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街に到着したユータは、早速商談に臨む。自信に満ち、毅然きぜんとした態度で交渉を進める彼の姿は、もはや孤児院の少年のものではなかった。最初は子供だとバカにしていた商談相手たちも圧倒されていった。


「では、料金は半金先払いでこちらに……」


俺は金貨の袋をドカッと机の上に置いた。その重い音は、部屋中に響き渡る。


「お、おぉぉ……」「こんな大金を持ち歩くのか……」


商談相手たちは顔を見合わせて言葉を失う。その目には、驚きと共に畏怖の色が浮かんでいた。


「では、納品をお待ちしてますよ」


俺はビジネスマンっぽくさわやかスマイルを浮かべ、右手を差し出した。その仕草には、少年とは思えない洗練せんれんされた雰囲気が漂う。


商談相手の一人が、おずおずと俺の手を握る。その手には汗が滲んでいた。


「ああ、もちろんだ。約束の日までには必ず……」


相手の言葉を遮るように、俺は軽く頷いた。


「信用しています。紳士的な対応、感謝します」


俺の言葉に、商談相手たちの表情が和らいだ。緊張から解放されたかのように、彼らの肩の力が抜ける。





夕陽が真っ赤に大地を染める頃、俺は茜雲を突き抜け、景気よく飛んでいた。風を切る爽快感が全身を包み込む。


「★5の武器、魔人の奴隷、そして商売の成功か……」


まぶしい夕陽を目を細くして見つめ、俺は満足しながら微笑ほほえむ。


「でも……。俺の人生、こんなに上手くいっちゃっていいのかな……?」


そのひとみに、わずかな不安の影が宿やどった。


風に乗って飛び続ける俺の耳に、遠くから鐘の音が聞こえてきた。どこかで夕暮れを告げる音色が、俺の心に郷愁きょうしゅうを呼び起こす。


「たまには孤児院に帰ろうかな……。お土産は……、そうだ、果物でも買って行こう」


俺は空中で果樹園の方へとゆったりと方向転換していく――――。


「みんな喜んでくれるかな? ふふふっ」


俺は子供たちがワラワラと群がってくる様子を想像して、思わず微笑んでしまう。


自由でありながら、どこかに帰るべき場所がある。そんな幸せを噛みしめながら、俺は夕焼けの空を駆け抜けていった。





翌日、届け物があって久しぶりに冒険者ギルドを訪れた。薄暮の空が、ギルドの建物を柔らかな光で包んでいる。


ギギギー。


相変わらず古びたドアが懐かしい響きをあげてきしむ。


にぎやかな冒険者たちの歓談が耳に飛び込んできた。防具の皮の臭いや汗のすえた臭いがムワッと漂っている。これこそが冒険者ギルドの真骨頂しんこっちょうだ。俺は少し気おされたが、この独特の空気が今日は妙に心地よく感じられる。


受付嬢に届け物を渡して帰ろうとすると、


「ヘイ! ユータ!」


アルが休憩所から声をかけてくる。その声には、昔と変わらぬ溌剌はつらつとした響きがあった。


アルは孤児院を卒業後、冒険者を始めたのだ。レベルはもう三十、駆け出しとしては頑張っている。にこやかな彼の顔には、少しではあるが冒険者の風格が宿りつつあった。


「おや、アル、どうしたんだ?」


「今ちょうどダンジョンから帰ってきたところさ。お前の武器でバッタバッタとコボルトをなぎ倒したんだ! 見せたかったぜ!」


アルが興奮しながら自慢気に話す。その姿は、子供の時そのままの無邪気で、純粋だった。


なるほど、俺は今まで武器をたくさん売ってきたが、その武器がどう使われているのかは一度も見たことがなかった。武器屋としてそれはどうなんだろう? その考えが、俺の心に小さな引け目を呼び起こす。


