「じゃあ、寝よっか!」
episode4
誰が予想していただろうか…。まさか類さんと寝ることになるなんて。
しかも、なんでこの人ウェルカムなの…。
「…なんかごめん。」
類さんの隣に寝転びながら言う。すると類さんがそっとタオルケットを掛けてくれた。
「何でショウにゃんが謝るの?」
「だって…。やっぱ何でも無い。」
だって、俺に甘えてほしいのはわかったけど、生活に支障が出るかもしれない。という本音は飲み込む。
「…電気、消すよ?」
「ありがとう…。」
カチッ
一瞬で周りが暗くなる。さっきの廊下の件もあり、情けないけど、ちょっと怖い。
そういえば、昔もこういうのあったな…。
その時は俺がまだ幼稚園生のとき、じーちゃん家で初めて生活するってのに、寝るときになって電気を消すと急に怖くなった。それで泣いちゃったんだっけ。そしたらじーちゃんがそっと頭を撫でてくれて…。
あの時、じーちゃんは何も言わなかったけど、すげー安心したんだよな…。多分、親元を離れて可哀想な俺にできる最大限の優しさだったのかな…。
そうだ…。じーちゃんは…
「?ショウにゃん?…また泣いてるよ?」
「え?」
類さんが心配そうな顔で見ていた。
「…なんかあった?電気付ける?」
「だ、大丈夫大丈夫!多分あくびだと思う!俺ってあくびしたらめっちゃ涙出るんだよね!ホント困ったよ!あはは…」
「…そっか…。何かあったら言ってね。」
「うん、ありがとう…!」
駄目だ駄目だ、類さんの前ではもう泣かない!もう…もう…。
『笑、大丈夫だ…。』
もう…泣かない…って決めてたのに…何で涙が…何でじーちゃんが入院したぐらいで…!
すると、そっと類さんが背中から俺を抱きしめた。
体が暖かくなっていく。
「類さん…?」
「大丈夫だよ、ショウにゃん。だから僕の前では我慢しないで。」
「…ごめん、俺、もしじーちゃんに何かあったらって思うと…すげー怖くなって…」
「うん。」
「父さんも母さんもいなくなったのに、じーちゃんまでいなくなったら、俺…どうしよう…。一人になっちゃうよ…!」
「大丈夫。僕がいる。僕は絶対にショウにゃんから離れない。ショウにゃんの事は僕が守るからね。」
類さんは俺から腕を離すことは無かった。顔が見えなくても、真剣に聞いてくれているのが伝わる。
「僕ね、最初君がぶつかって来たとき、奇跡かと思ったんだ。」
類さんの優しい声が耳を包む。
「僕にとってショウにゃんは人生そのもので、大袈裟だと思うだろうけど、ショウにゃんは生きる理由だった。それぐらい大好きでさ。だから君に会ったとき、信じられなくって…。」
「…うん」
「そんなショウにゃんにも活動休止する期間があって、もしかしたら辞めるかもしれないって不安になって…。…多分、その不安と笑くんの不安は違うと思うけど、1ミリでも合ってたら、僕は笑くんの側に居れる権利、貰えるのかな…。」
類さんは、もう俺の事、ちゃんとわかってくれている。だから、俺も類さんのことを分かりたいって思うんだ。
「ありがとう…。類さん…」
「スー…ピー…」
え?寝てる…?
まあ、いっか…。なんだろ、ちょっと、軽くなったな…。
目が覚めると、もう外は明るかった
「…朝か…。」
起き上がろうとすると体が動かない。
類さんは朝まで、俺を離さないでいてくれたんだ。
類さんの腕を剥がすわけにはいかないので、もうしばらく寝転ぶことにした。
類さん暖かいな〜。とりあえず何時か確認しよ…。
ベッドの先には時計があり、針はすでに7 時半を指していた。
「· · ·はあ!?普通に寝坊じゃん!」
居ても立っても居られず、類さんの腕を引き剥がし、体を揺すった。
「類さん!!、やばいって!寝坊してる!!起きて!るーいーさーん!」
「ん〜…。ショウにゃん…?」
「寝坊だよ!!」
「だあいじょうぶだよ〜…僕学校行かないもん…。」
そうだった…この人不良だった…。
てか、俺がやべえ!
