テラーノベル
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私は壱月の運転する車に、花斗とともに揺られていた。
「ひこうきひこうき、でっかいぞ~ふふんふ~ん♪」
乗ったこともないくせに、花斗が謎の飛行機ソングを歌っている。とうやら、気分は絶好調のようだ。
私たちはこれから、羽田空港へファミリーフェスタに向かうのだ。
今朝、空港で飛行機のイベントがあるよと花斗に告げると、さっそく花斗はジャンプして喜んだ。
朝ごはんを食べてから階下の駐車場に向かうと、壱月の車にはいつの間に買ったのか、チャイルドシートがついていた。
おかげで花斗は、「ここ、ぼくのせき!」とテンションだだ上がりだ。
「もうすぐ着くぞ」
スカイブリッジを越えたあたりで、壱月がそう言う。
花斗が「わーい!」と飛び上がりそうな勢いで万歳をするから、私と壱月はつい苦笑を浮かべてしまった。
やがて、私たちはファミリーフェスタ会場にやってきた。
空港のバックヤードに入れるとあって、花斗は緊張の面持ちだ。
繋いだ私の手を引っ張りながら、壱月と並んだ私の少し後ろを歩いている。
壱月の社員証で、彼の会社の中に入る。受付の人たちは皆にこやかで、何事もなく中へ入れたことにほっとした。
「花斗、ここからは花斗の行きたいところに行っていいからな」
さっそく、壱月がしゃがんで花斗に笑みを向ける。
だが花斗はキョロキョロと辺りを見回して、困惑の表情を浮かべた。
「なにがあるか、わかんない」
花斗はもじもじとそう言った。
引っ込み思案なうえ、花斗はまだ三歳だ。簡単なひらがなくらいしか、読むことができない。
「あれなんか、どうかな?」
私は、『飛行機操縦シミュレーター』の看板を指差した。
すると、壱月の笑みがなぜか引きつった気がした。
「なあに?」
花斗はその方向をじっと見つめたまま、私に尋ねる。
「飛行機の操縦の、練習ができるんだって」
花斗に返すと、壱月がすぐに口を開いた。
「さすが愛音、お目が高い」
「え?」
「一番人気のブースだ」
壱月は言いながら立ち上がり、私の耳元で小さな声で続けた。
「あそこ、俺の部署の管轄なんだ」
はっ! そうだ、壱月はパイロット!
壱月の部署ということは、壱月の同僚がいるわけで……。
「ママたち、おそい!」
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その声にはっと視線をあげると、花斗はすでにそのブースへと一直線に駆け出していた。
花斗は吸い込まれるように、ブースの中に入ってしまった。
私も慌てて追いかける。
「ちょっと、花斗――」
言いかけて、黙った。私も圧倒されてしまったから。
操縦席を模した席と、その前に大きなテレビ画面のようなモニターが三つ。
そこには空が映し出されていて、横には『飛行機の着陸体験をしてみよう』の文字が書いてある。
「おうちの人と一緒にやろうね」
花斗は操縦席に座ろうとして、近くにいたお兄さんに止められていた。
あれ、彼、どこかで……?
「おにいさん、パイロットさん?」
「そうだよ」
制服から判断したのか、花斗はキラキラした視線をお兄さんに向けている。
私は慌てて花斗の隣に行き、「スミマセン」と頭を下げる。
「いえいえ」
お兄さんはにこっと微笑んで、それからしゃがんで花斗に視線を合わせた。
「きみ、やってみるかい?」
「これ、なに?」
「飛行機の、着陸するところが体験できるんだ」
「やる! やりたい! やる!」
花斗はぴょんぴょん跳び跳ねて、早速操縦席に座る。
「お子さん小さいので、お母さんも一緒に……」
「はい。……できるかな」
つい不安になりこぼすと、パイロットさんは優しい笑みを浮かべて言う。
「大丈夫ですよ、僕の声に合わせてこのレバーを手前に引くだけなんで」
なるほど、それなら私にもできそうだ。
安心して操縦席の右横に立ち、花斗の手をレバーにのせてあげた、その時だった。
「いつきがいい!」
花斗が私の手を払い、そう言った。
えー、今それ言う!?
壱月はさすがに気まずいのではないかと、ブースの外で待っていてもらっている。
「いつきー! いつきやろう!」
そんな大声を出せば、もちろんブース内に壱月が現れるわけで。
頭を抱えていると、壱月の声が後方の入り口から聞こえた。
「どうした、花斗?」
「いつき、いっしょにやろう?」
花斗がニコニコしながら壱月を振り返り、そう言う。だが私の目の前で、パイロットさんは目を見開いていた。
「海野キャプテン!?」
コメント
1件
もう、花斗くんの「いつきがいい!」で声出して笑っちゃいました😂 三歳児の気まぐれって、ほんと読めないですよね。でもそうやって壱月さんを信頼してるのが伝わってきて、なんだかじーんときました。最後の「海野キャプテン!?」で、パイロットさんが壱月さんに気づくシーン、次の展開がすごく気になります! 家族のあたたかさと、プロフェッショナルな世界が交差する、素敵なエピソードでした✈️