「へぇ、それは凄いなぁ。俺も一度お前の活躍見てみたいねぇ」


何気なく俺はそう言った。


「良かったら明日、一緒に行くか?」


隣に座っていたエドガーが声をかけてくれる。その声には、経験豊富な冒険者特有の落着きが感じられた。


アルは今、エドガーのパーティに入れてもらっているのだ。


エドガーの言葉に、俺はチャンスを感じた。


「え? いいんですか?」


「お、本当に来るか? うちにも荷物持ちがいてくれたら楽だなと思ってたんだ。荷物持ちやってくれるならいっしょに行こう」


エドガーの提案は、冗談めかしているようで本気らしい。


一瞬の躊躇ちゅうちょの後、俺は決心した。


「それなら、ぜひぜひ! 荷物持ちなら任せてください!」


俺の返事に、アルとエドガーの顔がほころぶ。


話はとんとん拍子に決まり、憧れのダンジョンデビューとなった。その夜、俺は久しぶりに冒険への期待に胸を躍らせながら眠りについた。明日の冒険が、どんな新たな発見をもたらすのか。その思いが、俺の夢の中まで続いていった。















31. 強烈な洗礼


エドガーのパーティにはアルとエドガー以外に盾役の前衛一人、魔術師と僧侶の後衛二人がいる。俺を入れて六人でダンジョンへ出発だ。朝もやの中、みんなの息が白く霞む。


俺は荷物持ちとして、アイテムやら食料、水、テントや寝袋などがパンパンに詰まったデカいリュックを担いでついていく。その大きさが、これから始まる冒険の実感を俺に与えていた。


ダンジョンは地下二十階までの比較的安全な所を丁寧に周回するそうだ。長く冒険者を続けるなら安全第一は基本である。無理すれば良い報酬が期待できようが、背伸びして死んでしまったらお終いなのだ。


街を出て三十分ほど歩くと大きな洞窟があり、ここがダンジョンになっている。入口の周りには屋台が出ていて温かいスープや携帯食、地図やらアイテムやらが売られ、多くの人でにぎわっていた。


(これがダンジョン!)


活気に満ちた光景に、俺の心も高鳴る。


ダンジョンは命を落とす恐ろしい場所であると同時に、一攫千金が狙える夢の場所でもある。先日も宝箱から金の延べ棒が出たとかで、億万長者になった人がいたと新聞に載っていた。なぜ、魔物が住むダンジョンの宝箱に金の延べ棒が湧くのだろうか? この世界のゲーム的な構造に疑問がない訳ではないが、俺は転生者だ。そういうものだとして楽しむのが正解だろう。


周りを見ると、皆、なんだかとても楽しそうである。全員目がキラキラしていてこれから入るダンジョンに気分が高揚しているのが分かる。その雰囲気に、俺も感化かんかされていく。


俺たちは装備をお互いチェックし、問題ないのを確認し、ダンジョンにエントリーした。


地下一階は石造りの廊下でできた暗いダンジョン。出てくる敵もスライムくらいで特に危険性はない。ただ、ワナだけは注意が必要だ。ダンジョンは毎日少しずつ構造が変わり、ワナの位置や種類も変わっていく。中には命に関わるワナもあるので地下一階とは言えナメてはならない。その事実に、俺は身が引き締まる思いがした。


「ユータ君、重くない?」


黒いローブに黒い帽子をかぶった魔法使いのエレミーが、気を使ってくれる。流れるような黒髪にアンバーの瞳がクリッとした美人だ。その優しさに、俺の心は少し和らいだ。


「全然大丈夫です! ありがとうございます」


俺はニッコリと返す。


「お前、絶対足引っ張るんじゃねーぞ!」


盾役のジャックは俺を指さしてキツイ声を出す。


四十歳近い、髪の毛がやや薄くなった筋肉ムキムキの男は、どうやら俺の参加を快く思っていないらしい。その視線に、俺は一瞬たじろぐ。


「気を付けます」


俺は素直にそう答えた。全員に気に入られるのは無理だから、ここは我慢する以外ない。どうせ今日一日だけなのだ。


「そんなこと言わないの、いつもお世話になってるんでしょ?」


エレミーは俺の肩に優しく手をかけ、フォローしてくれる。ふんわりと柔らかな香りが漂ってくる。胸元が開いた大胆な衣装からは、たわわな胸が谷間を作っており、ちょっと目のやり場に困る。俺は慌てて視線をそらした。


