「こんにちは、いらっしゃい。今、良子ちゃんと珈琲入れているので少し待って下さいねー」
台所から一歩出て明るく言ったチカさんが、戻って来るとにっこりと私に微笑む。
私は手にした珈琲カップをそのままに台所から半歩出ると
「お父さんお母さん…ちょっと待ってて」
そう言いチカさんのところへ戻る。
「ゆっくり頼むよ、良子。ゆっくりで」
お父さんの声の後、お兄ちゃんが座るように言っている。
颯ちゃんの声もする。
「良子ちゃん、プリンこのままでいいよね?お皿とかいる?」
「いらないと思う」
チカさんがケーキ屋さんの箱を開けて私に聞く。
「わぁ、大きい箱だと思ったらプリンだけじゃないの?」
「シュークリームもね、注文したらクリームを入れてくれるの。プリンを待つ間に注文した人を見て買っちゃった。でも、シュークリームは4個だけで売り切れたから」
「十分よ、良子ちゃん珈琲運べる?」
「うん」
「じゃあ行こう。お待たせしましたぁ、出来立てプリンとシュークリーム。どちらをお召し上がりになりますか?良子ちゃんと颯佑くんのお土産です」
皆の前に開いた箱を置き、出来立ての説明をするチカさんを目指してそろりと珈琲を運ぶと、お兄ちゃんが立ち上がりトレイごと受け取ってくれた。
「どちらって難しい選択ね…」
お母さんは私を見てにこやかに笑う。
「シュークリームが4個で売り切れたの。私と颯ちゃんは半分ずつでいいよね?」
「リョウのを一口もらう。売り切れるシュークリームの実力が気になるからな」
「私とお父さんも仲良く半分にするわ。プリンを頂くからね」
こうして互いに何事も無かったように話を始める。
「俺とチカ、来月入籍する。チカの誕生日に」
「「おめでとう」」
私と颯ちゃんの声が揃い、フフッ……と顔を見合せた。
「ご両親には伝えた?」
「まだです。今日、このあと伝えます」
お母さんにチカさんが答えると
「ずいぶん長い間…本当にごめんなさい」
お母さんがチカさんに謝る。
お父さんが
「やめなさい」
と言い、すぐにお兄ちゃんがきっぱりと強く言った。
「これが俺とチカのベストタイミングだ。誰に何を左右されたわけではない」
「そうなんです。私が月一度の日曜日のお休みを取れるようになったのもこの夏ですから。今なんです」
チカさんも続けて言い、颯ちゃんは私に小さく‘食え’とプリンを差し出した。
カリカリッとしたキャラメルを割ると柔らかいプリンがスプーンに当たる。
私がそのどちらもをスプーンに乗せ口へ運ぶと
「忠志くん、お祝い何がいい?」
颯ちゃんがお兄ちゃんに聞いた。
「リクエストしていいの?」
そう聞き返したのはチカさんだ。
「適正価格でお願いします」
颯ちゃんが膝に手を置き頭を下げると、お父さんが一際大きく笑う。
「一番大切なところだよな、颯佑くん」
「お掃除ロボットは…お願いできる?椅子の間にも通る小型のものが欲しいんだけど」
「知らないんで検索します。リョウ、値段知ってる?」
スマホを出しながら聞かれるが、全く知らない。
「知らないけど…颯ちゃんと一緒にお祝いするから買えるんじゃない?」
「これで買ってしまう?」
「チカさんに選んでもらう?」
私と颯ちゃんが頭を付き合わせてスマホを覗いていると
「二人はすごくお似合いね」
とチカさんが言ってくれた。
「お祝いもいいけど…」
お母さんがスプーンを置いて遠慮がちに口を開く。
「結婚式はどうするつもり?」
コメント
1件
お母さん😅でもずっとそう思ってたことだものね… からの結婚式… やらないんじゃないかな… そうだとしたらお母さん大丈夫?