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『オリオンの膝下で』IV
眠ってしまいそうなシンくんを引っ張って一緒にお風呂に入るとシンくんは限界らしくて、僕の肩を枕代わりにして寝息を立て始めた。
普段二人きりになれる空間は殆どシンくんの家のアパートだったからこうして大きなお風呂で二人で入ることは初めてだ。
自分の濡れた髪を掻き上げて暖かくなったシンくんの頬を軽く指で突くと体を捩らせるシンくんが薄目を開ける。
「ん、ごめん・・・。ちょっと寝てた」
「いいよ。でもお風呂で寝るのは危ないよ〜」
まだ眠そうなシンくんの頬を軽く抓ると「んぶ」と気の抜けた声を出すシンくんに笑うとシンくんが手を握ってきた。
目を合わせずに指を絡めてきたシンくんは数分前まで淫らな姿を見せていたとは想像できないくらい初々しくて背中を丸めて触れるだけのキスをしてみる。
無防備な唇は暖かくて啄むようなキスをするとシンくんは大きな瞳を細めて頬を赤らめた。
「初めてのエッチどうだった?どっか痛いとこある?」
「どこも痛くねーって。・・・それにその、気持ち良かったし」
尻窄みになっていった言葉だけどしっかり僕には届いて嬉しくなって頬に触れていた手を胸元に這わせるとベッドの中で見た時のように肩を震わせる。
「っ、エロい触り方すんな!」
「エロいことしようとしてるから仕方ないじゃん」
胸元に触れる手を掴んだシンくんが怒るけど大した抵抗はしてこないからもしかしたら二回目も出来るんじゃないかと企んだ。
しかしシンくんは真っ赤な顔で「まだ、ダメ」と小さな声で呟いた。
「まだ?」
「だ、だってまだ・・・ココんとこ南雲のが入ってるみたいで・・・」
ココ、と言うシンくんが手で自分の腹部を撫でる。僕はあまりにも初々しい仕草に胸がキュンと鳴って「分かった」と身を引いて再び隣に座った。
ーー可愛すぎる・・・。ーー
危うく興奮しそうになったけど無理強いはしたくないし何より可愛かったから大人しくしていると甘えるようにシンくんが体を傾けてくる。
「南雲は無理、してねーか」
「え?僕?」
「俺初めてだったし南雲めちゃくちゃ優しく抱いてくれたから我慢してるんじゃないかって・・・さっきも2回目、シたそうだったし」
そう言ったシンくんの指先は震えていた。
「シンくん、僕は無理なんてしてないよ。シンくんとエッチして前よりも深く繋がることができて凄く幸せだ」
震える手を握り返すと不安げな眼差しで僕を見上げるシンくんに微笑んでキスをする。
「シンくんの側にいるとココがあったかいんだ」
握った手を引いて自分の胸元に触れさせるとシンくんは大きな瞳を更に丸くしたあと「俺もあったかい」と呟く。
「それにこれから先、何回もエッチするんだし覚悟しててよ?」
「っ」
「あ、いまエッチしたとき思い出したでしょ。可愛いなぁ〜」
明らかに風呂以外の理由で赤くなった頬を撫でるとシンくんは言い返せないのか唇を噤む。揶揄うように頬を指を突くと子供みたいに不貞腐れるから可愛くて抱き締めた。
「シンくん、大好きだよ」
「・・・俺も南雲が大好き、だ」
引き寄せられるように濡れた暖かい唇にキスをする。シンくんは嬉しそうに目を細めて僕からのキスを受け入れて背中に手を回してくれた。
早朝に殺連本部から連絡があって背中を丸めて寝息を立てるシンくんを起こさないようにベッドの端に座って携帯を連絡を確認する。
ーーXに殺連関係者が何人か殺された。しかもこの場所・・・坂本商店からそんなに遠くない。ーー
Xは坂本くんの首に賞金を賭けた。その理由も分からないが殺連の関係者が次々と殺されている。
坂本商店に近い廃墟で殺されたらしく、ちょうど僕に近辺を調べろと本部から命令があった。
ーー坂本くんやシンくんには話さないでおこう。ーー
