「前にも式の予定はないと伝えただろ?年末年始の休みに沖縄へ旅行に行って、フォトウェディングだけにしようと思う」
「…それは…ご両親はご了承された?」
お兄ちゃんの返事に、お母さんはチカさんへの質問をする。
「はい、以前から了承済みです」
「そう…それならいいんだけど」
歯切れの悪いお母さんを気にする様子もなく、チカさんは
「ねぇ、良子ちゃん。今日みたいに休みの日ってすっごく家事するの?それともゴロゴロするの?」
と、私にニコニコと聞いてくる。
「すっごく家事するってことはないかな…颯ちゃんが仕事の日は一緒に朝食を食べてから普通に家事して、お昼寝することもあるし」
「そうよねぇ。私も今日起きたのお昼前だった、ふふっ」
「二人ともフルタイムで働いているんだから、休日はゴロゴロでいいだろ?なぁ、颯佑」
「いい、いい。俺、パジャマで‘いってらっしゃい’とか言われるの好き」
「ユルいの最高」
「二人の共通点はっけーん」
チカさんが拍手し、なんだか皆で盛り上がってきた。
いや…3人が盛り上がっている。
「それぞれ仲良くやってくれていたら言うことなしだ。そうだろ、母さん?」
お父さんがお母さんに言うと、お母さんは頷きながら
「パジャマでいってらっしゃいとか…あり得ないけど…いいならいいのよね…」
何とか理解しようとしているようだ。
「母さん。母さんが家のことを完璧にしていたのはわかっている。でもどの家族にも、それが普通かというとそうではないんだ。チカよりも俺の方が料理の回数は多いし、洗濯することもある。母さんには無かった生活だけど、これが俺たちの普通だから。颯佑と良子も同じだろ?休みが合わなくても仲良くうまくやってるんだ、二人で協力して」
「そうだよ。俺の定休日には平日だけど夕方デートするしね。いってらっしゃいがパジャマでもスーツでも関係ないんだ。リョウがご機嫌で‘颯ちゃん’って言ってるのが一番大事なこと」
颯ちゃんはそう言って私の頭を撫でると
「おばちゃん、何も心配しないでリョウを俺に任せて。ずっとご機嫌だよ、リョウ」
お母さんにそう言った。
「じゃあ、俺の貴重な日曜なんでデートするから帰る」
「いいわね。良子ちゃん、どこ行くの?」
「自転車屋さんを見てから、輸入食品店」
「「「「自転車屋さん?」」」」
私と颯ちゃん以外の声が揃い可笑しくなる。
「颯ちゃん、たまに自転車屋さんを見に行くの。チェーン店でない自転車屋さんがあれば…ここへ来るときに見つけたから覗くんだよね?」
「そう。ママチャリ以外の自転車、どんなの扱ってるか見に行く」
「仕事熱心だな、颯佑くん」
お父さんが驚いたように言う。
「自転車いじるのが好きだから、趣味の延長かも。で、輸入食品店はうちの近くにないから寄って帰る」
「美味しいお菓子とかあるものね。私も定期的に行く」
「うん。じゃあチカさんお兄ちゃん、ありがとう」
私と颯ちゃんが立つと、お母さんが
「そのお店、どこにあるの?私も一緒に行こうかしら」
と言う。
「母さん、もう少しここに居て。今からチカの両親に電話するから。入籍するときに母さんたちと揃って食事は考えてる。今その相談してしまうから、まだ居て」
お兄ちゃんがお母さんに言うと、それはそうね…とお母さんが座り直す。
「良子ちゃん、月曜日が祝日なら私お店が休みなの。颯佑くんは仕事でしょ?今度ランチしようね」
玄関へ見送りに来てくれたチカさんが言ってくれる。
「良かったな、リョウ」
「うん。チカさん、ありがとう」
「チカさん。お掃除ロボット、プレゼントします」
「やったー、待ってるね」
たった1時間ほどだったが少し疲れを感じ、外へ出るとふーっと息を吐いた。
何かを言われたわけではないけれど、何か……心がざわつく時間だったな。
「お疲れ、リョウ。俺もリョウと同じタイミングでざわついたけど、その度に忠志くんが回収してくれた。さすがリョウの兄ちゃんだな」
颯ちゃんは私の手をぎゅっと一度強く握りしめ、ゆっくりと手を引くように歩き始めた。
コメント
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おかーぁさーん!!!そこは一緒にじゃダメなんですよ〜!!! お兄ちゃんが回収してくれたけど中々ねぇ…ざわついたね… 気を取り直して、自転車屋さん行って、輸入車食品店で沢山買っちゃお〜٩(ˊᗜˋ*)وィェーィ♬*゜何買う〜?ʓԽʓԽ♪♪