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僕が騎士団本部に戻ると、生徒たちはほぼほぼ騎士団により制圧されており、気絶した生徒は、安全な場所にまとめて並べられていた。
「ムゴイな……」
まるで大人たちが子供を始末しているみたいだ。
「君は、カズハさんと一緒にいた少年か!」
一人の兵士に話し掛けられる。
「はい! 救援に来ました!」
「そうか……。ここは殆ど制圧が出来たんだが、裏のトレーニング区域で魔法学校一のエリートと名高かった少年が手を付けられず、騎士団長が一人で相手してるんだ……。騎士団長が負けるはずはないが、相手に大きな危害を加えられないとなると、かなり苦戦を強いられているはずだ。まだ戦えそうなら、そっちの援護に向かってくれ!」
指示に従い、僕は騎士団本部の裏手にあるトレーニング区域へと向かった。
そこには、既にボロボロになっているセーカとアゲル、そして、兵士の言葉通り、苦戦を強いられているアリシアさんの姿があった。
「みんな!!」
「ヤマト……無事だったみたいですね……。こちらは大変です……この少年、めちゃくちゃ強いです……」
すると、僕に気付いたアリシアさんは、盾を大きく構えて、僕に向かって声を上げた。
「彼も私と同じ『闇魔法』を扱う! 私とは違って攻撃的な魔法を扱うんだ! 気を付けてくれ!」
そう言うと、凄まじい速度の攻撃を防いでいた。
この国に来てからよく聞くようになった属性、 闇魔法。
幻影を掛けたり、盾を形成したり、影を利用したり、分からないことが多すぎる……。
少年の攻撃方法も、まるで分からなかった。
黒い影のような棘が、身体……いや、背負っているリュックから出ている。
そして、身体は少し宙に浮いていた。
「アゲル、光剣を……」
「戦うんですか? ヤマト……闇魔法のこと、全然知らないでしょう……?」
僕は、無言で光剣を受け取った。
「カズハさんに託された。それからこっちも大変だ。カナンが龍長に連れ去られた。彼を倒してすぐ救出に行く」
“風神魔法 ウィンドストーム”
僕は、アリシアさんに攻撃が集中している隙を狙い、高速で少年の背後に回る。
しかし、
「 “闇魔法 ブラックハンド” 」
少年が後ろ向きで手を翳すと、黒い暗幕が出現した。
僕は慌てて岩魔法 ブレイクで岩盤を出現させ、攻撃を防いだ。
「彼は影を目にすることで、全方向に視野がある! つまり死角がないんだ!」
アリシアさんは僕に向けて叫んだ。
死角がない上に、この高速の闇魔法……!
流石は魔法学校一のエリートと呼ばれるだけはあるな……。
「ヤマト! もし彼の魔法が、『闇は闇でも影を扱う魔法』であれば、光剣で斬ることが出来ます!!」
それは、薄々感じていた。
光剣を初めて持たされた時は、物体を透き通って使えない剣だと思っていたが、対闇魔法においては無敵の剣なのかも知れない。
でも、それじゃあ、少年は……。
僕は、そっと光剣を手放した。
僕の手から離れた光剣は、スッと消えて行った。
「ヤマト!?」
「ヤマトさん……!」
アリシアさんの盾が一つ失くなった。
きっと、ここ以外の戦場にも駆け巡り、もう殆ど魔力が尽きてしまっているのだろう。
「諦めてしまったのか……ヤマトさん……」
アリシアさんは、苦い顔を浮かべる。
「違います、アリシアさん。信じているんです」
僕が無防備で少年に近付いて行くと、全員が呆然と僕の姿を目で追った。
「岩の神の守護神 アリシアさんも信じてください」
「だ、誰を……?」
僕は、両手を地に付けた。
「岩の神! カズハさんです!!」
“岩神魔法 ヒル=ブレイク”
詠唱した途端、僕の視界は急に明るくなった。
なんだ……? 何が起きたんだ……?
「なんだそれー?」
急に、背後から声が聞こえた。
この声は……カズハさん……!
僕が振り向くと、そこには丸太に座った白髪の青年と、カズハさんの姿があった。
「誰……だ……?」
なんとなく、僕は分かってしまっていた。
こんなこと……初めてだ……。
「君はとても優しい。平和を重んじ、風のようにフワフワと、安らかな男だ」
「なんだよ急に、照れるじゃねえか! ”バベル” !」
そう、この男が……唯一神 バベル。
と言うことは、これはカズハさんの記憶なのか……?