彼らはもう殺し屋ではない。ORDERとしても、個人としてもXには僕本人が仕留めたいと思っている。何より恋人のシンくんが知れば、尊敬している坂本くんを守ろうと自ら危険に飛び込んでしまう可能性があった。
「ん〜・・・なぐも?」
「!」
シーツが擦れる音と小さな声が聞こえて素早く携帯をポケットに突っ込んで振り返るとシンくんは寝惚けたままシーツをまさぐって僕を探している。
「僕はここだよ」
「・・・仕事か?」
ベッドの中に入ってシンくんに近付くと目を擦りながら聞いてきた。やはりシンくんは察しが良くて僕は苦笑を浮かべながら隣に寝転んだ。
「そうだけど、大丈夫。もうちょっと寝よ?」
「本当か?」
「うん」
こんな時、嘘つきな僕はとても役に立つ。恋人に嘘をつくのは申し訳ない気持ちがあるけど、シンくんは「そっか」とそれ以上何も聞かないでくれた。
「なぁ、今日は俺の家来るか?」
「仕事が終わったら行こうかなぁ」
そう言うとシンくんは嬉しそうに笑みを浮かべて身体を起こしてベッドを出たかと思えばハンガーにかけた上着のポケットを漁ってから戻って来る。
「コレ、南雲に渡したくて」
「ーーシンくん」
渡してきたのはウサギのキャラクターのキーホルダーが付いた鍵だ。その鍵は紛れもなくシンくんが住んでいるアパートの部屋の物で僕が驚いて顔を上げるとシンくんは照れ臭そうに頬を赤く染める。
「合鍵。これからはこれで入って『ただいま』って言えよ。・・・俺が特別にメシ作って待っててやるから」
合鍵を受け取るとシンくんは赤くなった顔を隠すように僕に背中を向けて寝転んだ。初めて貰った合鍵に僕は心臓の音が不規則に忙しなく鳴るのを感じながら後ろから抱き締める。
「その時はおかえりって言ってね」
「・・・ああ」
「夜ご飯はオムライスがいいな。南雲大好きってケチャップで書いてね」
「プッ、あはは。仕方ねーなぁ」
わざと強く抱き締めると腕の中のシンくんは肩を揺らして笑うから頸に口付けるとくすぐったそうに体を捩らせた。
「ーー南雲の帰り、待ってる」
「うん。帰る場所があるのってこんなに嬉しいことを僕に教えてくれてありがとう」
サラサラな金髪を指ですくとシンくんは寝返りをうって僕の胸元に額を擦り付けてくる。
そして次第にシンくんの寝息が聞こえて僕も暖かい温もりに瞼が重くなって目を閉じた。
曇天模様の空を見上げながら、どこか湿った空気の廃ビルに足を運ぶ。こんな分かりやすい場所をXたちが拠点にしている訳ではないのに、殺連本部は近辺をくまなく探せと言うから僕はウンザリしながら人の気配がないビルの階段を駆け上がる。
上着のポケットに手を突っ込むと今朝シンくんから貰った合鍵に触れて僕は自然と頬が緩んだ。
早く仕事を終わらせてシンくんが待っている場所に帰りたい。
他のORDERも調査のため近辺にいるらしいが連絡がないあたり、どれもハズレらしい。
埃臭い室内をひとつずつ入って確認するけど人間がいた形跡もない。何か手掛かりになるものが欲しいが、と考えていると電話がかかってきた。
「神々廻、お疲れ〜」
『偉い呑気やな』
「そりゃあ誰もいない廃ビルにいるからね」
神々廻は確か大佛とここから少し離れた場所にいる。収穫がないからそろそろ落ち合う内容の電話だと思っていたが神々廻の声色はどこかいつもと違う。
「そっちは?何か収穫あった?」
「あ〜・・・せやな。収穫と言えば収穫やな、これ」
「?」
言葉を濁す神々廻は珍しくて僕は足を止めて「なに?」と聞いてみる。
『俺と大佛が行った場所に殺連と深い繋がりがある組織の拠点にバツ印が付いた地図と写真を見つけた』
なんとアタリを引いたのは神々廻と大佛が行った場所らしい。僕は回れ右をして階段を降りて二人がいる場所に向かおうとすると電話越しで『南雲は』と神々廻が切り出す。
