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『オリオンの膝下で』


車を走らせて二時間、街から離れて灯りひとつない丘の上に寝転がって夜空をぼんやり眺めていると「お、一番星」と右側で同じように寝転がった赤尾リオンが声を出す。

「小っさ。てか、星がたくさん見れるから行こうって言ったクセに一個しかないじゃん」

リオンが見つけたであろう一番星を見ながら文句を言えば「うるせーな」と女らしからぬ暴言が飛んでくる。

左側には坂本くんが寝ていた。きっと星なんか興味なく、僕と同じように赤尾に強引に連れて来られたから疲れたのだろう。

何にもない丘の上で僕ら三人は川の字になってぼんやり夜空を見ている。右側の赤尾はタバコを蒸して、左側の坂本くんは寝息を立てていた。JCCでは3バカと言われていた僕らは卒業して今は名を上げつつある殺し屋になった。

たまにこうして三人で会っては酒を飲んで、ガキみたいに遊んで笑い合う、そんな日々が僕はいつまでも続けばいいと思っている。それくらい今は幸せに満ち溢れている日々を送っていた。

「おい南雲、いいこと教えてやるよ。流れ星って本当は星じゃないんだぜ」

「流れ星さえ流れないつまんない夜空見ながらそれ言う必要ある?」

「いいから聞けよ、クソが」

学生時代と変わらず口の悪い女だ。ガサツで横暴で男勝りな赤尾は殺し屋の世界では『美しい女の殺し屋』とも呼ばれているのが僕には信じ難い。赤尾はたまにうんちくを語りたがる癖がある。大抵その話はどれもつまらなくて、僕と坂本くんは聞き流していた。

「いいか?流れ星は宇宙に浮かぶ微小な塵が地球の引力を受けて高速で地球にぶつかり、大気中で発光する現象なんだよ。それを人間は勝手に願いを叶えてくれるロマンチックな何かだと思い込んでんだ。キモくね?」

「へぇ〜」

「そのことを姪っ子に教えたら夢がない〜って泣かれてさ、はは!あれは面白かったなぁ〜!」

時折赤尾の話に出てくる姪っ子とやらはまだ幼いらしい。幼い姪っ子にそんな夢のないことを言ったら嫌われるぞと忠告しようとしたら夜空にキラリと小さな流れ星が流れた。

「なぁ」

きっと赤尾も流れ星を見たのだろう。一瞬だけ静かになったあと僕を呼ぶ。目線だけを右に寄越すと寝転がりながらタバコを吸って紫煙を吐き出す横顔はここではないどこかを見つめているように見えた。

「冬になったらさ、三人でまたここで星見ようぜ。冬の星座ってやつはロマンチックらしいからよ」

「冬の星座ねぇ。その時には僕らORDERに入って大忙しかも」

「ははっ!その時はサボって集合な!」

きっと僕ら三人は近いうちにORDERに所属することになる。今より忙しくなるだろうけど、学生時代と変わらず僕ら三人ならまたこうして集まってバカするのも悪くない。

ちょっぴりニヤついた僕に赤尾は「キモ」と笑うから僕は坂本くんを無理矢理起こして赤尾を置いて帰ろうと提案した。



こんな日々が毎日続くと思っていた。

冬になった時に僕ら三人はあの丘の上に集まることもなかったし、赤尾はこの世界から消えてしまった。

友人をひとり亡くしたあの冬は今でも忘れられないくらい寒かったのをよく覚えている。



誰かが僕の頬に触れてゆっくり目を開けると暗がりでも分かるくらい目の前の恋人が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「シンくん?」

過去の出来事を夢に見るのは初めてのことだ。夢を見るなんて久しぶりだ、と思いながら恋人の名前を呼んだ。

「うなされてたけど大丈夫か?」

頬を撫でていたシンくんの指先が僕の目元をなぞる。涙を流していると思うほどうなされていたのだろうか、僕は心配をかけないように「夢を見てただけ」と答えた。

「南雲も夢を見るんだな」

意外、と小さく笑ったシンくんの揶揄いが混じった言葉に僕も頬を緩めながらシンくんの腰に手を回して抱き寄せる。

「僕だって人間だ、夢だって見るよ」

「どんな夢を見たんだ?」

洗いたてのシャンプーの匂いがしてシンくんの金髪に鼻を埋めるとくすぐったそうに身を捩らせるけど僕は抱き締める力を強めて逃げられないようにすると肩を揺らしてシンくんが笑う。

「大した夢じゃないよ。友達ふたりと星を見る夢」

僕にとってはもうその記憶はかけがえのない思い出になったがシンくんにとっては大した問題じゃないだろう。

「へぇ星かぁ・・・。あ!じゃあ俺とは現実で星見に行こうぜ」

「えぇ?もう冬だし寒いからやだなぁ」

思いついたように提案するシンくんの口調は楽しげで僕は文句を言うも頬を緩める。

「冬って星座が綺麗に見れるらしいぜ。な?それにこうしてくっつけば寒くねーしいいだろ?」

ギュッと僕に抱き着いたシンくんにそんな可愛いことを言われたら僕は苦笑混じりに「しょうがないなぁ」と言うしかない。恐るべし僕の可愛い恋人だ。

「やった!約束な」

子供みたいにはしゃいで小指を立てて僕に向けてくる。指切りなんていつ振りだろう、不思議と胸が弾んで小指を絡ませるとシンくんは律儀に歌まで歌って指切りげんまんをした。

