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百鬼の宴がようやく終わり、夜も更けた山の中。焚き火の火がパチパチと音を立てる。
酒吞童子・いふは、相変わらず瓢箪を手にして、
その場に寝転がっていた。
その上を、黒い羽がふわりと舞い降りる。
「お前、またそこで寝て……風邪ひいても知らねぇぞ。」
烏天狗・りうらが、上から見下ろすように言う。
「俺が風邪ひいたら、お前が看病してくれるんだろ?」
「は? 勝手に決めんな。嫌に決まってんだろ。」
「そっかー……じゃあ、ないこに頼むか。」
「……おい。」
りうらの羽がわずかに揺れる。
その名が出ると、つい反応してしまうのは、彼らがよく知ってる相手だからだ。
「でさ……お前、見た?」
「……何を?」
「ないこ。さっき、雪女と手ぇ繋いでたぜ。」
「は? マジで?」
「うん。しれっと、やることやってんだよなー、あいつ。」
りうらは目を細めて、少し遠くを見る。
「……ま、あの二人ならお似合いじゃねぇ?」
「だよな? あいつ、恋してる顔してた。」
「……あー。わかる。」
「なんでお前がわかるんだよ。」
「……そういうのは“風の流れ”でわかるんだよ。空気が、違った。」
いふはふっと笑って、火を見つめた。
「じゃあ、お前の風は今、俺の空気も読めてんのか?」
「……さあな。」
「読めてねぇのか。つまんねぇな。」
「……うるせぇ。読まれたくない時もあるだろ。」
しばらく、火がパチパチと鳴る音だけが夜を満たす。
やがて、いふがぽつりと漏らした。
「……ないこ、いいよな。」
「……なにが?」
「好きって顔して、堂々としてんの。」
りうらは、その言葉に目を伏せる。
「……お前、好きな奴に、そんな顔したことあんのか?」
「あるかもしれねぇし、ないかもしれねぇ。」
「答えになってねぇよ。」
「じゃあ、お前は?」
「……知らねぇよ。」
風が、静かに火を揺らした。
その一瞬、いふとりうらの視線が交差する。
本当は、誰よりもわかっている。
でも、わかりたくないふりをしている。
――それもまた、恋のはじまり。