『坂さんとこのバイトくんのこと知ってるか?』
「は」
神々廻の質問に思わず足を止めて耳を疑った。何故いまここでシンくんの話が出てくるのだろうか。僕の声色に何か気付いた神々廻が電話越しで浅く息を吐く。
『よう聞きや、南雲。恐らくXはーー』
車を停めて外に出ると築年数が大分経過したアパートを見上げる。アパート前には自転車が一台、これは楽が乗っていたものだと判断して呆れたように肩を落とす。
階段を上り、情報にあった部屋番号の前の扉は中途半端に開いているのが目に入ったから楽はもう中にいるらしい。
「全く・・・自転車に乗って人攫いなんて聞いたこともありません」
躊躇いなく土足のまま扉を開けて室内に踏み入れるとワンルームの部屋にはやはり楽がいた。
「あ、かひまひゃん」
咀嚼しながらこちらに気付いた楽が軽く手を振るう。ワンルームの散らかった室内に立ったまま楽が呑気にオムライスを食べているから頭を抱えた。
「あなたは何をしているのですか」
「ん?体動かしたら腹減ってさ〜ちょうどオムライスあったから」
自由奔放、飄々とした態度の楽とはソリが合わないが有月様には『楽を手伝って』と命令されているから従わなければならない。
「行気が悪いですね。ところで『彼』は」
「ここ」
そう言って足元に転がった青年を楽が軽く蹴った。蹴られた青年は意識を失っているのか反応はなく、近付いて状態を確認する。
「殺してはないみたいですね」
「まぁ、ボスの命令だし。ていうかコイツ弱くね?一瞬強くなったかと思ったけどすぐ気絶したんだけど」
強く頭を打ったのか、後頭部には血がついている。気絶している彼を見ながら胸ポケットから未使用の注射器を取り出した。
「何それ」
「念の為です。ほら、いつまでも食べてないで彼を運んでください」
袖を捲って腕に注射すると彼の身体がビクンと震えるが起きる気配はない。大半食べ進めている楽に指示すると「へいへい」と仕方なさそうに皿をテーブルに置いて彼を担ぐ。
「意外と美味かったから鹿島さんも食べれば?あと一人分あるし」
「・・・あと一人分?」
情報では彼は一人暮らしのはずだ。テーブルには確かに楽が食べていたオムライスの他にラップを被せた綺麗な形のオムライスがテーブルに置いてある。もしかしたら恋人がいて帰りを待っていたのかもしれない。
しかし今の自分たちにはそんなものは興味がなければ関係ないからそのまま部屋を出るため足を進める。
「残しておきましょう。その人のために、ね」
「?」
深く考えずに首を傾げた楽を横目に「早く有月様の元に」と呟いて部屋を出た。
『オリオンの膝下で』Ⅴ
遠くから悲鳴が聞こえて読んでいた本から視線を逸らす。大分集中して読んでいたみたいで、あれから何時間経ったのかボンヤリ考えていると同じ方向から物音がした。
重い腰を持ち上げてソファーから立ち上がる。
本の続きを読みながら部屋を出ると壊れた照明の廊下はやけに薄気味悪くて、何より暗いから本が読みづらい。
仕方なく本を閉じてから歩き出すと奥の部屋に近付く度に声が大きくなる。数人の気配はいるのにひとりの声しか聞こえなくて僕はつい、小さく笑ってしまった。
「やぁ、楽しそうだね」
扉を開けて声をかけると目の前には楽がいる。マットの上で中途半端に服を脱がされた青年を組み敷いて既に挿入まで進んでいるのを見ると「あ、ボス」と平然に楽が顔を上げた。
うつ伏せになった青年とセックス、いやこれは恐らく強姦している楽はチラリと近くでカメラを回す男を睨む。
「むっ、カットだ!誰がカメラ目線をしろと言った!」
「うるせ〜・・・ボス、こいつ殺していいっすか」
真剣にカメラを向けていた京が楽を叱ると舌打ち混じりにそっぽを向いて腰を揺らす。
「あ゛、あ゛っ」
マットの上で微動だにしなかった青年が楽の動きによって甘い声を出した。近付いてしゃがむと金髪の青年の瞳は虚ろで抵抗する力は既に奪われたらしい。
