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第2話:最初の違和感:深夜の報告書
登場人物
トントン:書記長
ひとらんらん:一般兵、農業担当
グルッペン:WrWrd軍総統
本文
トントンは、ひとらんらんの残していったノートを手に、自分の執務室に戻った。深夜にもかかわらず、彼の瞳には鋭い警戒の色が宿っていた。
トントン「(これは、ただの趣味の落書きじゃない。筆致が、あまりにも正確すぎる)」
トントンは暗号解読の専門家ではないが、軍の機密書類を日常的に扱っているため、**「隠す意図」と「プロの技術」**の違いは理解できる。ノートに書き込まれた文字は、ある種の規則性を持っており、素人が気まぐれに作った架空の文字ではないと断言できた。
トントン「……ひとらんらん。お前は、こんな暗号を使うほどの秘密を持っているのか」
彼は翌朝、グルッペンにこのノートを見せるべきか迷った。しかし、ひとらんらんは穏やかで、軍内で最も人畜無害に見える男だ。彼をいきなりスパイ容疑で告発するには、あまりにも証拠が乏しい。
トントン「(まずは、この暗号が何なのかを突き止める。そして、ひとらんらんに直接、話を聞く)」
トントンは一時的にノートを厳重に保管することにし、夜明け前、総統室の裏でひとらんらんに遭遇した。ひとらんらんは、畑仕事の準備のためか、軍服ではなく作業着姿だった。
ひとらんらん「あ、トントン。こんな朝早くからお疲れ様。また書類の山を片付けてたの?」
トントン「……ああ。ひとらんらんは、随分と早いんだな」
ひとらんらん「うん。朝の静かな時間が好きなんだ。畑の空気を吸うと落ち着くから」
いつもの穏やかな笑顔。トントンは、彼の顔から昨夜の不自然な協調や、わずかな緊張の痕跡を読み取ることはできなかった。
トントン「(完璧に、いつものひとらんだ……)」
トントン「あのさ、ひとらんらん。昨夜、総統室の裏に何か忘れていなかったか?」
その問いかけに、ひとらんらんの瞳が一瞬だけ、大きく見開かれた。その反応を、トントンは見逃さなかった。
ひとらんらん「……え? ああ、そういえば、ペンを忘れたかもしれない。トントン、何か見つけた?」
ひとらんらんは、平静を装おうと努めていたが、その声には微かな震えがあった。
トントン「いや。気のせいだったようだ。作業、頑張れよ」
トントンはあえて嘘をつき、ひとらんらんの反応を試した。ひとらんらんは安堵したように息をつき、「うん、ありがとう!」と笑った。
トントン「(ペンじゃなくて、お前の秘密が詰まったノートだ。そしてお前は、僕がそのノートを見つけていないことに、明らかに安堵した)」
トントンは総統執務室に入ると、すぐにグルッペンに報告した。彼はノートのことは伏せ、**「ひとらんらんとオスマンの様子が、W国の話題に触れると不自然に協調し、動揺を隠している」**という事実だけを伝えた。
グルッペン「フム……。トントン。お前は優秀だ。その直感を信じよう。だが、今は泳がせておけ」
グルッペンは目を細めた。
グルッペン「やつらが何か隠しているのは間違いない。だが、それは我が軍に害をなすものか? それとも、己の過去を葬り去りたいだけの、哀しい隠し事か?」
グルッペンは立ち上がり、窓の外の畑で作業するひとらんらんを見下ろした。
グルッペン「隠し事は全部で五つ。ひとつずつ、バラバラに炙り出してやる。それが、我々だに所属した者の、**贖罪(しょくざい)**というものだ」
トントンは書記長として、総統の冷酷な決定に従った。
その日の午後。
コネシマが、訓練場に向かう途中でオスマンとすれ違った。オスマンは、いつも通りのんびりとした様子で、何やら考え事をしているようだった。
コネシマ「おい、オスマン。今日は訓練に参加せえへんのか? 体がなまるぞ!」
オスマン「やだメウ。僕は外交官なんだから、激しい訓練は苦手なんだ。コネシマは、いっつも血の気が多いなぁ」
そう言って笑うオスマンの顔に、一瞬、過去の恐怖をフラッシュバックさせるような、深い陰りが差した。それは、コネシマが一瞬目にした、オスマンの故郷が戦火に焼かれる光景の断片だった。
コネシマ「……おい、今、お前の顔、なんか変な顔しとったで」
オスマンはすぐにいつもの笑顔に戻った。
オスマン「え? なんのことメウ? 気のせいだメウ」
しかし、コネシマは、オスマンの笑顔の裏に、故郷のトラウマが深く刻み込まれていることを直感した。
オスマンの故郷でのトラウマ。これが、彼が隠している五つの秘密のうちの二つ目のひび割れだった。
ここまでの隠し事の状況(2話終了時点)
ひとらんらんが他国語の暗号文書を所持している(トントンが発見)
オスマンの故郷でのトラウマ(コネシマが表情から察知)