テラーノベル
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夜、花斗が寝静まった後。私は壱月と、いつもの大窓のソファに座った。
私に聞きたいことがあるらしい。
「さっきのこと、でしょ?」
私が聞くと、壱月は曖昧な笑顔で頷いた。
「あんな夢持たせて、いいのかって……こと?」
壱月はまた頷いた。今度は、深刻そうな顔をしている。
「愛音は、どうやって花斗に伝えるつもりなんだろうと思って」
彼の言葉に、私は小さく頷いた。
「私、今までパイロットになれるだなんて、花斗に言ったことなかったの。それに、聞かれても『なれるよ』なんて、安易に答えたこともなかった。でも――」
そこまで言うと、私は壱月に笑みを向けた。
「壱月が憧れのパイロットだって知って、花斗、すごく笑うようになった。だから今だけは、言ってもいいかなって思ったの」
すると、壱月はきょとんとする。
「そうか?」
そうだよ、と、私は胸の内で言いながら頷いた。
花斗の笑顔を引き出したのは、悔しいけれど〝パイロット〟である壱月だ。それで、私は嫉妬したんだから。
そんな気持ちに苦笑いをこぼしつつ、私は言葉を続ける。
「花斗の夢は、パイロットになること。今は、それでいいんじゃないかなって思ってる」
「でもさ……」
否定の言葉を口にしかけた壱月に、私は静かに首を横に振った。
「じゃあ、壱月は花斗の夢の芽を、摘んじゃえる?」
言いながら、壱月をじっと見つめた。
すると、彼ははっと目を見開いて、それからふっと笑った。
「やっぱり、愛音は強いな」
「そうかな?」
「うん、強い」
言いながら、壱月はこちらに体ごと向き直る。
「愛音、明日休みだったよな?」
「うん、そうだけど……」
唐突な話に戸惑っていると、壱月は「じゃあ……」と、スマホをポケットから取り出しその画面を私に差し出した。
「これ、行かないか?」
スマホを受け取り画面をスクロールしていると、壱月は続けた。
「うちの会社のイベント。ファミリーデーってことで、身内限定だけど」
なるほど、壱月の勤める大手航空会社、NALJ(National Air Line Japan) のロゴが並ぶ画面に、子どもたちが楽しそうに色々な体験をしている複数の写真が映っている。
「家族に、感謝の気持ちを伝えるイベントなんだ。それから、仕事を知ってもらう意味もある」
彼の言葉に、スマホから顔を上げる。壱月は優しい笑みを浮かべていた。
「飛行機に関わる仕事は、パイロットだけじゃない。他にも山ほどあって、皆がチームになって飛行機を飛ばしているんだって、花斗に知ってもらいたいと思ったんだ。……愛音が花斗の夢を応援しているの見て、思い出した」
壱月の気持ちは、とても嬉しい。
だけど、これって家族限定なのでは?
そんな私の心を読んだかのように、壱月は続けた。
「ここの受付、そんなに厳しくないんだ。……もしなにか言われたら、愛音は俺の〝婚約者〟ということにすればいい」
「ちょ、婚約者って!」
急に頬が熱くなり、慌てて両手で頬を包む。そんな私を見て、壱月はケラケラ笑った。
コメント
1件
うわあ、これは胸がぎゅっとなるエピソードでした……!花斗くんの笑顔を引き出したのが“パイロット”である壱月で、愛音さんが嫉妬しつつも「それでいい」と認める場面、すごく人間味があって好きです。ファミリーデーの提案も、壱月なりに花斗くんの視野を広げてあげたいって優しさが伝わってきてほっこり。婚約者発言には思わずにやけました(笑)。次が気になります!