二人しかいない寝室に小さな声で指切りげんまんを歌うシンくんが面白くて僕が笑うとシンくんもへにゃりと笑う。

「なぁ・・・今日こそ、その・・・するか?」

さっきまではしゃいでいたシンくんが急にしおらしくなって呟く。

僕らは付き合って半年が経つ。でもキス止まりなのがシンくんは不安らしくてこうしてたまに誘ってくることがあった。

本当は毎日だって体を重ねたい。誰にも見せたことのないシンくんの快感で善がる姿を何度想像したか分からないし、こうして誘って来てくれるシンくんは健気で可愛らしい僕の自慢の恋人だ。

シンくんの頭を優しく撫でると大きな瞳が上目遣いでこちらを見る。

「そんなに焦らないで。僕はシンくんを大事にしたいんだよ」

「・・・また同じこと言ってる」

「本当のことだから」

そう、僕はシンくんを大事にしたい。

一枚の絵で人生が変わったと言う人間や、一冊の本で人生が決まったという人間を僕はどこかで軽蔑していた。でも、シンくんと出会ってから止まっていた僕の人生の秒針がカチカチと動き出したことを確信した。

ある意味僕は自分の手でシンくんを傷付けてしまうのが怖くて仕方ないのかもしれない。もし、亡き友人のようにシンくんを失ったらと思うとキスだけで酷く満足してしまう。

僕の言葉にシンくんは不貞腐れたように唇を尖らせるから頬にキスをするけどまだ不満そうだ。

「俺はいつだって準備出来てるのに・・・」

「そんな可愛いこと言っていいの?急に僕が襲っちゃうかもしれないよ」

「ふ・・・あはは、くすぐったいって」

腕の中にシンくんを閉じ込めて頬や額にバードキスを繰り返すと不貞腐れていたシンくんが堪らず笑うから唇に触れるだけのキスをする。

「ん・・・」

鼻にかかった甘い吐息が愛おしくて背中に回ったシンくんの手が暖かい。

この温もりを僕は失いたくない、こんな臆病な僕の本音を聞いたらシンくんは笑ってくれるだろうか。

そんなことを考えるも自慢のエスパーの力では僕の心を読み取れないシンくんは唇から離れると「もう一回」と強請ってきた。

可惜夜のようなそんな日々が今度こそずっと続くと、その時の僕は思っていた。




『オリオンの膝下で』II


俺の愛弟子は自慢の部下でもある。俺を慕い、後ろをついてきた一番弟子は今や俺の隣に並びたいと思っていることは親心のような嬉しさがあった。

そんな俺の可愛い弟子は半年前に俺の学生時代からの悪友、旧友とも言える南雲という男と交際している。

南雲本人から「僕、シンくんと付き合うんだ」と珍しく茶化す訳でもなく言い出した日は恐らく一生忘れない。

飄々として、嘘ばかり吐く南雲のことだから俺の可愛い弟子のシンを誑かす、または遊ぶんじゃないかって思って最初は嫁に出す父親のように反対した。

しかし南雲は本気でシンを愛しているらしく、久方振りに見る南雲の素顔を見るのは必ずシンの前だけだ。

まるで赤尾が生きていた頃、バカをしていた時みたいな素の姿が見れて旧友としてシンという存在が南雲にとってかけがえのない恋人なのだと実感した。

シンも南雲と恋人関係になってから南雲の話題になると頬を染めて初々しい素振りを見せながら俺に話してくることがある。

今日も商店の閉店間際に「相談があって」とシンが頬を染めて言ってきたから100%南雲のことだと確信して一つ返事で了承した。

葵に話してから俺とシンは近くのバーで飲むことにした。

「あの、今日はありがとうございます」

『構わない』

俺はあまり酒は得意ではないからウーロン茶を片手に『何かあったか』と心の中で問うとエスパーの力で読み取ったシンが俯く。

「俺・・・南雲と付き合ってるんですけど」

『?半年前から知ってる』

「あっそうですよね。すみません」

珍しくしどろもどろになるシンは今まで恋愛経験がなく、南雲が全て初めてらしくて相談する大人もいなくてたまに俺が話を聞くことがある。

相談内容は可愛いものばかりで俺はウーロン茶を流し込みながら『どうした』と聞くとシンはよく冷えたジンリッキーが入ったグラスを揺らす。

「つ、付き合って半年経ってるのにエッチしてくれないって俺が魅力ないからですかね・・・」

「は」

今まで『初めて南雲が手を繋いできたんですけど、俺どうすればいいですかね』や『キスする時って目を閉じるんですか?』など、どれも小中学生の恋の悩みを聞いていたが突然性的な話を持ってかれて俺の驚きで眼鏡のレンズにヒビが入るところだった。

付き合って半年経っているのにあの南雲が手を出してこない?学生時代では寄って来る女を見定めて遊んではすぐ捨てるフットワークの軽い男が、自分にとってかけがえのない存在である恋人に手を出さないような奥手の男だっただろうか。

