僕の魂の欠片を連れてくるから」
賢者「あ、え
ほんとだ…」
ムル「ねえ、君が望むなら
君が欲しいものを、僕が用意しよう」
賢者「え…?」
ムル「どうしたい?君の答えを聞かせてよ
賢者様?」
カイン「…」
俺は、何かを忘れている気がする
毎朝、誰かのところに行って…
だけど、何も思い出せない
カイン「…わっ、すまない。
クロエ、おはよう」
クロエ「あ、カイン。おはよう
…あの、さ、俺、
すごく、何かを忘れてるような気がして…」
カイン「…」
ネロ「飯、できてるぞ」
何かが、欠けている気がして
オーエン「賢者様のことでしょ」
カイン「オーエン…」
オーエン「みんな、辛気臭い顔しちゃって
変なの
僕はそういうのが大好きだけどね」
アーサー「…賢者様は、元気にしているだろうか」
シャイロック「私達が、ここまで何かに固執するというのもおかしな話ですが…
会えるものなら、もう一度会ってみたいものですね」
ムル「どうしたい?賢者様?」
賢者「…みんなのところに…戻りたい…」
ムル「それでこそ賢者様。
…
エアニュー・ランブル」
賢者「…っあ、またここ…」
新しく私が召喚された時も、ここだったな…
嬉しさと、不安が入り交じったような
そんな感情を抑えつつ
エレベーターが着くのを待った
賢者「…!」
軽快な到着音と共に、エレベーターが止まる。
スノウ、ホワイト「おかえり!賢者ちゃん!」
賢者「…っスノウ!ホワイト!」
スノウ、ホワイト「わわっ!賢者ちゃん、わしら潰れちゃう!」
見知った顔が目の前にあることに
気持ちを抑えられずに駆け出した
そして、ぎゅっと
2人をまとめて抱きしめた
賢者「…なんで、2人はここに…?」
スノウ、ホワイト「何となく♪」
賢者「なんですか、それ…」
泣き笑いのような、変な顔になった
スノウ、ホワイト「魔法使い達は食堂におるぞ!」
賢者「行きます…っ」
駆け足で階段を下る
思えば、初めてここに来た日も
ヒースクリフとともに階段を駆け足で下っていたことを思い出す
賢者「っ…」
急いで、食堂までの道を進んでいく
賢者「…みんな…」
この扉の向こうに、みんながいる
深く息を吸い、吐く
重い扉を開けると
アーサー「…!賢者様…!」
そこには見知った光景が広がっていた
賢者「っ…アーサー、みんな…」
胸が暖かくなって、瞳が熱を持つのが分かる
スノウ、ホワイト「賢者ちゃん、顔を上げるのじゃ」
小さな手に、優しく頭を撫でられる
賢者「…そうですね…」
アーサー「賢者様…お待ちしておりました」
カイン「おかえり、賢者様!」
リケ「賢者様…!おかえりなさい!」
スノウ、ホワイト「賢者ちゃん、改めて、おかえり♪」
ミスラ「…貴方がいないと眠れないです」
オーエン「お前、どこ行ってたの?」
ブラッドリー「おかえり、賢者とかいうちいせえの!」
ファウスト「おかえり、賢者」
シノ「賢者、今度は俺がお前を呼んだ!」
ヒースクリフ「こら、シノ…
ふふ、おかえりなさい、賢者様」
ネロ「おかえり、賢者さん
朝飯はできてる」
シャイロック「おかえりなさい、愛しい賢者様」
ムル「おかえり〜、賢者様!」
クロエ「…賢者様。
スイスピシーボ・ヴォイティンゴーク…
これ、忘れてたよ!おかえりなさい」
ラスティカ「おかえりなさい、賢者様」
フィガロ「賢者様、おかえり。怪我はない?」
ルチル「賢者様、おかえりなさい♪」
レノックス「賢者様、おかえりなさい。
…俺の役目は、貴方をお守りすることです」
ミチル「賢者様…!おかえりなさい!」
賢者「…みんな…
オズ…」
ふと横を見やると、私を真っ直ぐ見つめるオズがいた
オズ「…賢者。待っていた」
賢者「…!」
不器用でも、私のことを待ってくれているみんながここにはいた
綺麗な言葉を並べるよりも
みんなが、私と目を合わせて
大切な、「おかえり」をくれる
それだけで、十分だったんだ。
賢者「みんな、ただいま…!」