テラーノベル
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今日はすごく学校に行きたくない。
昨日ユウジとあんなことがあって、同じクラスでよりにもよって隣の席。
どんな顔して挨拶したり話せばいいのかを考えるだけで憂鬱な気持ちになる。
暗い気持ちで玄関の扉を開ける。
わたしの気持ちとは反対に空は晴れ渡って雲一つない青空だった。
学校へ行く道をまっすぐの道。
少し歩いて右に曲がると予想もしなかった、わたしが憂鬱の原因のユウジが立っていた。
どうやって前を通過しようかと考えていたらユウジから声をかけてきたからびっくりした。
「おはよ」
「お、おはよう」
「昨日勉強道具置きっぱやったから」
ユウジの手には昨日置いていった勉強道具とシャーペンが握られていた。
「ありがとう」
「…あと昨日はすまん。忘れてや」
苦しそうに顔を歪めるユウジにわたしまで苦しくなった。
ユウジから受け取ったノートを手で強く握り締めたせいで少し皺が寄ってしまう。
「ユウジ、」
「今日からまたいつも通り接してや」
「ユウジっ、」
「今は何も聞きたない」
ユウジはそれだけ言ってわたしの前から走り去ってしまった。
今日からいつも通り接しろって言ったのに、ユウジが走り去った方向は学校とは反対だった。
教室に着いて自分の席に座ると、隣の席にユウジが座っているわけはなくて、がらんとしていた。
「あら、今日はユウ君お休みなの?」
「あ……、小春ちゃん」
「…何かあったん?泣きそうな顔しとるわよ」
「そんなに顔に出てる?」
「うーん、端から見たら分からへんと思うけど。アタシだからかしらね」
小春ちゃんはあたしの頭を撫でて言えることやったら話してや、と言う。
小春ちゃんに昨日のことを話していいものか、とも考えたけど、頭の良い彼女ならユウジに影響することはしないだろうと思う。
「小春ちゃん、あのね…」
小春ちゃんはわたしの話すことを真剣に聞いてくれた。
ユウジの部屋が変わってて寂しかったことも、関係が崩れてしまうのが怖いことも全部聞いてくれた。
「2人とも不器用なのね。自分の気持ちをユウくんに言えんで、ユウくんは行動でしか気持ちを伝えられへん」
「わたしはただユウジと仲良しでいたいだけで、」
「そろそろ分かってるんやないの?自分が本当に好きなんは」
「わたしは…、」
と、言いかけたところで授業開始のチャイムが鳴り響いた。
つくづく間が悪い。
小春ちゃんはまた後で、とだけ言って席に戻って行った。
「ユウジ…っ」
名前を呼んだってユウジは隣にいなかった。
空っぽの隣は違和感があって、授業中はいつもうるさいくらい話しかけてくるのに、本人が不在だったせいで今日はひどく静かだった。
ユウジが学校に来たのは2時間目が終わったときだった。
朝の苦しそうな顔が嘘みたいに、いつになく明るく笑っていた。
「ユウジ、」
「ん?何や」
「…何でもない」
「変な奴やな、まあ元からか」
「うるさい馬鹿ユウジ」
「何やと?お前表出ろや」
いつも通りだった。
時間は違うけど毎朝するようなやりとりで、嬉しかったけど微かな違和感があった。
言い合いをするときにはいつもユウジはわたしの頭をはたいたり、デコピンをしたりする。
今日はわたしに近付かないで一定距離を保っていた。
「また言い合いしとんの?ユウくんたち飽きないわねっ」
「小春ー!会いたかったでー!」
ユウジが勢い良く小春ちゃんの胸に飛び込む。
小春ちゃんはわたしたちの微妙な空気を読み取って間に入ってきてくれたらしい。
ユウジを宥めながらわたしにウインクをぱちんと送ってくれた。
「ユウジのばーか!」
わたしはユウジのあたまをはたいて教室から飛び出した。
廊下を少し走って後ろを振り返ると、ユウジが教室の前でお前が馬鹿やアホ!と叫んでいた。
教室から出て噴水の前まで来てしまった。石田くんが噴水の中にいた。
ユウジといつも通りはもう嫌。
だからといって離れるのも避けるのも違う。
財前くんはユウジからの逃げで、憧れみたいなものだった。
関係が壊れてしまうかもしれない、ユウジもそれを覚悟して伝えてくれた。
小春ちゃんへのラインを打ち終わって送信ボタンを押した。
『小春ちゃん、わたしユウジが好き』
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