テラーノベル
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健二さんが予約なさっていらしたのは、ホテルの最上階に位置する「Le ciel」という名前のフレンチレストランだった。
最上階――十五階――にあるからか、「空」という意味なのだとエレベーター内で修太郎さんが教えてくださる。何でも、レストラン自体が円形の展望台のようになっていて、レストランのフロアがゆっくりと回転しているらしい。
食事をしている間に、パノラマビューになっている外の景色がじわじわと移り変わっていくと言う趣向に、私は驚いて目を瞬いた。
そういう構造のレストランを、回転レストランというのだとか。
ここへ着いて、下からホテルを見上げたとき、最上部に円盤のようなものが乗っかっているように見えたのを思い出す。
(私が気になっていた……!)
どうやら目指す「Le ciel」はそこにあるようだった。
「修太郎さん、よくご存知ですね」
小声でそう言ったら「以前一度来たことがあるので」とおっしゃって……。
私はそれをお聞きした途端、胸の奥がズキンと痛んだ。
どなたといらしたんですか?と聞きたくてたまらないのに、それが言えなくて「そうなんですね」とだけ、うつむきがちに返す。
狭いカゴ室の中。小声とはいえ、私たちの会話は聞こえていらっしゃるだろうに、健二さんは何もおっしゃらなか。それが逆に気を遣われているようで悲しくなる。
きっと、きちんと向き合って尋ねれば、修太郎さんは私の疑問に色々答えてくださるはずなのに。
私は、その勇気が出せなくて黙り込んだ。
私のほうの許婚問題は、健二さんと修太郎さんが現れたことで、一番の難関――健二さんへの告白と謝罪――は図らずもクリアできた感じになった。
それですっかり失念していたけれど、
(修太郎さんのほうは、きっと何ひとつ片付いておられないのですっ)
私は修太郎さんが絡めていらっしゃる指に応える形でギュッと握っていた手指から、力を抜いた。
こんなふうに、ルンルンで恋人つなぎをしている場合ではないと気がついたから。
(修太郎さんの手の温もりは、私だけのものじゃないのです……)
そう思ったら、とても悲しくなった。
「日織さん?」
私が指から力を抜いたことに気付かれた修太郎さんが、気遣わしげに声を掛けていらしたけれど、私は彼のお顔をみることが出来なかった。
(きっと今、私、凄く醜い顔になってるに違いないのです……)
修太郎さんと、親御さん公認の仲なその女性が、羨ましくてたまらない。
(きっとその女性は、目端が利く、利発なかたに違いないのです。――私とは真逆の……)
勝手にそんなことまで思ってしまって、自分で自分が嫌になった。
修太郎さんが私に何か言い募ろうとなさったとき、ポォーン……という音がして、エレベーターが停止する。
ついで、扉が大きく開いて――。
「ほら、さっさと出ますよ」
健二さんが、微妙な空気になった私たちの背中を押すようにして、カゴの外に押し出した。
「さっきも言いましたけど、込み入った話は着席してからにしましょうよ。兄さんも……」
そこで私の頭をくしゃりと撫でて「――日織さんも」と、おっしゃる。
その感触にハッとして視線をあげると、目の端で修太郎さんが健二さんを睨んでおられるのが見えた。
でも、健二さんは意に介した風もなく歩き出されたあとで……。
「ほら、あそこが店の入り口ですから、二人とも急いで」
健二さんに急かされたのをいいタイミングとばかりに、私は修太郎さんの手をスッと振りほどいて健二さんに続く。
修太郎さんが、そんな私の後を慌てて追っていらっしゃる。その気配を感じながら、健二さんの斜め後ろに立つと、店の入り口前に椅子が五脚ほど置かれているのが見えた。
その、左端に座っておられた方が、私たちを認めて立ち上がられて、私に追いついた修太郎さんが、その人に気付いて息を飲まれたのが分かった。
「――佳穂……」
修太郎さんが小さく吐き出すようにつぶやかれたお声は、その方のお名前らしかった。
#極道
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コメント
2件
かほってだれ?
みぅ🤍🥀です。 第44話「健二さん?④」、読み終えました…。 すごく胸が締め付けられるお話でした。日織さんが修太郎さんの過去の「誰か」を想像してしまう場面、切なくてたまらなかったです。“私だけのものじゃない”って思う瞬間の描写、本当にリアルで…。最後の「佳穂」という名前、心臓が止まるかと思いました。一体どんな関係なんだろう…次が気になります。 そして健二さんの優しいフォローに癒されました。れんさんの作品、心の機微が本当に繊細で好きです。続き、ゆっくり待ってますね🌙