ジャックはエレミーのフォローにさらに気分を害したようで、


「勝手な行動はすんなよ!」


そう言いながら、先頭をスタスタと歩き出してしまう。


どうやら俺がエレミーと仲良くなることを気に喰わないみたいだ。困ったものだ。俺は複雑な思いを胸に秘めながら、みんなについて暗い廊下を進んでいく。





途中スライムを蹴散らしながら、早足のジャックにみんな無言でついていく。暗闇の中、足音だけが響き渡っていた。


その時だった――――。


カチッ。


床が鳴った。その音は、死神の囁きのように不吉にダンジョンに響き渡る。


何だろう? と思った瞬間、床がパカッと開いてしまう。落とし穴だ。


「うわぁぁぁ」「キャ――――!!」「ひえぇぇ!」


叫びながら一斉に落ちて行く一行。


エレミーがすかさず魔法を唱え、みんなの落ちる速度はゆっくりとなったが、床はガチリと容赦ようしゃなく閉じてしまった。もう戻れない。暗闇の中、恐怖が蔓延まんえんする。


「何やってんのよあんた!」


ゆるゆると落ちながら、ジャックに怒るエレミー。その声には、恐怖と怒りが入り混じり、震えていた。


「だ、だって……、あんなワナ、昨日までなかったんだぜ……」


しょんぼりとするジャック。その姿には、先ほどの威勢はみじんもなかった。


しばらく落ち続ける一行――――。


「ちょっと待って、これ、どこまで落ちるかわからないわよ!」「くぅ……マズい……」


いつまでも出口につかない縦穴に、みんな恐怖の色を浮かべている。その表情は、闇の中でも鮮明せんめいに感じ取れた。


「みんな! 終わったことはしょうがない、なんとか生還できるよう力を合わせよう」


エドガーはパニックになりそうなみんなにしっかりと強く言った。さすがリーダーである。危機の時こそ団結力が重要なのだ。その言葉に、みんなキュッと口を結んだ。

















32. 異世界のリアル


しばらく落ち続け、ようやく俺たちは床に降り立った――――。


パァッと明るい景色が広がっていく。


いきなりのまぶしい景色に目がチカチカしたが、その光景は、想像を超えた幻想的なものだった。


なんと、そこには草原が広がっていたのだ。ダンジョンにはこういう自然な世界もあるとは聞いていたが、森があり、青空が広がり、太陽が照り付け、とても地下とは思えない風景だった。


「お、おい……。こんなところ聞いたこともないぞ? 一体ここは何階だ!?」


ビビるジャック。その声には、狼狽ろうばいと恐怖が滲んでいた。


「少なくとも地下四十階までには、このような階層は報告されていません」


僧侶のドロテは丸い眼鏡をクイッと引き上げながら、やや投げやり気味に言った。その冷静さが、逆に状況の深刻しんこくさを際立たせる。


一同、無言になってしまった。その沈黙は、重く、深刻なことを意味していることが俺にも伝わってくる。


地下四十階より深い所だったとしたらもう生きて帰るのは不可能、それが冒険者の間の常識だった。その事実が、みんなの心に重くのしかかる。


パーティーは今、まさに全滅の危機に瀕していたのだ。





エレミーの切迫した声が沈黙を破った。


「魔物来ます! 一匹だけど……何なの、この強烈な魔力! ダメ! 逃げなきゃ!!」


真っ青になって駆けだすエレミー。


「マジかよ!」「やめてくれよ!」「なんなのよ、も――――!!」


みんな悪態をつきながら一斉にダッシュ! その足音が、草原に響き渡る。


俺はみんなを追いかけながら後ろを振り返る。すると、ズーン、ズーンという地響きに続いて、一つ目の巨人が森の大木の上からにょっきりと顔を出した。その姿は、圧巻で、俺は思わず息を呑んだ。


(キターーーー!! デカい!)


俺は狂喜乱舞する。


身長は二十メートルはあるだろうか? その巨体は、まさに山のようだ。


青緑色のムキムキとした筋肉が巨大な棍棒をブウンブウンと振り回しながら、圧倒的な迫力で迫って来る。二メートルはあろうかという目はギョロリと血走り、俺を見据えた。


鑑定をしてみると――――。


サイクロプス レア度:★★★★

魔物 レベル180


おぉ、これがサイクロプス、すごい! すごいぞぉ! VRゲームで見たことはあるが、やっぱりリアルで見たら迫力が全然違う。異世界って最高じゃないか! 俺は思わずにやけてしまう。


とは言え、レベル180はヤバい。このままだとパーティが全滅してしまう。しかし、俺が派手に立ち回るのは避けたい。どうしよう……? 頭の中で、様々な選択肢が駆け巡る。


