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ふと、桃華が手を上げた。
「このまんま、ここでももたろーまってるの?いままでどおり『うけみ』?になっちゃわない?」
守が得意気に親指を立てる。
父親によく似たその顔には悪どい、それこそラスボスのような笑みが浮かんでいた。
心なしか、「ゲヘヘ」と笑っているように聞こえる。
「受け身は受け身でもただの受け身じゃあない…。か弱い女子を殴った上に散々バカスカ言いやがって桃岩深夜…一矢報いてやるから首洗って震えて眠れ…」
清々しいほどに私怨も混ざった守の説明は桃華を震え上がらせた。
(なにをしたら、こんなにおねえちゃんをキレさせられるの…?)
捕らわれていた間のことは姉はおろか、皇后崎からも聞いてはいない。
けれど、命知らずな桃太郎がいるのだけは分かった。
「じんくん、おねえちゃんブチギレてるよ…」
「姉は怒ると恐ぇ。どこでも同じだ…」
「何してんの?説明するよー?」
何でもないように振る舞う頬には青筋が浮かんでいる。
相当桃岩深夜が許せないらしい。
真澄が溜め息をついてから守に言った。
「お前の相手はそいつじゃねぇぞ」
「知ってるってば。…でもアイツ許せねぇ~!女の子殴りやがって~!」
守は腕をバタバタと振りながら全力で不服を表現するが、きれいさっぱりと無視して真澄は広げた地図に指を沿わせる。
「あっちも手札が揃ったら動くだろ。桃とのご対面も近い。本来なら引っ込んでろと言いてぇが、練馬の桃が100%動く保証がない限り練馬の戦闘部隊は動かせねぇ」
始めに守を見てから真澄は生徒と妹達を見回す。
「お前らが頼りだ。死ぬんじゃねぇぞ、ちんちくりんども」
その言葉に、守は自分を指差して「あれ、俺もちんちくりんカウント?」と呟いた。
_地下、扉の前。
桃岩深夜は不快な笑みを浮かべながら携帯端末を眺め、位置を確認する。
位置情報は現在地点を指しており、深夜の能力でそれは決定的なものとして『視』えていた。
(全部、覗かせてもらったぜ)
自分の細菌を相手の体に取り込ませ、相手の視界を自由に見る事ができる能力。応用で、自分の視界も見せることが可能である。
守達は、監禁されている時に細菌を取り込ませられたのだった。
(途中で神示守の映像だけ見られなくなったが、まぁいい。)
それでも、皇后崎の映像はまだ見られたから問題なかった。
(どこに逃げても、俺からは逃げられねぇよ)
鉄の扉を蹴り破る。大きな金属音が耳をつんざいた。
「皆殺しだァッ!」
_誘い込まれているとは、思いもしないで。
どこにも、映像で見たたくさんの鬼の姿はない。
誰も、いない。
「いる、はずだ…。そこに、確かに…!」
自分達、桃太郎以外いない地下に寂しく声が反響する。
視界を覗き見ようとすると、頭痛と同時に、何かに殴り飛ばされた。
そちらを見ると、守が笑みを浮かべて拳を振り抜いたまま口を開く。
「お前が来るって聞いてさぁ…。我慢できなくなっちゃった」
背後から、カツカツと二つの靴音が響く。
現れたのは能力で姿を消していた真澄と皇后崎。
真澄は「待てもできねぇのか」と毒を吐いた。
「ごめんって…。どーしても一発ぶん殴りたかったんだよ…」
守はしゅんとしおらしく肩をすくめながら真澄達の元へ戻る。
真澄は呆けている深夜を見ると、「顔からして腐っている」と驚くほど失礼な暴言を吐き捨てる。
殴られて赤くなった頬をそのままに狼狽える深夜の姿は散々辛酸を舐めさせられた側としては実に面白い。
ぞろぞろと配管などの物陰から海や四季、桃華など、生徒達と妹達が出てくると阿呆の様な顔がさらに阿呆面に変わっていく。
守がにこりと笑って言った。
「やっぱ、『覗き見』できるんだね」
皇后崎の後ろから桃華が「じんくん!ちょっとかして!」と何かを受けとる。
その瞬間。
「おねえちゃんと、じんくんのかたきぃ!」
「死んでねぇよ」
桃華が投げた何かが皇后崎のツッコミと共に深夜の顔面へクリーンヒットする。
かつんと軽い音を立てて転がったのは、黒いVRゴーグルだった。
ガッツポーズをする桃華を真澄が「よくやった」と撫でる。
真澄は元々つり上がっている口角をさらにつり上げ、嘲るように深夜へ言い放った。
「お前が見ていたのは_VRだよ、バーカ」
守は皇后崎の肩に「大成功~」と肘を乗せ、うりうりと頬をつつく。
桃華も「ほめて!」と皇后崎に抱きついた。
「アンタが見てたのは偽物だったってわけ」
「ざんねんしょー!」
無邪気に余った袖を振り上げる桃華。相手を煽るつもりは無いが、悪意はマシマシである。
「_ッ!」
突如として、深夜が逃げ出した。
追いかけようとするが、褐色肌の桃太郎によって邪魔をされる。
桃太郎は無陀野と戦いたいらしいが、その桃太郎_桃角桜介との戦闘は守に丸投げされた。
桜介は、守に唾を吐きかけた。
「相手はひょろいナヨナヨした男かよ」
「女ですが何かありまして??」
その言葉は守の血管を切れさせ、殺気を出させるには十分な効力を発揮した。
腰まで届くポニーテールを結び直し、 ひくひくと口の端をひくつかせながらナイフホルダーから2本、ナイフを取り出す。
桜介は言った。
「誰だか知らねぇが、お前にとって、無陀野は強いか?」
質問の意図が分からず、「まぁ、強いでしょ」と構えながら答える。
桜介はにやりと笑った。
「じゃあ、その強さに苦しめ!」
黒い細菌が霧のように『何か』を形作る。
「_【雨過転生】ッ!」
言葉と同時に、兄と慕う無陀野と同じ、弓を構えた騎士達が無数に現れた。
騎士達は弓を引き、守に照準を合わせる。
守の頬に一筋の冷や汗がつたった。
「まーじでー…?」
あとがきです。こんにちは。気づいたら桃岩深夜がすごく可哀想なことになってました。桃岩深夜推しの方、ごめんなさい。この場で土下座いたします。
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コメント
1件
うわ、第36話、めっちゃ熱かったです…!🔥 守が深夜に一発かましたシーン、思わず声出しました。でも何より、みんなで連携してVRで騙す作戦が成功したところが痛快で、桃華ちゃんの「おねえちゃんと、じんくんのかたきぃ!」に胸が熱くなりました。最後の桜介の「雨過転生」は不気味すぎて、続きが気になって仕方ないです…!
藍咲
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#四季愛され
+ * 優 乃 _ .
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