「南雲はなんて言ってるんだ」

「俺が勇気出して誘うといつも大事だからってはぐらかすんですよ」

意外にも南雲は本命には奥手らしい。いや、きっと南雲は俺よりシンを過保護にしているのだろう。

大切で、失いたくなくて傷付けたくないのだろう。しかしシンにとってはそれが不安の材料で自分のせいで南雲は手を出してこないと思っているらしい。

「はぐらかしてない。南雲は嘘ついてない」

「・・・大事だとエッチできないんですか?」

純粋な眼差しでそんな質問をしてくるシンは年齢の割にそういった人生経験を乗り越えていないから小さな子供みたいだ。

俺が小さく笑うとシンは不思議そうに首を傾げる。

南雲のそれは、俺にも経験があった。葵に出会って恋をしたとき同じ気持ちになったことがある。だから今は旧友の気持ちが痛いほど分かる。

「お前は南雲にとって唯一の存在だ。アイツも意外と不器用なんだよ。お前の気持ちも南雲にも届いてる」

「・・・唯一」

ポッと耳まで赤くしたシンはジンリッキーを一口飲んだあと一息ついて、へにゃりと照れ臭そうに笑みを浮かべた。

「俺焦ってました。不安になってたけど南雲もちゃんと俺のこと考えてくれてるって分かってたのに」

「それに南雲は耐え性がないからそのうち急に襲われるかもな」

「う。それはちょっと困る、かも」

シンの同意なく強引に抱いたら俺が一発殴ってもいいが、と考えるとシンは慌てて「ダメっすよ!」っと止めた。

それからはシンも肩の荷が降りたように緊張が解れて酒を飲むスピードを上げて惚気話に近いことを聞いた。





「で、酔っ払ったシンくんを送るのめんどくさいから僕を呼んだの」

仕事が終わるタイミングで坂本くんから連絡があって教えられたバーに向かうと既に酔っ払ってテーブルに突っ伏して寝てるシンくんとポテトフライを頬張る坂本くんがいた。

「キミそんなお酒弱くないでしょ。何杯飲んだの」

「ん〜」

肩を揺すって聞いてみるけどシンくんは起きる気配もなく真っ赤な顔のままムニャムニャと口元を動かしている。

いつも一緒にお酒を飲む時はこんなに酔っ払ったことはなかったのに、坂本くんと一緒だから気を抜いたのだろうか。

少し妬ける、と思いながらシンくんを横抱きにして出入り口に待たせているタクシーに向かおうとすると「南雲」と坂本くんに呼び止められた。

「なに?」

「シンを頼んだ」

恐らくシンくんほど飲んでいないであろう坂本くんがそんなことを言うなんて僕は内心とても驚いた。

付き合うことを話したら僕を殺す勢いでボールペンを投げてきた坂本くんとは思えなくて目を丸くしたあと「言われなくても」と言い残してバーを出る。

「ったく、坂本くんと何話したのさ」

タクシーにシンくんと乗って独り言を呟くと寒いのか僕の胸元に擦り寄ってきたシンくんは夢の中だ。目が覚めたら聞いてみようと企てているとシンくんが住むアパートに着いて早足で部屋に入って寝室のベッドに座らせた。

「シンくん、お家着いたよ。服着替えないと」

「ん〜・・・」

「ほら、手伝うから脱いで」

枕元に畳まれた部屋着を広げるがシンくんはそのままシーツに寝転んでしまいそうになるのを背中に手を回して防ぐとシンくんが目を覚ます。

酔っているからぼんやりと僕を見て「なぐも」とへにゃりと笑う姿が可愛くて胸がキュンと鳴る。

「服ーー」

「俺、南雲のこと大好きだから待つよ」

服の裾を掴んで俯いて呟いたシンくんの言葉に僕は固まった。

「南雲が俺を大事にしてくれているように、俺も南雲が大事だから・・・」

「シンくん」

もしかして昨夜誘ったのに僕が断ったことを気にしていたのか、と言おうとしたけど腕を伸ばして僕の首に絡めて抱き着く。

いつもより高い体温のシンくんから寝息が耳元で聞こえて寝言かと思ったけど間違いなくシンくんの本音だろう。

「シンくん、本当は僕ーー」

言いかけたけど、この先の言葉は寝ている間に言うのは違う気がした。僕は仕方なく眠ってしまったシンくんの着ているパーカーを脱がせて部屋着のトレーナーを頭から被せてなんとか腕を通して着せてあげた。そしてシーツに寝かせたあとズボンも脱がせると自然とシンくんの伸びた脚を見てしまう。

「あ」

これは整理現象で、尚且つシンくんは酔っているから仕方ないことかもしれない。下着越しから膨らんで主張しているシンくん自身を見て僕は思わず凝視した。

どうするべきだろうか。このまま放置しておくのも同じ男としても辛いのが分かる、かと言って無理矢理起こすのも可哀想だ。

いろいろな考えを巡らせて僕は生唾を飲み込んでベッドに身を乗り出す。

「シンくん、辛そうだから触るね」

「んん」

僕の声に反応するように吐息混じりの声が聞こえたけど目を覚さない。シンくんの半身を起こして腕の中に閉じ込めてからゆっくり下着の中に手を忍ばせる。

「っあ」

緩く反応したシンくん自身に指を絡ませるとピクン、と身体が震えた。控えめな甘い声に僕はもっと聞きたくなって手を上下に動かすとシンくんは夢でも見ているのか瞼を痙攣させて甘い声を出す。