俺は一計を案じると立ち止まり、転がっている石の中からこぶし大のちょうどいいサイズの物を拾った。


サイクロプスは俺を餌だと思って走り寄ってくる。ズーン、ズーンと地震のように揺れる地面、すごい迫力だ。


俺は石を持って振りかぶると、サイクロプスに向かって全力で投げた。石は手元で音速を超え、バン! と衝撃波を発生させながら超音速でサイクロプスの目を瞬時に貫く――――。


直後、サイクロプスの頭は『ドン!』と派手な音を立てて爆散する。飛び散る血肉……。その光景は、凄惨せいさんなまでに壮絶そうぜつだった。


爆音に振り返るメンバーたち。その表情には、驚愕と困惑が入り混じっていた。


「え……?」「な、なんだ?」「はぁっ!?」


ゆっくりと崩れ落ち、ズシーン! と轟音を立てながら倒れるサイクロプス。大地が震え、草原に埃が舞い上がる。


みな走るのをやめ、予想外の事態に唖然あぜんとしている。全滅必至レベルの強敵が、荷物持ちの少年を前に自滅したのだ。理解を越えた出来事に言葉もない。その沈黙が、異様な雰囲気を醸し出していた。


エドガーが俺に駆け寄ってくる。その目には、驚きと困惑が宿っていた。


「ユータ、いったい何があったんだ?」


「魔物を倒すアーティファクトを使ったんです。もう大丈夫ですよ」


俺はそうごまかしてニッコリと笑った。


「アーティファクト!? なんだ、そんなもの持ってたのか!?」


「ただ、高価ですし、数も限りがありますから早く脱出を目指しましょう」


「そ、そうだな……しかし、どこに階段があるのか皆目見当もつかない……」


辺りを見回し、悩むエドガー。


「私が見てきましょう。隠ぺいのアーティファクト持ってるので、魔物に見つからずに探せます」


「ユータ……、お前、すごい奴だな」


エドガーはあっけにとられたような表情を見せる。その目には、尊敬の色が浮かんでいた。


エレミーが駆け寄ってきて、俺の手を取り、両手で握りしめて言う。その手の温もりが、俺の心を揺さぶった。


「ユータ、今の本当? 本当に大丈夫なの?」


目には涙が浮かんでいる。


「だ、大丈夫ですよ、みなさんは休んで待っててください」


俺はちょっとドギマギしながら、頑張って笑顔で返した。
























33. ファンタジーな教会


近くの大きな木の陰にリュックを下ろすと、俺は首をグルグルと回し、腕をうーんと伸ばす。


「よし……。皆さんここで待っててくださいね」


にこやかにみんなに言った。


「いいとこ見せられないどころか、お前ばっかり、ごめんな」


アルはしょげている。


「あはは、いいってことよ。みんなに水でも配ってて。それじゃ!」


俺はアルの肩をポンポンと叩き、タッタッタと森の中へと駆けて行く。背中に感じる仲間たちの視線が、重く感じられた。


十分に距離が取れたところで、俺は隠ぺい魔法をかけて空へと飛んだ。上空から見たら何かわかるかもしれない。


風を切って上昇しながら、俺は自分の立場の特殊さを改めて実感した。実力を隠さずに出来れば楽なのだが、そんなことしたらとてつもなく面倒くさいことになるのが目に見えている。国お抱えの冒険者とかにさせられたら自由も何もなくなってしまう。


俺はどんどん高度を上げていく。眼下の景色はどんどんと小さくなり、この世界の全体像が見えてきた。森に草原に湖……でもその先にまた同じ形の森に草原に湖……。どうやらこの世界は一辺十キロ程度の地形が無限に繰り返されているだけのようだった。一体、ダンジョンとは何なのだろうか……? 俺は首をかしげた。


よく見ると、湖畔には小さな白い建物が見える。いかにも怪しい。俺はそこに向かって一気に降りていった。


綺麗きれいな湖畔にたたずむ白い建物。それは小さな教会のようで、シンプルな三角の青い屋根に、尖塔せんとうが付いていた。なんだかすごく素敵な風景である。湖面に映る教会の姿が、この世界の神秘性をより一層際立たせていた。


「まさにファンタジーって感じだな……」


俺はつい上空をクルリと一回りしてしまう。湖畔の教会はまるでアートのように美しく、俺の心を癒した。


あまりゆっくりもしていられないので、入り口の前に着地し、ドアを開けてみる――――。


ギギギーッときしみながら開くドア。その音が、静寂を破る。


中はガランとしており、奥に下への階段があった。なるほど、ここでいいらしい。と、思った瞬間だった――――。


ズン!


