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【夜と16とハロウィンと】
「確認が取れましたよ、リィラ。」
コツ、コツ…と足音が鳴り、それと同時に黒猫の声も聞こえた。
「ありがとう。どうだった?」
「〇でした。それでは館の地図を渡しますので、赤色のペンで囲まれている部屋へ行ってください。」
地図を見ると、地下2階の小部屋が赤く囲まれている。
「行ってくるね」
「はい。お気をつけて」
〜
辿り着いた部屋のドアをノックすると、返事が返ってくる。
「ん、また黒猫〜?いいよって言ったでしょ〜?」
おそらく、これが町長だろう。放送と同じような声だ。
「黒猫じゃない」
「えっ?…あっ、キミが!ごめんごめん、入ってきていいよ。勘違いしちゃった」
言われた通りドアを開け、部屋に入る。
「電気、つけないの?」
「えっ?…あぁ〜〜、またやらかした!いっつも付けずに引きこもってるからさぁ…。ごめんね、電気のスイッチどこだっけ…」
物音がし、暗い中でも椅子から立ったことが分かる。
「いや、別につけなくてもいいけど」
「あっ、ホント?よかった〜、ありがとね♪」
たぶん、座り直したんだろう。
「それで、用件って?」
今度はしっかりと覚えていた。
「トリック・オア・トリート」
「……。」
…まずいことを言ってしまっただろうか。
「…あっははははは!!!ふっふふ…あはは!」
……???。怒られるかと思っていたら、大爆笑されてしまった。
「何かおかしかった?」
「あっはは、そういう訳では無いんだけど…。わざわざ俺のとこまで来て、用件がそれって…って思うと、つい笑っちゃって。ごめんごめん、お菓子ね。」
何もかも予想外で困惑していると、手に確かな感触があった。
「にしても、綺麗な髪だね。何色なの?」
「えっ?…青だけど」
「青っていうと…海?とか、そういう色か。」
…?…あぁ、もしかして…。
「色が、分からない?」
「そう、色盲なんだよね、俺。…じゃない、私!」
「?」
「私、私、私、私…。よく考えれば、さっきも俺って言ってたような…。」
…よく分からないけど、大変なんだろう。
「あーそうだ、話が逸れまくったけど…それ、チョコね。ミルク、ホワイト、ストロベリーの小さなチョコがたくさん入ってるよ。」
袋に手を入れてみると、台形のものがある包装がひとつ、ふたつ…いくつもある。全てチョコレートなのだろう。
「ありがとう」
「いやいや、こちらこそ来てくれて。暗くて見えないだろうけど、袋とかも結構可愛いから!」
放送の時点で分かってはいたけど、かなり気さくな人物のようだ。
…そういえば、説明では長髪と言っていたけれど…。
「…ごめん、やっぱり電気付けていい?」
「うん、いいよ。場所わかる?」
「分かんない…。」
「じゃあ俺が付けるね♪…私!!」
パチッ───。電気が付く。
「眩しっ…!……大丈夫?」
「私のセリフ」
「あはは、ごめんごめん…。」
柔らかい会話をしたあと、私から質問する。
「ねぇ」
「ん?どうしたの?」
「貴方のことについて知りたい。」
「へぇ…。俺のこと、ね…。」
…訂正すらしない。諦めたらしい。
「いいよ、何が知りたいの?」
「貴方の名前は?」
「…名前。…名前か…。」
「言いづらいことは言わなくていい」
「いや、そのね…、無いんだよね、名前が。」
「無い?」
「そう、無い。今までずっと『町長』か『魔師』って呼ばれてきたからさ、名前が無いんだよね」
「まし…っていうのは?」
「えーと…魔女の男バージョン、みたいな。」
「あぁ…。」
そういえば、確か『魔法使い』とは聞いていたような気がする。
「うーん…とりあえず、そのどっちでいいよ。」
「じゃあ魔師」
「わかった。次は何が聞きたい?」
「…魔師の過去のこと、とか」
「…過去?」
「そう、過去。」
「過去ねぇ…。俺、産まれてこのかたチルドラートから出たことなくって。」
チルドラートから…出たことがない?
「そもそも、ここからもあんまり出ないし…居る場所のことに関しては、あんまり興味が無くってね。魔師なのも生まれつきだし。」
「生まれつき?」
「そうだよ。…うーん、あんまり面白くはないかもだけど…人生の話、する?」
「うん」
「わかったよ。短いけど…。」
「親も医者もご近所さんも、誰も居ない街。産まれてから、そこだけが俺が居れる世界だった。」
「ハロウィンの日になると、外へ出るゲートが自動的に開通されてね。今だとヴァンパイアの子とか、皆は外に出れるんだけど…なぜか、昔も今も俺だけそこを通れなかった。」
長い髪が阻んでいても、寂しそうな目をしているのがなんとなく分かった。
「うん、こんな感じかな。」
「えっ?」
単純に驚いた。
それを責める訳では無いけど、今までと比べて格段に短かった。
「いやさ、話すことがないんだよ。何百年も外に出ない時期があって、その途中でみんながここに現れてたから。」
「そうなんだ…。」
「…よし、次は何のこと聞きたい?」
次…。
「さっきと続くような質問なんだけど、黒猫はいつ来たの?」
「お、いい質問。黒猫はね、最初は猫の状態でここに居たんだよ」
「猫の状態で?」
「そう。ヴァンパイアやゴーストの存在を知ったあと、少し寝たんだ。そして起きたら居たの、黒猫が。」
「へぇ……。」
なんとも不思議な話だ。
「黒猫はね、なぜか出会ったときから俺に忠誠を誓っててさ。俺は何もしてないのにだよ?」
「そうだったの?」
「そうだったんだよ」
忠誠を誓っている、というのはなんとなく感じ取れたけど、出会ったときからとは思わなかった。
「まぁ、黒猫に関してはこれくらいかな。他に聞きたいことは?………って聞きたいけど、ダメだね」
「え?」
「今、何時だと思う?」
「…何時なの?」
「午後の11時」
…は?
「…え?だって、私がここに来たときは午前2時って……」
「時間の進みが早いんだよ、ここ。だから…多分、君達の世界で言う10分くらいで明日になる。」
明日になる。
それは、『ゲートの閉口』を意味していた。
「じゃあ、早くしなくちゃ…」
「待って、その前に。」
魔師が、走ろうとする私を呼び止める。早くしなくちゃなのに。
「トリック・オア・トリート」
……!
そうだった。まだ、これがあった。
「その袋ごと頂戴!この館の裏だよ、急いで!」
「……ありがとう、魔師!!」
魔師に袋を投げ渡し、館の裏へと走る。
急がないと、急がないと。