息が詰まって心臓の音だけが耳に響く。
なんでこんな気持ちになるのか自分でも分からなくて、ただ苦しい。
「□□さん?」
「は、はい」
「どうしたの?さっきからずっとそんなんだと大事な交渉なんだから困るよ」
「すみません…」
あの後から仕事に全く身が入らないまま1日が終わってしまった。
体に冷たい鉛を流し込まれたような気持ちだった。
「もう、こんなんじゃ家帰れないよ」
やるせない思いをどうにかしたくて、夜道に感情を吐き出した。
◇◆
ムカつく…自分にムカつく!
樹って遊びっぽそうだし、女の1人や2人くらいいることなんて最初から分かるじゃん。なのにこんなことくらいで振り回されるなんて。
「□□さんも飲みなよ〜」
同期の人達からご飯に誘われて、家に帰らないための口実にしたいのもあって来てしまった。ちなみにその同期達の中には北斗もいる。
着信音が鳴った。
“今日帰るの遅い?”
少し悩んで、スマホの電源を落とした。今までみたいに普通に接せられる自信が無い。けど帰らないわけにも行かない。
でもとりあえず、
「飲むぞー!」
「お、いけいけ〜!」
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「はぁ…冷たっ」
「大丈夫?」
「北斗か、びっくりした。どうしたの?」
「〇〇急に抜けてったから。これ水」
頬に当てられた冷たいペットボトルの水を渡してきた。
「ありがと、体調は平気だから」
「ずっと浮かない顔してるけどなんかあった?…あの人のことか」
「…うん」
思い出すと胸が痛くなる。どうしちゃったんだろう。
「彼氏なんだっけ、喧嘩?」
「いやいや、付き合ってないし!喧嘩もしてない。私が勝手に悩んでるだけで、」
「うーん、でも好きなんでしょ?だから悩んでんじゃないの」
「そういうのじゃ…」
“好き”その言葉が胸の中で反復される。
私のこの感情に今やっと名前がついた気がした。
私、樹のことが