いきなり胸の所が爆発し、吹き飛ばされた。


「ぐわぁ!」


耳がキーンとして痛みが全身を駆け巡る。


どうやらファイヤーボールを食らってしまったらしい。ちょっと油断しすぎだ俺――――。


自分の不注意ふちゅうい歯噛はがみした。


急いで索敵をすると、天井に何かいる。


ハーピー レア度:★★★★

魔物 レベル百二十


赤い大きな羽根を広げた女性型の鳥の魔物だ。大きなかぎ爪で天井のはりにつかまり、さかさまにコウモリのようにぶら下がっている。大きな乳房に怖い顔が印象的だ。その姿は、美しくも恐ろしい。


ハーピーはさらにファイヤーボールを撃ってくる。俺はムカついたので、瞬歩でかわすと飛び上がって思いっきり殴りつける。その一撃には、さっき受けた攻撃の怒りが込められていた。


「キョエー!」


断末魔の叫びをあげ、赤い魔石となって床に転がるハーピー。その最期は、あまりにもあっけなかった。


「油断も隙も無い……」


俺はふぅっと息をつき、魔石を拾ってその輝きを眺めた。ルビー色に輝く美しい魔石、ギルドに持っていけば相当高値で売れるだろう。だが、入手経路を問われたらなんて答えたらいいだろうか……?


「うーん……。まぁ、後で考えよう」


俺はポケットに無造作に突っ込んだ。


さて、階段は見つけた。みんなをここへ連れてこなくては……。





俺は索敵をしながらみんなの方へダッシュで軽快に駆けていく――――。


草原をしばらく行くと反応があった。早速鑑定をかけてみる。


オーガ レア度:★★★★

魔物 レベル百二十八


筋肉ムキムキの赤色の鬼の魔物だ。手にはバカでかいおのを持ってウロウロしている。その姿は、まさに異世界の野蛮さを体現しているようだった。


「おぉ! あれがオーガ! なるほどなるほど!」


俺はピョンと飛んで、オーガの前に出て、好奇心に駆られて声をかけた。


「もしかして、しゃべれたりする?」


しかし、オーガは俺を見ると、唸り声を上げながら斧を振りかぶり、走り寄ってくる。その目には、人間を見下す野蛮な光が宿っていた。


「何だよ、武器使うくせにしゃべれないのかよ!」


俺は高速に振り下ろされてきた斧を指先でガシッとつまむと、斧を奪い取り、オーガを蹴り飛ばした。その一連の動作は、ごく自然に流れるようにできてしまう。


早速斧を鑑定してみるが……、『オーガ』としか出ない。その結果に、俺は少しがっかりした。


蹴った衝撃で死んでしまったオーガが消えると、斧も一緒に消えてしまった。


「えっ!? あぁぁぁ……」


虚しさが胸に広がる。


どうやら斧はオーガの一部らしい。魔物の武器が売れるかもと期待した俺がバカだった。俺は苦笑を浮かべる。


それにしてもこの世界は一体どうなっているのか? なぜ、こんなゲームみたいなシステムになっているのだろう……。俺の中で疑問が膨らんでいく。


ヒュゥと爽やかな風が吹き、草原の草はサワサワといいながらウェーブを作っていく。この気持ちのいい風景の中に仕組まれた魔物というゲームシステム。誰が何のためにこんなものを作ったのだろうか……。しかし、いくら考えても理由など思い浮かばない。


俺は朱色に光り輝くオーガの魔法石を拾ってポケットにしまい、再び走り出した。














34. 岩タイプ


またしばらく行くと魔物の反応があった。草むらの中をかがんで移動し、そーっとのぞいてみると……


ゴーレム レア度:★★★★

魔物 レベル百十


今度は岩でできたデカい魔物だ。巨大な岩に大きな石が多数組み合わさって腕や足を構成し、ズシン、ズシン、と歩いている。その姿は、まるで大地そのものが魂を宿したかのようだ。


岩タイプには『水』か『草』か『格闘』タイプだったなぁとポケモンの知識を思い出すが、この世界がどうなっているかは良く分からない。


俺は試しに水魔法を威力控えめにして当ててみる。


「ウォーターボール……」


三メートルくらいの水の球がニュルンッと現れると、日差しにキラキラと輝きながら草原の上を疾走し、ゴーレムに直撃する。


ドッパーン! と水が激しくはじけた。


しかし……、全然ダメージを与えられていない。ゴーレムは怒ってこっちに駆けてくる。やっぱり岩に水はダメみたいだ。綺麗に洗ってやったようにしか見えない。


では、火か、風か、雷か……、どれもなんだか効きそうにない。うーん、どうしよう?