「下着汚れちゃうね、ずらすよ」

すっかり熱を帯びて硬さを増したシンくん自身は先走りを溢れさせてきたから下着を膝下までずらすと外気に晒されたシンくん自身はぶるりと震える。

「ぁ、あ・・・っ、なぐ、も?」

緩く握り込んで手を上下に動かすとシンくんがトロンとした目を開けて僕を見上げた。夢か現実か区別がつかないのか抵抗をしてこなかったから「うん」と返事をした。

「ん、なに、して・・・ぅ、だめだ、そんなとこ」

呂律が回ってないシンくんは身を捩らせて逃げようとするけど僕の腕の中にいるから逃れることはできない。

「力抜いて、シンくん」

「あ、ぇ?んっ・・・なぐも、待って」

あれだけ僕を誘っていたシンくんは顔を真っ赤にさせて戸惑った表情を浮かべている。恋愛経験が殆どないと以前話していたけど他人に触られたこともないと思うと少し興奮した。

「痛い?」

「ぅ・・・いたく、ないけど、んっ」

先走りが溢れる先端を指先で弄るとシンくんは戸惑いながらも快感を受け入れようとしている。

「なぐも、イクから離れろ・・・」

「大丈夫。僕の手の中に出していいよ」

初めて他人から与えられる快感に悶えるシンくんの表情が可愛くて紅潮した頬や涙を溜めた目元にキスするとシンくんが強請るように自分から唇にキスしてきた。

唇から甘い息を漏らして甘い吐息を漏らすシンくんは色っぽい。手の動きを激しくすると僕の服の裾を掴んで「南雲」「イク」と呟いている。

「っ、あっ、ぅ〜っ!」

身体をビクビクと震わせて僕の手の中で射精したシンくんの額にキスを落としす。ハァハァと肩で息をするシンくんから徐々に身体の力が抜けるのが分かった。

ーーシンくんのイッた顔、すごく可愛かった。ーー

もしセックスをするとこれ以上見たことのないシンくんが見れるのではと欲張ってしまいそうな自分が怖かった。今のまま済し崩しに襲ったら今まで我慢していた僕の気持ち、そして何より僕のことを考えてくれているシンくんの好意を踏み躙ってしまいそうだ。

サイドテーブルからティッシュを数枚抜いて手を拭いてから下着とスウェットを履かせた。

「南雲、ごめん・・・」

布団をかけるとシンくんが僕の手を掴んで謝ってくる。眠そうな重たい瞼のまま、眉に皺を寄せて呟くから僕は苦笑した。

シンくんはどこまでも優しくて健気で可愛い恋人だ。

きっとリオンが今の僕を見たら『キモ、意気地なしかよ』と笑って背中を思い切り殴ってくるだろう。そう考えるといつまでも足踏みしていては前に進めないと感じてシンくんの髪を撫でた。

「謝らないで。僕がそうしたかっただけ、だから」

「でも・・・」

「もう寝よ?おやすみ、シンくん」

眠たげな目元をなぞるとシンくんは耐えられず瞼をゆっくり閉じる。僕の手を握ったまま眠りについたシンくんの手は火照っていて離れることもできたけど僕はシンくんが寝ている隣に潜り込んで手を繋いだまま目を閉じた。





インスタントコーヒーを飲みながら携帯で今日のスケジュールを確認していると寝室から物音がしてコーヒーを飲むカップを持ちながら寝室に顔を出す。

「おはよ、シンくん」

「・・・おはよ」

まだ寝惚けているのか、二日酔いなのか、半身を起こしたままシンくんはうたた寝しているから声をかけるとゆっくりとした動作でこちらを見た。

相当飲んでいたから昨夜のことは覚えていないのだろうか、と考えているとシンくんが「昨日はごめん」とバツの悪そうな顔で謝る。

「酔っていたとは言えその・・・変な手伝いさせちゃって」

触り出したのは僕からなのにシンくんは昨夜のように自分のせいだと謝ってきたから僕は早足でベッドに近づいて端に座った。

「違うよ、僕から触ったんだ」

「で、でも俺昨日酔っ払ってたし・・・変なこと言ってお前を困らせなかったか?」

「全く。それにね、僕決めたんだ」

カップをサイドテーブルに置いて眉を下げて迷惑をかけてしまったんじゃないかって思っているシンくんの手を握る。

「シンくんのこと、大事だからもっと知りたい。いつまでもシンくんを待たせるようなことしてごめんね」

「え?それって・・・」

ポッと頬を赤くさせたシンくんは初々しくて再び昨夜のことを思い出したのか目を泳がせていた。

「今度、星見に行く約束したでしょ?明後日なんてどうかな」

そのデートの誘いはどういう意味を含めているのか理解したシンくんは「うん、平気」と小さく頷いたから僕は力の抜けた笑みを浮かべて頬にキスをする。

「急に襲われなくて良かったね。僕が優しい彼氏で良かった〜」

「自分で言うか?ぷっ、あはは」

抱き締めてシンくんの頬を頬でスリスリしながら言えばシンくんはくすぐったいのか笑いながら身体を捩らせた。

カーテンの隙間から差し込む朝陽がシンくんの笑顔を照らして更に眩しくさせる。キラキラした笑顔、コーヒーの匂い、好きな人の笑い声、こんな幸せな朝はきっと僕には勿体ないのかもしれないと思いつつ幸せな一瞬を噛み締めた。




