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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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僕の存在を証明できる通行証を、初めて手にして感動していたけど、ふとあることに気づいて顔を上げた。

目を細めてずっと僕の髪を撫でていたリアムが、僕と目が合うと「ん?」と首を傾けた。

「どうした?」

「ねぇリアム…名前の最後にバイロンって書いてあるよ…」

「うん、それが?」

「僕の本当の名前はフィル・ルナ・イヴァルだ。王族だから最後に国の名前がつく。…ということは、リアムはバイロン国の…」

「あれ?言ってなかった?俺はバイロン国の第二王子だ」

「えー…」

僕は驚くよりも呆れて脱力する。

リアムの持ち物は高級品ばかりだし、高貴な者にしか現れない金髪だし紫の瞳だし、自信たっぷりだし、王を支える大臣の息子かなぁくらいに思っていた。だって王子が家来も連れずに他国を旅する?しないでしょ?大切な跡継ぎだよ?何かあったらどうするの。

そんなことを考えていたら、つい口に出してしまった。

「王子なのにリアムは一人で旅をしてたの?いいの?」

「いいの。王子といっても俺は第二王子だ。跡継ぎの兄には自由がないが、気楽な俺は好きなことができる。兄には悪いが…」

「でも家来も連れないで…」

「家来よりも俺の方が強いからな。連れて行くと邪魔になる。それに俺はあの城に…」

「なに?」

「あ、いや。なんか腹が減ってきたな。フィー、早く宿に行こう」

「そうだね。どこに泊まる?」

「当然、この辺りで一番高級な宿だ」

「ええっ?」

普通の宿でいいよと口を開く前に、リアムに抱えあげられてロロに乗せられてしまう。

僕が手綱を握ったのを確認すると、リアムも軽やかに馬に乗り「こっちだ」と走り出した。

「結局ほんとに一番高級な宿に来ちゃった。リアムがこういう所じゃないと休めないとかじゃなくて、僕のためなんだろうな…」

ブツブツと呟きながら全身を綺麗に洗って身体を拭き、ついでに風呂場に置いてあった香油も塗りこんだ。旅のせいか所々かさつく箇所ができていたからだ。

城にいた頃は、姉上の代わりとして常に綺麗にしていなければならなかった。だから毎夜、僕を男と知るラズールに香油を塗ってもらっていた。今はもう女のふりをしなくてもいいのだから、少しの肌荒れくらい気にしなくていい。だけどリアムの前では、綺麗な肌でいたいと思った。

「ん、いい香り…」

ベッドでうつ伏せになっていた身体を仰向けにして、腕の匂いを嗅ぐ。香油の花のような甘い香りがとてもいい匂いで、気持ちが落ち着く。

リアムが高級な宿を選んだのは、たぶん僕をちゃんと休ませるため。動けるようになったけど、まだ腹の傷が痛む時がある。リアムに心配をかけたくなくて「大丈夫だよ」と言ってるけど、リアムはわかってるんだ。だから「俺が泊まりたい」と言ってこの宿に来た。リアムは野宿だって平気だったのに。むしろ楽しそうだったのに。

「本当に優しい…。かっこよくて優しくて強くて、しかも王子だよ?きっと国ではたくさんの女の人に囲まれてたんだろうな」

ふ…と目を細めた僕の脳裏に、女の人に囲まれていたラズールの姿が浮かんだ。

そういえばラズールも人気があった。日に当たると青く光る黒髪で、少しつり目の大きな琥珀の瞳で見つめられると嬉しかったな。いつでもどこでも僕を見ていてくれて、安心したな。

「ラズール…今、幸せ?」

「その男の名は口にするな」

「リアムっ」

ズシリとベットが沈んで、リアムが隣に寝転ぶ。そして僕の方を向き肘を立てた手で頭を支えながら、空いた方の手で僕の頬に触れた。

僕の頬に触れる温かい手の上に僕の手を重ねる。リアムの顔がまるで子供のようにねてるから、僕はおかしくて吹き出した。

「ふふっ、なんて顔してるの」

「…面白くない」

「ラズールのこと?」

「またその名を口にした」

「ごめんね?」

僕が謝ると今度は眉尻を下げて困った顔をする。そして僕の頭を抱き寄せる。

「リアム?」

「俺の方こそごめん。フィーを突き放すような態度を取ったくせに他の奴の名を聞いて怒って…勝手だよな」

「ううん…嬉しい。国では僕のことを気にかけてくれる人なんて、ラズール以外いなかったから…。僕のことでそんな風にしてくれるの、嬉しい」

僕も遠慮がちにリアムの背中に腕を伸ばす。

するとリアムが「もっとくっつけよ」と言って、僕の頭にキスをした。

僕は頷いて腕に力を込める。リアムと身体が密着して体温が心地いい。

「眠いのか?」

「…こうしてると気持ちいい。安心する。僕、リアムにこうされるの、好き」

「フィー…おまえは色々と気をつけないと危ないぞ」

「なんのこと?」

少しだけ顔を離して見上げると、リアムが更に困った顔をしていた。

僕よりも大きな指で目の下を撫でられて、たまらず目を細める。僕の好きな紫の瞳が近づき鼻先にキスをされる。

「ん…」

「フィーはまだ、俺のことを好きかわからないだろ?なら不用心なことを言ったらダメだ。俺に襲われるぞ」

ふっ…と笑ったリアムの息が、僕の頬に当たる。それがこそばゆくて僕は肩をすくめて笑った。

「ふふっ、くすぐったい。大丈夫だよ。リアムは僕の気持ちを無視して襲ったりなんかしない」

「おまえな…」

「それにね、幸せな気持ちがどういうものかわからなかったけど、今こうしてリアムの腕の中にいるの、胸の中が温かくて気持ちいいんだ。これが幸せってことなのかな?」

「…俺はフィーが好きだ。だから触れたくて抱きしめてしまう。だが少しでも嫌だと感じたら突き飛ばしてくれていいんだぞ?」

「少しも嫌じゃないよ?」

「うっ…、俺は試されてるのか?」

「なにが?」

リアムが困った顔から凛々しい顔つきになって、僕の頬を両手で包んで見つめてくる。

あまりにも真剣に見つめられて、僕は恥ずかしくなり俯こうとする。でもリアムの両手がそれを許してくれない。

「はあ…おまえは本当に不用心すぎる。なあフィー、これは嫌か?」

「え…」

リアムの顔が近づき、僕の額と頬にキスをする。

ちっとも嫌な感じはなくて、むしろ触れる唇が柔らかくて気持ちがいい。そのことを素直に口にする。

「嫌じゃないよ…。リアムの唇は柔らかいね」

「はあ…ほんとに…」

「ん?」

リアムが俯いて何か呟いている。でもすぐに顔を上げて、今度は僕の唇にキスをした。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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