「だから和葉。漢字ではこう書くんだ」
すると、唯一神 バベルは、木の棒で地面にカズハさんの名前を書いた。
「カンジ?」
「ああ、漢字。僕は日本という世界が好きでね」
「それ、前も話してた異世界の話か?」
「そう。異世界……日本。いい世界だったんだ……」
唯一神 バベルは、日本に行ったことがあるのか……?
カズハさんの名前、今まで出会って来た人たちと比べて、なんだか日本人の名前っぽくは感じていた。
偶然かと思っていたけど、漢字から派生されていたんだ。
「まあ、なんでもいいかな、名前は。バベルがそれが気に入ったんなら、カズハでいいぜ」
「ハハハ、緩いな。じゃあ君はカズハだ。カズハ、岩の神になる君は、この世界でどんな国を作りたい?」
「うーん……。平和の国……自由の国……適当の国……?」
「適当は君だけにしてくれ……」
「『守護の国』がいいな。みんなで支え合って、守り合えるような、そんな国を作りたい!」
「そうか……。ふふ、守護の国。カズハらしいね」
そうして、僕の意識は現実世界に戻っていた。
時間が止まっていたかのように、ゆっくりと動き出す。
そして、僕の放った岩神魔法 ヒル=ブレイクは、発動と同時に、視界に映る全ての人に、
「えっ!?」
「わわ!?」
「なんだ!?」
岩で全身を覆い、治癒を始めた。
「これは……ヤマトの岩神魔法!? 味方の防御と同時に治癒もしているんだ……!」
それだけじゃない。
「あれ……僕は……」
闇魔法の少年は、正気に戻っていた。
「洗脳を……打ち消した……?」
呆然としているアゲル、アリシアさん。
僕は不思議と、そうなる予感がしていた。
「アゲル、魔法の発現は、その人が望んでいる魔法が発現する可能性が高いって言ってたよね」
「はい……ヤマトのような異郷者のみの場合ですが……」
瞬足の風神魔法、蒸発の炎神魔法、操作の水神魔法、そして、防御&治癒の岩神魔法。
「僕の神の加護の魔法には、その神たちの願いが込められていると思うんだ……」
(私がもっと早く駆け付けられていたら…)
(私は壊すことしか出来ないからな……)
(僕は目で見えるところしか守れない……)
(俺に防御魔法があれば守れるのに……)
今まで神々に言われたことが脳裏に過ぎる。
「この岩神魔法は、カズハさんの願い。“守る為の力” なんだ」
その後、僕は他の地区を回った。
全ての地区に岩神魔法 ヒル=ブレイクを発動し、全ての人の治癒と、洗脳を解いた。
全ての国民に治癒をし終わった瞬間、僕の意識は消えた。
「ヤマトくん! ヤマトくん!」
あれ……カズハさんだ……。
てっきり、パーティの誰かかと思った……。
そんで、アズマが治癒してくれてて……。
あれ……?
すると、アズマがヒョッコリ顔を見せる。
「すまん……俺も魔力切れなんだわ……」
いつものように、ヘラっとアズマは笑う。
いつもならその笑みも心強いが……。
「カナン……助けに……行かないと……」
すると、今度はアゲルが顔を見せる。
「あ、ヤマト起きましたー? カナンちゃんの件なんですけどー」
なんだ……?
なんで、みんなこんなに平然としていられるんだ……?
龍族に捕まったんだぞ……?
すると、見知らぬ女性が顔を覗かせた。
「誰……ですか……?」
すると、女性は微笑んだ。
「私も、カナンです。ヤマト」
「カナン……?」
「どうやら、本当にカナンちゃんらしいのです。大人の姿ですけど……。そして、どうやら子供のカナンちゃんの無事は、この大人のカナンさんを通じて分かるらしく、居場所も、同じ視界を通して見えるのだとか」
奇妙な展開に動揺を隠せないが、普段からカナンの言動は奇妙なものばかりで、変に信憑性があった。
「今、龍族の一味たちは研究用アジトに集結しており、何やら実験をしているそうで、子供のカナンちゃんは、安全に寝かされているとのことです。龍長の『友達』という発言も嘘ではないようで、手荒なことは一切ない、と。ですので、ひとまず急がなくてもカナンちゃんは安全だそうです。ってあれ? ヤマト!?」
ホッとしたのか、僕はまた意識を失った。