『オリオンの膝下で』Ⅲ


鼻歌混じりに夜道を軽快に運転していると横の助手席で僕をジッと見つめる視線に気付いて赤信号で停車したところでシンくんを見た。

「僕の顔に何かついてる?」

「・・・いや、別に」

目が合うとすぐに逸らして助手席の窓の景色を眺める窓が反射してシンくんの真っ赤な顔が映る。

「エッチなこと考えてるでしょ」

「なっ!?違ぇよ!南雲が運転してるとこ、初めて見たからつい・・・」

一緒にいる時の移動方法は殆どシンくんの車だから運転はシンくんがすることが多い。今回は僕が星が見える場所に連れて行く、と言ったからシンくんの前で運転するのは初めてかもしれない。

「僕の運転姿に惚れた?」

「うるせー。ちゃんと前見て運転しろ」

ツン、とした素振りで言うシンくんはいつもより緊張して見える。僕が以前このデートの約束をした時からどこか緊張しているように見えるのはきっと星を見たあとのことを考えているのだろう。

街灯がポツポツある場所から離れて人気のない丘に着いたから広々とした駐車場の端っこに車を停めた。

「こんな遠い場所よく知ってたな」

「うん。学生時代の友達と来たことがあって」

友達、と聞いたシンくんは「坂本さん?」と聞いてきたから「あとひとり、口の悪い奴がいた」と返して歩き出す。

僕の隣に並んで歩くシンくんは明かりのない場所だから携帯をライト代わりにして足元を照らしている。

あの時三人で訪れた丘の上と何一つ変わらない景色は僕とこの丘の上だけが世界に取り残された気分になった。ただ、ひとつだけ違う景色があったのは夜空一面に無数の星々が光っていた。

「すげー・・・」

感嘆の息を漏らしたシンくんは携帯のライトを消して顔を上げる。その横顔は無邪気で、実年齢より幼く見えた。

「南雲!この星、名前何だろうな」

「ん?どれ?」

夜空に指を差すシンくんに近付いて目線を合わせると自然と距離が近くなってシンくんが僅かに一歩引く。

「寒くない?」

「ああ、平気だ」

上着とマフラーで防寒しているけどシンくんの鼻先が赤く、手は寒そうにポケットに突っ込んでいる。

「こんなに沢山の星見たの初めてだ」

照れ臭そうに笑ってからその場に寝転んだシンくんに僕は「服汚れるよ」と苦笑して隣に座った。

あの時は三人で川の字になって寝転がって星を見ていた。昔と変わってないように見えた丘の上もシンくんの隣だからか、旧友のことを思い出しても胸が苦しくならない。

「南雲、いま何考えてる?」

手を伸ばして僕の小指を握ってきたシンくんは夜空から目線を外して僕を見上げている。

あまり露骨に思い出すとエスパーのシンくんに見透かされて、旧友の死のことを知ったら僕の心配をしてしまうかもしれない。

「なーんにも考えてないよ」

ヘラリと笑って僕もその場に寝転ぶ。広い丘の上でこんなに近くで寝転んで満天の夜空をふたりだけで見るなんて贅沢だ。

シンくんはそれ以上は何も聞かずに「そっか」と力の抜けた笑みを浮かべたから僕は手を握った。

「シンくんをここに連れてきて良かった」

今まで、ここは坂本くんとリオンと僕との思い出が強くてここに来たら僕だけが取り残されたような気分になりそうだった。

でも今はシンくんが隣にいて、あの頃より寒い冬の空は星が一面に輝いていてリオンにも見せてやりたいくらいだ。

シンくんは僕の言葉を聞いて何回か瞬きをしたあと小さく笑って僕と更に距離を詰めてくる。

「俺もここに来れて良かった」

小さな声で、ここにはふたりしかいないのに内緒話をするみたいに言ったシンくんが可笑しくて僕も笑った。

しばらく星を眺めながら話をしていたけど、途中からシンくんがくしゃみを繰り返したから手を引いて車まで戻ることにした。

「俺は平気だって」

「ほっぺこんな冷たいよ?それに風邪引いたら僕が坂本くんに怒られるじゃん」

助手席に乗ったシンくんの冷たい両頬を撫で回すと「うぶ」と情け無い声を出すもくすぐったいのか身を捩らせる。

「暖められる場所、行こっか」

「・・・言い方がオヤジ臭い」

「じゃあ今からセックスしよっか、の方が若者っぽい?」

文句を溢したシンくんに茶化すと撫でていた頬が寒さ以外の理由で赤くなったのに気付いた。初々しい仕草に僕は引き寄せられるように唇に触れるだけのキスをするとシンくんは目を細めて遠慮がちに僕の服の袖を握ってくる。

「ん・・・」

角度を変えて啄むようなキスを繰り返すと徐々にシンくんの息も上がってきた。唇から離れるともっとキスをしたかったのか、残念そうにこちらを見上げるシンくんの目元を撫でる。

