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「これ、形はぐちゃぐちゃだけど……」
卵がスクランブルエッグのようになってしまった不格好なオムライスを廊下に出てきた実里の前に差し出す。
正直見栄えは最悪だとは思う。でも、ケチャップかけたらそれなりには見えるようになったはずだ。
実里はじっとそれを見ている。
「いらない」
弱々しくて消えそうな声。実里の声を聞けたのは久しぶりだった。もっと声が聞きたい。前みたいに話してほしい。
「一口だけでもっ」
実里は無表情で俺の手からオムライスがのった皿を奪い取ると、逆さまにした。
「え……」
べちゃりと床にオムライスが無惨に落ちている。
顔を上げると、実里から冷酷な眼差しを向けられていた。
「いらないって言ってるだろっ! 」
叫ぶと同時に響いた皿の割れる音。床に叩き付けられた皿が砕け散った。
「実里……」
俺を嫌悪するように睨みつけると背を向けて自分の部屋に戻っていった。
……自業自得だ。
兄なのに俺はあの時、何もできなかった。
この日、実里との間に大きな亀裂が入ってしまっていることを思い知った。
閉じてしまった心はそう簡単には開けられない。でも、めげちゃダメだ。今度はもっと上手く作ろう。
実里が食べたいって思えるくらい美味しそうなやつを。
それから、毎晩遅くまで料理の本を読んで、器具の名前や使い方も覚えた。
実里はオムライスが大好きだ。だからチキンライスの中に細かく刻んだ野菜をいれれば栄養たっぷりだし、きっと元気になるはず。
ピーマン、人参、玉葱……えーっとあとは何いれよう。
ケチャップ以外にも、ソースって種類があるのか。どのソースをかけよう。
実里、どうしたらまた笑ってくれる?
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