わたしがユウジを好きだって認めてから月日が流れるのは早くて、何も言えないままもう1週間ちょっと経っていた。
相変わらずユウジはいつも通りと宣言したきりで特に何かあることもなかった。
2人になることを避けてるのかもしれなかった。
「小春ちゃーん」
「なあに?」
「どうやったらユウジと近付けると思う?」
「うーん、せやねぇ…」
小春ちゃんは唸りながら考え込んでしまってトイレから帰って来たユウジが声をかけても反応が薄くてユウジは拗ねてしまった。
「きっかけが必要やわ、絶対」
「え?何?」
「小春ぅ、どないしたん?」
「ユウくんは黙ってて!」
「お、おん」
作戦会議せんとなぁ、と小春ちゃんは呟いて、もうすぐ授業開始のチャイムが鳴るのにも関わらずあたしの腕をぐいぐい引っ張って、屋上に連れてこられてしまった。
屋上では財前くんが気持ち良さそうに昼寝をしていて5つのピアスが太陽に反射してきらきら光っていた。
財前くんを見つけてもドキドキしなくなったわたしが嘘みたいで、ユウジのことが好きなんだと改めて実感してしまった。
「ほな、」
そう言って小春ちゃんはわたしの隣に腰掛けて、ありとあらゆるシチュエーションやら場所を述べる。
「どう?」
何かええのあったかしら、と小春ちゃんは聞く。
とりあえず一番タイミングが良いのは部活帰り、だけどもうわたしと距離を縮めようとしないユウジと2人で帰ることは至極困難なことに思えた。
「ユウジ一緒に帰ってくれないかなぁ」
「今の状況やと厳しいかもしれんなぁ」
「…うん」
「部活終わりに待つ?」
「そうしよっかなぁ」
「ならユウくんを引き止めとくわね」
「小春ちゃんありがとう」
「ええのよ」
2人とも大切な友達やからね、と小春ちゃんは付け足す。
授業の始まりのチャイムはとっくに鳴り終わっていたけど、小春ちゃんは教室に戻って行ってしまった。
わたしは戻る気分にはなれなくてそのまま屋上に残ることにした。
空を見上げると雲がゆっくり流れて、時々太陽を遮って日陰を作る。
「何ぼーっとしてはるんですか」
「わ、びっくりした、財前くんか」
「文句あります?」
「無いよ、全然無い!」
「ふーん」
財前くんはわたしの隣にちょこんと座る。
わたしはまた空を見上げて、財前くんもそうした。
「ユウジ先輩が好きなんすか」
「え、聞いてたの」
「聞こえてきたんすわ」
普通の声の大きさでしゃべってたしな、と財前くんは空を見たままゆっくり話す。
相変わらず彼のピアスはきらきらと輝いている。
「先輩はやっぱりユウジ先輩なんすね」
「あんなに否定してたのにね」
「ほんまや」
財前くんは床に着いた手を握ったり開いたりしていた。
「ユウジ先輩を好きにならへんのやなかったんですか」
「わたしもそう思ってて、思い込もうとしてて、でも本当はずっと前からユウジが好きだった」
「先輩は勝手や。絶対好きにならんって言うたやないですか」
財前くんはぎゅうっと手を握り締めて、彼の目はもう空なんて見ていなかった。
「勝手だってわかってる、けど…」
「俺やって先輩が好きなんや。今までユウジ先輩がおるから何も言わんと終わらせるつもりやったのに」
「財前くん…、」
彼はわたしの手をぎゅっと掴んで、わたしの方に向き直る。
財前くんの目は真っ直ぐで、目を逸らしてしまう。
「何であんときユウジ先輩はありえんって言うたんですか。そんなんずるいわ、今更…」
先輩、俺のことちょっと好きやったやんな、と呟く財前くんの顔は苦しそうに歪められていて、それがこの前のユウジの顔と重なって心臓がぎゅうっと掴まれたみたいに痛くなった。
「…お前ら何しとん」
突然聞こえた声の方向に目を遣ると、屋上の扉の前に立つユウジの姿があった。
あたしは咄嗟に財前くんの手を振り払う。
「見ての通りっすわ、ユウジ先輩」
財前くんはわざと顔を私に近づける。
「ちょっと財前くん!」
「何や、そうならそうって早く言えや」
「ユウジっ、誤解だってば!」
ユウジはわたしの言葉を無視して踵を返してドアをバタンと閉めた。
ドアが閉まった音がわたしとユウジも遮断したみたいに聞こえた。
「財前くん何で…」
「先輩には俺の気持ちなんて分からへんわ」
財前くんはそう言い残して屋上から出て行ってしまった。またバタンとドアの音が響く。
屋上に1人取り残されたわたしは誰の気持ちにも付いて行けなくて、ただただ立ち尽くすだけだった。
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