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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.3 知ってしまった日から
《🎼🍍side》
昨日のように覚えてる。
まだ、父さんが病気だなんて考えたこともなかった頃の日常。
でも、それはほんの一瞬で溶けていった。
🎼🍍「………ん」
目を覚ます。
布団の中で、隣で眠る父さんの方に体を向ける。
少し体を起こして、指先を父さんの鼻の下に置く。
あたたかい空気が、あたる。
それを確認して、やっと呼吸の緊張がほぐれる気がした。
*
父さんが“病気”だと知ったのは、
本当に、何でもない日のことだった。
父さんは、いなかった。
🎼🍵「ちょっと出かけてくるね」
そう言って、朝早く家を出ていった。
仕事にしては、服が違った気がしたけど、
俺は何も聞かなかった。
テーブルの上に、
白い紙の束が置いてあった。
いつもなら、触らない。
でも、その日は、
コップを取ろうとして、目に入ってしまった。
文字は、よく分からなかった。
漢字が多くて、
難しい言葉ばかりで。
でも。
太い文字で、
はっきり書いてあった。
───病気。
それだけは、読めた。
🎼🍍「…びょう、き…?」
声に出した瞬間、
胸の奥が、すとん、と落ちた。
ページをめくる。
よく分からない数字。
検査。
診察。
日付。
病院の名前。
それ以上は、怖くて見られなかった。
紙を、元の場所に戻す。
何も、見なかったふりをする。
でも、
一度入った言葉は、
頭から、離れなかった。
*
それから、父さんを見る目が変わった。
夜、同じ部屋で寝ているとき。
父さんの呼吸が、少し乱れる音。
喉の奥で、押し殺すみたいな咳。
トイレの、水の音。
吐いているような、
苦しそうな声。
前なら、
「大丈夫?」って聞いていた。
でも、聞けなかった。
──病気。
その言葉が、
全部を、つなげてしまったから。
父さんは、何も言わない。
だから俺も、
何も知らないふりをした。
*
静かに布団を抜け出して、リビングに入る。
時計を確認すると、朝の8時を過ぎていた。
何となく、足を止めて寝室の方に体を向ける。
少し扉が空いた寝室。
父さんの顔は見えないけれど、布団が上下にゆっくり動いているのが見えた。
父さんは、まだ寝ている。
寝てていい。
息をしているだけで、十分だから。
俺は迷わず、いつものように台所に立つ。
父さんが病気だと知った日から、
俺は、家のことをやるようになった。
料理。
洗濯。
掃除。
最初は、父さんの真似だった。
今は、少しだけ自分で考えられる。
フライパンを出して、火をつける。
……父さん、起きたら食べられるかな。
多分、前の日常だったらまだ寝てる。
それに、こさめといるまとまた遊んでる。
でも、前みたいに頻繁には遊ばない。
父さんのそばにいないと、
いなくなっちゃう気がして。
しばらくして、背後から足音。
🎼🍵「…ひまちゃん?」
振り返ると、
父さんが立っていた。
少し、ふらついている。
🎼🍍「…おはよ、父さん。まだ寝てて良かったのに」
🎼🍵「おはよう、そろそろ起きないと仕事の日がきついからねぇ」
父さんは少し笑って、コップ一杯の水をゆっくりと飲んだ。
喉がつっかえているのが、何となくわかった。
だから、言おうとした。
🎼🍍「…父さん」
──俺に、隠し事してるでしょ?って。
でも───
🎼🍵「…ん?どうしたの、ひまちゃん」
言えなかった。
それが、何日、何十日続いてるんだろう。
父さんは、俺が知ってるなんて、思ってない。
気づかれてないって、
信じてる。
🎼🍍「…朝ごはん、あと少し」
🎼🍵「え、ありがとうね」
父さんは、嬉しそうに笑った。
その笑顔が、
少し、苦しい。
🎼🍵「今日はどこか行くの?」
🎼🍍「…行かない」
🎼🍵「…こさめちゃんといるまちゃんとは?」
🎼🍍「遊ばない。」
🎼🍵「…そっか」
申し訳なさそうに、
父さんは、俺の頭を軽く撫でた。
俺は、何も言わない。
父さんが隠すなら、
俺も、隠す。
同じ部屋で眠って、
同じ朝を迎えて。
息をしているか、
毎日、確かめながら。
それが、
俺たちの日常になっていた。
next.♡300
コメント
13件
🍵くんの病気なんだろう… 🍍くんって10歳だよね⁉︎ そんな事考えれるのが大人すぎて… お父さんの🍵くんの病気を聞かないのも全部が大人びてて素敵🥹
やばいやばい(´;ω;`) もう泣いてるんですけど!! どうしてくれるんですか!! さいこうですよ!!
病気だったんだ...😭😭 なつくんが心配してるの偉すぎ💕︎︎💕︎︎(((でも無理はだめだね💦💦