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「ええ、あのホテルはよく利用しているので、見知ったスタッフが対応をしてくれましたから」
当たり前のように話す彼に、
「そういうことじゃなくて……」
と、やや困惑気味に告げる。
「どうかされましたか?」
「……。スウィートルームなんてそんなところ……今日は、普通の日なのに」
狼狽しきりで口にすると、
「ああ、そんなことでしたか」彼が微笑んで、
「けれど、今夜は普通の日ではありませんので」
言い含めるかのように、そう話した。
「でも……今日は、何もないはずでは……」
彼の意図が全くわからずに呟く。
「言いましたよね? 上書きをするのだと」
彼が言い、ホテルの外壁に追い詰めた私の顔を挟むように両手を突くと、
「……今夜は、抱いてあげますから。いつかの夜よりも、優しく……」
肘を折り曲げて、耳元にふっと唇を押し当てた。
「……だって、そんな……」
「私に、抱かれたくはないんですか?」
首筋に微かな熱を孕んだ口づけが落ちる。
「ん…そういうことじゃなくて、だから……」
「いいんですよ。あなたは、私に全てを委ねていれば。そうすれば、甘く蕩ける程に……」
そう低めた声で囁いて、私の髪を手の平ですーっと撫で下ろすと、
「……こうして、抱いていてあげますから」
両方の腕で、ぎゅっと強く背中を抱き寄せた。
壁際で私の身体を覆うようにして、ブラウスのボタンを一つだけ外すと、片手で引き開けた素肌へ唇で触れて、
「……死ぬほど、愛してると言ったでしょう?」
ちゅっと吸い上げると、鎖骨のそばへ紅く痕を残した。
「あなたを抱かなければ、死んでしまう」
すっかり熱にあてられ何も言えなくなる私を連れ、ホテルの中へ入りロビーを抜けると、彼はエレベーターホールを素通りして、通路の行き止まりにある両開きの扉を押し開けた。
「……ここって」
エレベーターは向こうにあったのにと、不思議にも思っていると、
「エグゼクティブフロアへの専用ホールです。ここからこのカードキーでセキュリティロックを解除して、エレベーターで上階へ行くんです」
彼が持っていたカードキーを、私に見せた。