「このままエッチしたくなるような顔しないで」

「なぐも、」

「うん。場所移ろうか」

シートベルトをして車のエンジンをかけるとシンくんもそれ以上何も言わずにシートベルトを着けた。



近場に古びたラブホテルしかなくて仕方なくそこで無人の受付を済まして案内された部屋に着いた。

「ここがラブホ・・・あ!ベッドでかいぞ!」

初めてラブホテルに来たシンくんがキョロキョロと周りを見渡して室内に入って大きなベッドにダイブする。

「なぁ、後で風呂も見てーー」

大きなベッドの真ん中に寝転んだシンくんが起きあがろうとしたから僕はベッドに入ってシンくんの体に覆い被さると動きが止まり、頬が真っ赤になった。

「やっぱ怖い?やめる?」

「っ、やめない!南雲こそビビってんじゃねーの」

せめてものつもりで強気で言うシンくんだけど僅かに不安そうな表情を浮かべるから僕はシンくんの頭を優しく撫でる。

「そうだね、結構びびってる」

「え?」

「好きな人とのエッチで傷つかないか不安なんだよ」

本音を話すとシンくんは大きな目を更に見開かせたあと目を逸らして「俺は」と切り出す。

「南雲になら、傷付けられてもいい」

純粋で穢れを知らない、そんな綺麗な言葉は僕には勿体ない気がした。シンくんを抱き締めると答えるように手を回して僕の背中を撫でるシンくんが愛おしかった。

上着を脱がしながら触れるだけのキスを繰り返して、パーカー越しから胸元に触れるとシンくん自らが服を捲ってくる。

「もっと見せて。自分で脱げる?」

「ん、うん」

唇から離れて言えばシンくんは頷いてパーカーを脱ぐ。着痩せするタイプだと思っていたけどそこらの同年代より鍛えられた身体付きと昔の殺し屋時代の古傷がいくつかあった。

「あんまり見るなよ・・・」

「シンくんの乳首でピンク色で可愛いね」

「っ」

脱いだ服で上半身を隠そうとしたから服を奪ってベッド下に落とす。僕が胸元に直に触れるとピクン、と肩を震わせる。

「僕の手冷たかった?」

「南雲の手あったかくてビックリしただけ」

指先でピンクに色づいた乳房を摘むとシンくんの眉は悩ましげに下がった。まだ快感を得られないからくすぐったいくらいなのかもしれないと考えて顔を近づけて乳房に舌を這わせるとシンくんが「んっ」と声を漏らす。

「な、南雲、どこ舐めて・・・ぁっ」

乳房を舌で転がしたり軽く吸うとシンくんは戸惑いながらも徐々に声が甘くなる。

「う、っ、変な声出るから舐めるのやめろって」

「僕はもっと聞きたいなぁ」

「わっ」

そのままシンくんの肩を掴んで押し倒すとシンくんは驚いた声を上げるもその瞳はどこか期待を孕んでいた。

「舐められるの、嫌?」

「んっ、嫌じゃないけど・・・ゾクゾクする、から」

体を屈ませてシンくんの首筋に舌を這わせると敏感に反応した。その反応が面白くて首筋にキスマークを残すと独占欲が満たされる。

「シンくんの全部、見せて」

伸びた前髪が邪魔で掻き上げながら言えばシンくんは耳まで赤くして頷いてくれた。ベルトを外して下着とズボンごと膝下まで下ろすと既に反応したシンくん自身が顔を出す。

「この前みたいに触ってイく?それとも舐めてあげようか?」

指でシンくん自身を絡ませて耳元で甘く囁くとシンくんはこの前のことを思い出したのか、先端から先走りが出てくる。

「俺も南雲の触る!」

「え?僕はーー」

「いいから!」

勢いよく起き上がろうとしたから危うくお互いの頭をぶつけそうになったのを素早く回避した。シンくんはきっと初めてだからそれなりに僕に迷惑をかけないように勉強してきたのだろう。慣れない様子で僕のベルトを外しながら「俺にもできるから」と言ってくる。

「じゃあお願いしようかな」

自分から脱いで自身を晒すとまだ反応してないけどシンくん自身より大きいからシンくんは大きな目を更に見開いて凝視した。

「こんな大きいのか南雲の・・・」

「そうだよ。これがどこに入るか想像してみ?」

「っ!」

「可愛い、シンくん」

戸惑うシンくんの腹部に触れながら意地悪く言えばこの先の行為を想像したのかシンくんがあからさまに動揺したのが面白くて笑う。

「まだ勃ってないから触って勃たせてよ」

シンくんの手を引っ張って自身に触れさせる弱い力で包み込んでくる。ぎこちない触り方だけど両手で僕自身に触れて上下に動かすシンくんは時折不安そうに僕を見た。

「上手、シンくん」

緩く反応してきたからさっきより硬くなった僕自身にシンくんが徐に体を屈めてくる。何をするのだろう、と思ったのも一瞬ですぐに口を開けて自身に近付くシンくんの頭を抑えた。

「何しようとしてんの?」

「フェラ・・・何かまずかったか?」

まさか初体験の最中に口淫をしようとしてくるシンくんに僕は浅く息を吐いた。

「あのねぇ、初めてなんだから無理しないでいいよ」

「む、無理なんてしてねーよ。俺はただ・・・南雲に気持ち良くなって貰いたいからいろいろ調べて・・・」

怒らせたと勘違いしたシンくんはシュンとした様子で言うから僕は肩を落とす。僕のために慣れないことをしようとするシンくんの気持ちは嬉しいけど無理はしないで欲しかった。

