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亜季ちゃんだって、未来を変えてでも守りたい物はあったに違いない。
きっと仲村さんの事だって…。
亜季ちゃんは、いつも笑顔で誰にでも優しかった。
でも、その笑顔の裏には誰にも見せていない、辛く悲しい顔があったに違いない。
きっと葵と同じように、とてつもなく重い物を、あのか細い体で背負っていたに違いない。
誰にも言えず苦しんでいたに違いない。
きっと犠牲にしてきた物も沢山あったに違いない。
きっと犠牲にしてきた自分自身も沢山あったに違いない。
僕と葵と遥香の未来を守る為に、自分を犠牲にして苦しみ、悩み、涙したに違いない。
それなのに…あの頃、亜季ちゃんを責めてしまっていた僕がいた。
亜季ちゃんを信じぬいてあげられない僕がいた。
亜季ちゃん僕は……
ふと、顔をあげるとボンヤリと僕を見つめている葵がいた。
「葵…‥」
「・・・・・」
僕の呼びかけに反応する事なく、僕の目をジッと見ていた。
「葵…大丈夫?」
「えっ!? うっ‥うん…」
今、葵がボンヤリと見ていたものは僕なのか?
それともこれから起こるであろう未来なのだろうか?
それとも亜季ちゃんの事を考えていた僕の心の中なのだろうか?
葵を見ていたら不思議とそんな疑問が頭の中を駆け巡った。
「ホームルームが始まっちゃう。早く教室に戻ろう」
「うん…」
そして、最後のホームルームが終わり、入口のドアの前では松下が生徒1人1人に声をかけながら手を握っていた。
僕と葵は列の最後に並び順番を待った。
「先生…3年間本当にありがとうございました」
松下の手を握りながら頭を下げると、熱い物が込み上げてきて、自然と涙が溢れてきた。
「仕事頑張れよ。お前は無愛想だし、人と関わりあいになるのを嫌うから苦労する事も多いと思う。でも、お前は人の気持ちがわかる優しいヤツだし、人一倍努力をする事を惜しまない頑張り屋だ。絶対大丈夫だと先生は信じてるからな」
顔をあげられない僕の背中をさすりながら、松下はそう言った。
「佐藤…お前には言いたい事が沢山ある。でも、今日は止しとく。只、1つだけ聞きたい事がある」
「なっ‥何ですか? 怖いな…‥」
「佐藤、お前…本当にこのままでいいのか?」
「えっ!? どっ‥どういう意味ですか?」
「それは、お前が1番わかっているだろ?」
「・・・・・」
「どうなんだ?」
「いつからですか? どうして?」
「お前なぁ…先生をなめんなよ。伊達に何十年も先生やってきてる訳じゃねえんだよ」
「そうだったんですね…すいません」
2人が話している内容がイマイチ見えてこないけど、どうやら松下は進路が何も決まっていない葵を心配しているようだ。
「先生が、どうこう言う問題ではないが、ツラくないか?」
「ツラいです…」
「そうだよな…ツライよな」
すると松下は静かに葵を抱きしめ、何度も何度も頭を撫でてあげていた。
「お前も私の大事な生徒の1人だ。悩んだり苦しい事があったら、いつでも言ってこいよ」
「はい…ありがとうございます」
2人はしばらくの間、静かに涙を流しながら何も言わず抱き合っていた。