急いで服に着換え、顔を洗い、髪はボサボサのまま朝食を食べる。
やばいい!
「行ってきます!類さん!…俺多分四時十分頃に帰ると思うから!」
トビラを開け、外に出ると同時に微温い風に包まれる。
正直、学校に行くのは怖い。
また笑われるんじゃないか。
また変な人に会うのだろうか。
『ショウにゃんの事は僕が守るからね。』
…でも大丈夫。
大丈夫だ。
「笑、ごめんな。」
教室に着いても笑われることは無かった。なんでだろと思い先生に聞くと、どうやら、俺が窓ガラスを割った時、俺に怒ってたあの担任(佐藤)が叱ってくれたらしい。
感謝を言いに職員室に行くと、佐藤先生は俺に謝ってきた。
「え、なんで先生が謝んだよ。」
「いや、俺が気づいていればお前に嫌な思いさせずに済んだな…って思って…。悪かったな…。」
「先生のせいじゃないって。」
「…話は変わるが…お前、お兄さんが居るらしいな。」
「!何で知ってんの?」
「いや、妹が看護師でな…。話を聞いたんだ。」
看護師って、じーちゃんが世話になるあの看護師か!
「え!?そうなの!?すげー偶然じゃん!」
「全く、そのせいでお前の兄貴がイケメンやら何やらで話されて…。1時間は返してもらえなかったな…。」
「あははっ、確かに類さんはイケメンだもんな!!…あ…」
「類さん?お前、兄貴のこと、さん付けで呼んでんのか?」
やべ、ついポロッと…。
「あー…さん付けで呼ぶ練習…?的な?ほら、俺、先生にも基本タメ口だろ?だから、そろそろ礼儀学んだ方が…ってことで兄貴にも協力してもらってるんだ!あはは…」
嘘うますぎ!俺!
「そうか…。お前も成長したんだな。」
先生はどこか寂しそうに微笑んだ。
「先生…?」
「とにかく、礼儀は学んどけ。」
そう言うと俺の頭をワシャワシャと撫でた。
「うわっ!やめろよ!」
「…ったく、あんま無理すんなよ。あの時みたいになんねえようにな…。」
「…分かってるよ…。」
教室に戻り、いつもの席へと座る
俺はこれといった友達はおらず、いつも静かにしている。班のときもできるだけ話さないし、目も合わせない。
いつだって、ずっと独りで…。
「笑くんだよね?」
「え?」
突然、眼鏡をかけた大人しそうな少年が俺の前に現れた。
「えっと、はい、笑ですけど…?」
「ほ、放課後、隣の空き教室に来てくれませんか!!?」
声でかっ
「え、うん。分かった」
「で、何?」
その日の放課後、言われた通りに隣の空き教室に行くと、眼鏡の少年が待っていた。
「…ごめん、その…相談があって…!」
「相談?」
「実は、僕、いじめられてて…。」
「!いじめ!?誰から!?」
「麻衣ちゃん…」
「え、女子?」
しかも隣のクラス陽キャじゃねーか。
「うん。ずっといじめられてて…。」
「…で?俺に相談したってこと?」
「うん。相談っていうか、お願いがあって…。その…彼女、ショウくんのファンみたいで…。この前、ショウくん連れて来て。って。」
無理があるだろ。だってネット活動者で今や有名人だろ!?
「連れて来なかったら…?」
「僕の母さんにも被害が…って…。僕、どうしたらいいんだろ…?」
脅しか…。
「だからね、笑くんに、なりきってほしいんだ!」
「· · ·はあ!?」