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佳蓮は不機嫌だった。


夜の帳が落ちても昼間のように煌々と明るい場所で、とても不機嫌な顔をしている。


真っ白な大理石の床と、着飾った女性の胸元や髪を彩る宝石に天井から吊り下げられた豪華なシャンデリアの灯りが反射して、佳蓮がいるここはとても幻想的な空間だ。


そして楽団が軽やかな曲を奏でる中、会場の中央では、笑みをたたえた男女がペアになってくるくると円を描く。その姿はさながら蝶の群れ。もしくは子供のお遊戯会のよう。


佳蓮は、取引をしたのだ。元の世界に戻る手段を探すために夜会に出席すると──




時は遡り、夜会当日の夕方。


西の空が茜色に染まっても、佳蓮は今日も今日とて出窓の物置き部分に腰かけていた。


最近では物置き部分にクッションが置かれるようになり、昇降しやすいよう踏み台まで用意されてしまった。要らぬ気遣いだ。


気遣うところはそこじゃないと声を大にして訴えたい佳蓮だが、今はもっと他に訴えたいことがある。


(邪魔なんですけど)


離宮の空いているスペースには、ドレスを始め、靴、アクセサリー、パニエなどの小物がところ狭しと並べられている。


この品々は数時間後に始まる夜会のために、アルビスが佳蓮のためにと用意したもの。


アルビスは結局、佳蓮の気持ちを無視して夜会に参加させようとしている。


(冗談じゃない。誰が行くもんか)


佳蓮は首が痛くなるほど顔を背け、窓を見つめる。外はうんざりするほど衛兵がいるけれど、それでもまだこれらを見るよりはマシだ。


秋から冬にかけてのこの季節は日暮れも早い。暗くなり始めたせいで窓は鏡となり、部屋の中にいる二人の侍女が映り込む。


嫌だなと思った瞬間、一人の侍女と目が合ってしまった。


「カレンさま、そろそろ身支度を始めましょう」


子供じみたことはやめにして。


そんなニュアンスを込めて言ったのはリュリュではなく、女官長であるルシフォーネだ。


盛装するのに人手が足りないと判断したのだろうか、それともゴネる佳蓮を説得するのはリュリュでは無理だと判断されたのだろうか。


どちらでも構わないが、佳蓮は夜会に参加する気は微塵もない。


夜会のために用意されたドレスは藍色のシフォン生地に、銀のレースが胸元と裾に施されており、所々赤色の光るビーズが散りばめられている。


これが何を意味しているのかは一目瞭然。こんな所有欲丸出しのドレスなど、暖炉にくべる薪の代わりにすべきだ。


「カレンさま、陛下を待たしてはなりません。女性の身支度には時間がかかります。このままでは夜会に間に合いません」


丁寧な口調だが、ルシフォーネの声は苛立ちを含んでいた。


(っていうか、なんで出席することを前提に話をするの?この人)


佳蓮は、ルシフォーネを睨みつける。彼女の口調が母親の美里に良く似ているのも、余計に苛々させる。


「行かない。着ない。出ていって」

「カレンさま、いい加減にしてくださいませ。今日は──」

「あっ、あのっ」


一触即発の状態になった二人の間にリュリュが割って入り、佳蓮に向けてこんな提案をした。


「カレンさま、夜会に出席した折に、陛下におねだりをされたらいかがでしょうか?」

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