「本当に無理してない?」

「してない」

「嫌だったらすぐに口から出すんだよ?」

「・・・分かった」

しっかりと頷いたシンくんを確認してから僕は頭を抑えていた手を離すとシンくんは反応した僕自身を口に含む。

「ん”む、でひゃぃ・・・」

眉を寄せながら先端を呑み込むも半分も口の中に入らなかったけど初めて見るシンくんの苦しそうな表情に加虐心が疼く。

「舌使って吸いながら上下に動かして・・・そう、上手」

金髪を優しく撫でながらレクチャーするとシンくんは従順に僕の言うことを聞いて口淫をする。届かない根元はシンの両手で刺激を与えて、いつの間にか興奮して先走りが溢れてきた。

「ふ・・・なぐも、なんか出てきた」

「っ、そんなエロい顔しないでよ」

ちゅ、と先端を吸ってから口を開けて舌の上の先走りを僕に見せてくるシンくんは淫靡で指で先走りを絡めとる。

「フェラはもういいから僕もシンくんの触りたいなぁ」

「・・・気持ち良くなかったか?」

まだ達してない中途半端なままだからシンくんは不安そうに聞いてくるから僕は苦笑して頭を撫でた。

「口の中でイくよりこっちで僕はイキたいなぁ」

「!」

わざとらしく囁いてまた腹部に触れるとシンくんは察したのか「分かった」と素直に引いてくれた。

サイドテーブルに置いてある未使用のローションと避妊具を手に取るとシンくんは落ち着かない様子で「南雲」と声をかける。

「ちょっとだけその・・・慣らしたから」

「自分で触ったの?お尻のあなーー」

「言うな!!そうだけど!!」

以前から誘ってきていたからそれなりにシンくんも準備はしていたのだろう。露骨に言葉にしようとすると肩を軽く叩かれてしまった。

「じゃあ、確認したいから四つん這いになって僕にお尻向けてよ」

「うぅ・・・」

「僕の為に弄ったんだからそれくらい出来るよね?」

全裸でそんな恥ずかしい姿勢に抵抗がありそうだったけどこの姿勢が一番負担が少ないのを恐らくシンくんも調べたのだろう。枕に顔を埋めて四つん這いになって僕に秘部を晒す姿だけでも充分な興奮材料になる。

「シンくんのお尻ちっちゃくて可愛い」

「ひゃっ!くすぐったいからやめろって・・・」

「は〜い」

試しに小振りな臀部を揉むとシンくんの内腿が震えた。そのうち性行為に慣れてきたらいろんな場所を開発できそうだなと考えながらローションを手のひらに馴染ませる。

人肌になったら濡れた人差し指でほんのり赤く腫れた秘部の周りを撫でると枕からくぐもった声が聞こえた。

ゆっくり人差し指を押し込むと何回か自分で触れていただけあって抵抗なく入った。しかしまだ狭く、自分の指だと奥まで届かなかったのか二本に増やして広げるように動かすとシンくんから声が漏れる。

「痛い?」

「ぁ、いたく、ないから」

本来受け入れるべき器官ではないから異物感が拭えないのだろう。シンくんのまだ快感を得てないくぐもった声は切なげでどうにかシンくんの気持ち良くなれる場所を探すために指を増やした。

奥まで進むと小さな窪みがあって指の腹で押し付けながら萎えたシンくん自身に触れるとシンくんの体が大袈裟なくらい震える。

「あ、ぁ、あっ、なに、これ・・・ッ」

「ここ気持ちいい?」

「ふッ、ぁ、っ、分かんないけどビリビリする」

未知の快感に戸惑うシンくん自身はすっかり先走りを溢れさせてもう限界が近そうだ。指を動かす度にローションの水音が聞こえて奥を刺激する度にキュウと締め付けてくる。

「ぁ”、イく、なぐも、っ、ぁっ、〜〜っ」

手の中で絶頂を迎えたシンくんは体を痙攣させて未知の快感の余韻に浸った。

そんな淫らなシンくんに我慢ができなくて昂った自身に避妊具を着けて「挿れるからこっち向いて」と声をかけるけどシンくんは枕に顔を埋めたまま首を振った。

「いま、顔見られるの恥ずかしい、から」

ここまでしておいて今更顔を見られるのが恥ずかしいと言うシンくんに僕は力尽くで抱き上げると悲鳴に近い声が上がったけど気にせず仰向けでシンくんを寝かせて覆い被さった。

「全部見せてって言ったじゃん。シンくんも僕の全部見てて」

頬は赤くなって涙で濡れた大きな瞳は僕だけを映している。赤くなった目元を撫でるとシンくんは「分かった」と言った。

足を広げさせて濡れた秘部に自身をあてがうとシンくんは不安と期待に満ちた眼差しで見ている。ゆっくり、なるべく負担にならないように先端に押し込んだ。

「ゔ・・・っ」

「痛かったらやめるからね」

そう言う僕だけど今まで我慢していたから実際繋がれることが嬉しくて腰をしっかり掴んで逃げられないようにしている。

眉を寄せるも僕を見て、縋るように背中に手を回す仕草が愛おしくて半分ほど入ったところで片手でシンくん自身に触れた。

「ぁ、あ”ぅ・・・ッ」

控えめな喘ぎがもどかしく感じるも奥に進んで指で触れて気持ち良さそうにしていた場所に当たるとシンくんの体が震える。

「ぅ、あっ、そこ、だめ、ヘン」

「ヘンじゃなくて気持ちいいんじゃない?」

「あ、あっ、あっ、気持ち、いい」

緩く律動を始めると動きに合わせてシーツに乱れた金髪が揺れて喘ぎも甘くなった。初めての快感で戸惑いながらも溺れる姿は普段のシンくんより色気があって触れるだけのキスをするとシンくん自身から先走りが溢れる。