そうこうしているうちにもゴーレムは近づいてくる。その足音が、地面を震わせる。


仕方ない、俺はキョロキョロと投げられそうなものを探す。小川のところにスーツケースくらいの岩があるので、岩をよいしょと持ち上げた。


草原の向こうからズシン、ズシンとすごい速度でゴーレムは駆けてくる。


俺はサッカーのスローインみたいに岩を頭上に持ち上げると、「セイヤッ!」と掛け声かけてゴーレムに投げつけた。


ドン!


岩は音速を超え、隕石のようにゴーレムに直撃する。


ドォン! という激しい爆発音とともにもうもうと爆煙が吹きあがった。その衝撃で、周囲の草が大きく波を打つ。


パラパラと破片が降ってくる。どうやらゴーレムは粉々に砕け散ったようだ。


「あー、やっぱり岩には岩がいいみたいだ」


俺はニヤッと笑った。


その後も何匹か魔物を倒しながらみんなの所を目指す。魔物はみなレベル百オーバーであり、かなり強い。中堅パーティでは到底勝ち目がない。一体ここは何階なのだろうか?


遠くに仲間たちの姿が見えてきた。何とかこのままバレずに無事に帰りたいものだが……。


俺は慎重に速度を抑え、仲間たちへと駆け寄っていった。





「階段ありましたよー!」


俺は手を振りながら叫ぶ。


エレミーは駆け寄ってくると、俺の様子を見て驚いた。


「ユータ! あれっ! 服が焦げてるじゃない! 大丈夫なの?」


涙を浮かべたエレミーの瞳には、深い心配の色が宿っている。


「え?」


俺はあわてて服を見ると、革のベストが焼け焦げ、ヒモもちぎれていた。


ハーピーにやられたことをうっかり忘れていたのだ。


「ユータ、ごめん~!」


涙声でそう言うとエレミーはハグしてくる。


甘くやわらかな香りにふわっと包まれ、押し当てられる豊満な胸が俺の本能を刺激してしまう。


いや、ちょっと、これはまずい……。俺の心臓が高鳴り、頬が熱くなる。


遠くでジャックが凄い目でこちらをにらんでいるのが見えた。その視線に、俺は居たたまれない気持ちになる。


「あ、大丈夫ですから! は、早くいきましょう。魔物来ちゃいますよ」


俺はエレミーを引きはがした。


「本当に……大丈夫なの?」


エレミーは服が破れてのぞいた俺の胸にそっと指を滑らせる。


おふぅ……。


その指の感触に、俺の全身がふるえた。


「だ、だ、だ、大丈夫です!」


エロティックな指使いにヤバい予感がして、エレミーを振り切ってリュックの所へ走った。心臓のドキドキが止まらない。


「階段はどこに?」


エドガーは、心配そうに聞いてくる。


「あっちに二十分ほど歩いたところに小さなチャペルがあって、そこにあります」


「チャ、チャペルの階段!?」


ドロテはそう言うと天を仰いだ。その表情には、深い絶望の色が浮かんでいた。


チャペルにある階段は『呪われた階段』と呼ばれ、一般に厳しい階につながっているものばかりだそうだ。


みんな黙り込んでしまう。その沈黙が、重く空気をしていた。


強い風がビューっと吹き抜け、枝が大きく揺れ、サワサワとざわめく。


「とりあえず行ってみよう!」


エドガーは、大きな声でそう言ってみんなを見回す。


みんなは無言でうなずき、トボトボと歩き出した。その足取りには、隠せない不安が滲んでいる。


アルはひどくおびえた様子でキョロキョロしているので、背中を叩いて元気づけた。


「この辺は魔物いなかったよ、大丈夫大丈夫」


「二十分歩いて魔物が出ないダンジョンなんてないんだよ! ユータは無知だからそんな気楽なことを言うんだ!」


アルは涙目で怒った。まぁ、正解なのだが。


俺は足早にみんなを連れてチャペルへと向かった。












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