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「オレと1つ約束してほしい事がある」
“帰らない”と宣言し数分後、突然彼がこんなことを言い出した。約束?と聞いたばかりの言葉を問い返す。
彼は うん と返事をする代わりに一度頷き、先程までの不気味なほどに甘い優しい笑みを消し、真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「ここから絶対に出ないこと」
………なんかすっごい重いの来たなぁ
私が怪訝な表情を浮かべたことに気づいたのか、彼は宥めるような声色でまた言葉を続けた。
「…分かるだろ?自分の置かれている状況。」
それはもちろん、と小さく頷く。
もし私が外に出て大人や子供に見つかりでもしてみたらどうなるかなんて簡単に想像できる。
あまりにも優しく心に漬けこんでくるせいで一瞬心を許しかけてしまったが、これは“保護”でも何でもない。どこからどう見ても“誘拐”、そして“監禁”だ。
相手は好きだから誘拐するという謎の意見をお持ちの犯罪者。
本当ならいますぐにでも逃げなきゃいけないんだ。手足の自由が利く、今のうちに。
でも
「…オレから逃げないで。離れないで。」
この人を一人にしてはいけない。魂がそう叫んでいる。
どこか既視感ある言葉と姿に、いつの間にか私の頭は縦に振ってしまっていた。
『わか、った。』
否定の言葉は真っ暗で歪な空気に溶けて消えていく。
私の言葉が相当嬉しかったのか、彼の表情が花が咲いたような優しい笑みに変わる。
「…○○大好き」
再び正面から抱きつかれ、耳元で吐息交じりの甘い声で囁くイザナさんに体中が急に熱くなり、羞恥から血が頬に上ってくるのを感じる。
本当に不思議だ。今日初めて会ったはずなのにそんな気がしない。随分と遠い昔から彼を知っているような、大切だったような曖昧な感覚に囚われる。
人並みよりずっと記憶の継続が苦手な私はどうしてもその曖昧さを思い出すことは出来ず、その思いに蓋をした。
「…もう離さないから」