「っ、あんまり締め付けないでよ。すぐイッちゃうじゃん」

「ぁ、う、っ、なぐも、なぐも」

キスの合間から喘ぎと僕の名前が漏れて舌を口内に捻じ込むと熱くなった舌が絡んできた。深く口付けながら律動も激しくなっていって夢中で快感を得るためにシンくんを抱き締めて腰を振った。

「あ〜やばい、気持ち良くてもうイきそう。シンくんも一緒にイこうね」

「ん”っ、一緒にいく」

根元まで挿入して苦しいはずなのに僕にしがみついて快感を得ようとする姿が可愛くて仕方ない。僕とシンくんの息も荒くなってシンくんが体を震わせて二度目の絶頂を迎えると甘い締め付けに僕も避妊具越しから射精した。

荒い息を整えるもなかなかお互い離れ難くてしばらく抱き合っているとシンくんが自分の腹部を撫でた。

「ここ、南雲の出てる感じする」

「そういうこと言うの反則」

「?」

ぼんやりとした様子で嬉しそうにそんなことを言うからつい二度目もしようと思ったけど初めてで二度も射精したシンくんの体力は限界そうだ。

「しあわせだな、南雲」

「・・・うん」

手を伸ばして僕の頬を撫でたシンくんの手はもう冷たくなくて汗ばんでいる。その温もりが愛おしくて手に頬を擦り寄せて幸せを噛み締めた。

僕らは一歩進んで更に深く繋がることが出来た気がした。これからもこんな頑丈で幸せな日常をシンくんと過ごせると思うとちょっぴりニヤついてしまいそうだ。

このまま眠ってしまいそうなシンくんの手を引いてお風呂に入ろう。そしてまた初めて告白をした時みたいに「大好きだよ」と耳元で囁いたらどんな顔を見せてくれるだろうか。

そんなことを考えながらシンくんに愛おしさを込めてキスを送った。



「新しい仲間が必要だと思わない?」

ゲーム画面に夢中になっていると読書をしていたボスが急に呟いた。いつもの独り言かと思ったけど疑問系だったから俺に聞いているのだろう。

「あ〜確かに今のメンツだとボス戦キツいっすね」

「楽がやってるゲームの話ではありません。・・・全く、有月様のお言葉を何も聞いていなかったのですね」

ソファーに座るボスの隣に立つ鹿の剥製を頭に被った鹿島さんに怒られたけど俺はそっぽを向いてゲーム画面に再び視線を戻す。

「仲間って候補いるんすか?」

カチカチとボタンで操作しながら聞くとボスは一息ついて「そうだね」と肯定した。

「仲間というより暇潰し、かな」

「?」

意味が分からなくてゲームの操作を止めて顔を上げるとボスは何か考える仕草をしているが口元の笑みは隠しきれていない。

「ゆくゆくは僕らの仲間になったらいいなって思っているんだ。でもその前に調教が必要でね」

「!有月様もしかして以前話していた・・・」

「ああ、そうだよ。『彼』が欲しい」

恐らく鹿島さんには話していたのかボスの言葉にもう誰か分かったのか剥製越しから「しかし彼は」と唸るような声が聞こえた。

「じゃあソイツ死なない程度にボコして連れて来ればいいっすか?」

ゲームもちょうど終盤だしキリ良く終わらせたから仕事でもしてやるか、と椅子から立ち上がるとボスはその言葉を待ってたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「うん。そうだ、ついでに京も呼ぼうかな」

「ハッ、それはこの鹿島が承りますますが何故あの映画監督を?」

「『面白いものが撮れる』と言えば来るからとりあえず連れてきて」

「かしこまりました」

深く頭を下げて鹿島さんはさっさと部屋を出てしまった。あの映画監督は俺から見ても信用できなくて何より映画の話しかしないからつまらない。

「楽、なるべく慎重にね」

「は〜い。そんなに欲しいんすか、彼ってヤツ」

調教、ということは既に誰かの傘下にいる奴だろうか。そんな奴がいなくても俺がいるから十分だろうと言いたげに聞くとボスは真っ直ぐ僕を見たあと本を開いた。

「欲しいね、僕らの正義への尊い犠牲になって貰いたい」

「ウワ妬ける〜」

鼻で笑うとボスも口角が上がる。この笑みはこの先のことを考えて楽しんでいる様子だ。

「で、そいつの名前は?」

「ああ。楽にはまだ伝えてなかったね」

そう言って白スーツの胸ポケットから写真を一枚取り出して俺に渡してくる。写真を一瞥したあともう一度ボスを見ると「頼んだよ」と言われた。

「彼の名前は、」








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