人間が風邪をひいた。
僕はなかなか起きない人間を
起こそうと耳元で一生懸命鳴いた。
それなのに人間は
布団から出てきてくれなかった。
しばらくすると人間は
目を覚ました。
重そうな体を起こし
ベットの横にある机に手を伸ばした。
そしてそこから棒状の何かを取り出し
自分の脇に持っていった。
少しするとピピピピと音がなり
人間は脇から棒状の何かを取り出し
頭を抱えながら僕に話しかけてきた。
「…おはよう。
君は風邪を引いてないかい??」
人間はあの雨の中傘もささず
濡れないように僕のことを
抱えこの家まで連れて帰ったらしい。
その後も僕が目覚めるまで寄り添い
挙げ句の果てに
自分が風邪を引いたらしい。
「君が大丈夫そうでよかった。」
どこまでこの人間は
お人好しなんだろうか。
僕のことよりも自分のことのほうが
大切なはずなのに。
人間ってばかな生き物だ。
人間は辛そうに歩き小さな箱と
コップに入れた水を持ってきた。
僕は布団に座り込んだ人間の隣に座る。
人間が小さな箱を開けた瞬間
懐かしい匂いがした。
鼻にツンとする消毒の匂い。
小さな粒がたくさん箱の中に入っていた。
たしかこれは薬とか
言うものだった気がする。
[君はどこから来たの??]
[僕もいつか
君と一緒に外に出れるかな??]
[僕は見たいんだ外の世界を!!]
人間は小さな粒を二粒取り出し
水と一緒に飲み込んだ。
「僕はもう一回寝るけど…
君はどうする??」
そう人間にきかれたので小さく返事をし
人間の隣に横になった。
[僕はここから出られないんだ。]
ー猫の僕と車椅子の少年ー
[猫ちゃんこっちおいで!!]
僕が出会ったのは
車椅子に座った小さな男の子だった。
男の子が居たのは
僕が住んでいた場所から少し離れた
ところにある真っ白で大きな病院だった。
男の子は窓から身を乗り出し
外に居た僕に声をかけたのだ。
僕はゆっくり男の子に近づき
頭を撫でさせてあげた。
[ねぇねぇ!!
猫ちゃんはどこから来たの??]
とか
[猫ちゃんは何が好きなの??]
など僕に
たくさん話しかけてくれた。
だから僕はその度返事をした。
よく見ると
男の子は車椅子に座っていた。
[猫ちゃんはこの先から来たの??
僕ね体が弱くて
この先に行ったことがないんだ。]
男の子の話をきいていると
生まれつき体が弱く
一人じゃ歩くことも難しいらしい。
[僕も外の世界に行ってみたいんだ!!]
男の子は目をキラキラさせて
僕にそう言った。
きっと外の世界は男の子が思ってるより
きらびやかではないと思う。
そんなことを考えていると
男の子の部屋のドアが開き
女性の声がきこえた。
[あ!!看護婦さん来ちゃった!!
猫ちゃんまた会いに来てね!!]
と僕は外に出されてしまった。
僕を見送った男の子の目は
どこか遠くを見つめ寂しそうだった。
それから数日後
僕は男の子のもとへ向かった。
男の子はあの日と同じように
車椅子に座り
アヤメの置かれた窓辺に居た。
だがあの日あった笑顔はなかった。
僕は急いで男の子もとに駆け寄り
大きな声で鳴く。
[!?猫ちゃん!!
また来てくれたんだ!!]
男の子の腕には
細長い管がつけられていた。
僕が不思議そう見ていれば
[僕明日手術を受けるらしいんだ。
病気が悪化しちゃって…。]
男の子は話しながら
泣き出してしまった。
[僕怖くて仕方がなくて
もう二度と目を覚まさないかも
なんて考えると辛くて…。]
人間だって僕だって
いつかはこの世を去るのに
どうして人間はこうなのだろうか。
いつかはその時がくるのだ。
ただただそれが早かっただけ。
それだけなのに人間は大げさだ。
[僕はきっとこれからも
ここから出られないんだ。]
ここから出られないだけで
何不自由ない生活が…。
僕はその時気づいた。
僕には自由があり何不自由ない。
それに猫には9つの命があるため
ここが最後ではない。
だが人間には一つの命しかないし
自由も限られている。
人間の1秒は僕の思う1秒よりも
10倍も100倍も大切なものだったのだ。
僕は間違っていた。
息をしていることが当たり前ではない。
目が見えていることが当たり前ではない。
生きていること自体が
当たり前ではなかったのだ。
目を閉じてしまったら
二度と目を開かないかもしれないのだ。
それが当たり前ではないから。
人間も猫も
こう共存しているのは当たり前ではない。
だって人間と人間だって
互いを傷つけ合うから。
救えた命があったかもしれないのに。
すべてが当たり前ではなく
一つ一つが大切なものなのだ。
この人間がもし
目を覚まさなかったらどうしようか。
僕はまた一人ぼっちなのだろうか。
一人ぼっちには
慣れているからきっと大丈夫。
だけど寂しいのは少しだけ嫌だな…。
僕の味方はこの人間しか居ないのに。
コメント
2件
ねえ好きすぎます🥲🥲 他の人とは違ってちゃんと小説読んでる感があってしっかりしてる中身だから無料で読んでもいいのか不安になります、、😭😭😭😭😭