「有月様!お目覚めになられたのですね」
部屋に入って来た鹿島に声をかけられて「うん」と短く返事をしてから青年の金髪を掴んで顔を上げさせる。
目が合って僕を睨むも、何かしら薬を投与されているのかその瞳には覇気はない。
「なぜ楽は彼とセックスしてるの?」
金髪を離すと彼は力が入らないのか、マットに顔を突っ伏して楽が与える快感に敏感に反応した。
「え?あ〜・・・鹿島さんがヤッていいって」
「なっ!私はそんな破廉恥なことは言っていません!」
「言っただろ、コイツORDERのナグモって奴と付き合ってるからーー」
「南雲?」
聞き覚えのある男の名前につい声が低くなる。その声を聞いた楽が黙り、そして鹿島が携帯を僕に渡してくる。
「これは?」
「彼の所持していた携帯です。GPSや発信器を取り除くついでに近辺のことを調べたら興味深い内容がありました」
「へぇ」
携帯を操作してメッセージアプリを開くと登録された人数は少ないものの、どれも他愛のない会話が殆どだった。
その中で『南雲』という名前を見つけて確認するとメッセージの内容は他と違っていて僕は「なるほど」とメッセージを遡りながら笑う。
まさかあの南雲が同性の坂本太郎の愛弟子である彼に惚れ込んでいるなんて夢にも思わなかった。
「坂本太郎の愛弟子だけじゃなくて、あの南雲の恋人だったんだ」
「それ聞いたらコイツがハメ撮りさせろって言ったんすよ」
「ハメ撮りじゃない!これは映画になるんだぞ」
そう言って京が再びカメラワークを確認し始める。
「気高く、そして純粋に愛し愛されている弱く脆い少年が恋に堕ち、Xたちの手によって奈落に堕ちていく新感覚映画だ。俺の映画に出演出来ることを泣いて喜べ」
「は?じゃあ俺モブってこと?マジムカつくからやっぱ殺そうかな」
全く噛み合わない二人の会話を聞きながら僕は彼と南雲のメッセージの内容を読み続ける。
「ーー吐き気がするほどの純愛だな」
てっきり南雲に遊ばれているのか、はたまた何か裏があるかと思ったが南雲が彼に向けて送るメッセージはどれも人間じみていて、彼を愛しているのが伝わる言葉たちは学生時代の飄々としていた南雲とは違っていた。
「なぁ〜ボスもヤろうぜ。コイツ結構イケますよ、っと」
「ぁ、あ゛、あっ・・・っ〜〜!」
楽が奥を突くと彼の体は大袈裟なほど震えて絶頂を迎えたのか、体中が痙攣している。
「カットだ!あぁ・・・さっきの絶頂を迎えた時の表情、強姦されて薬で抵抗できないにも関わらず強い快感に逃げられずに苦しみながら達する顔・・・!リアリティがあって良い!しかしうつ伏せでは映しづらいから今度は正常位で繋がれ!」
「うるせ・・・。ボス交代〜」
「僕かい?」
本来ならば彼に拷問を用意して楽も鹿島に任せようとしたが、いま彼にとって一番の拷問はコレかもしれない。
坂本太郎の愛弟子、そして南雲の最愛の恋人である彼に興味が湧いて「いいよ」と答えると京の口角が上がる。
「面白い構成になりそうだ」
「有月様!そんなことされなくても・・・」
咎めるような声を上げる鹿島を無視して楽に陰茎を抜かれてまた体を震わせる彼の肩を掴んで仰向けにさせた。
「コイツめちゃくちゃ暴れたから鹿島さんが薬飲ませたり注射沢山打ったら大人しくなったぜ、ボス」
「そんなに暴れたの?凶暴な猫を捕まえてきちゃったなぁ」
彼の首筋や腕には赤紫になった注射痕が残っていて今の彼には戦意は感じられない。
「鹿島、明日以降も死なない程度に彼に薬を投与しなさい」
「はっ、かしこまりました」
すぐに返事をした鹿島は頭を下げたあと部屋を出て行った。僕はマットの中に入って寝転んでいる彼を見下ろしてから「そうだ」といいことを思いついてマットから出て僕らを見物しようとしている楽を見た。
「楽も混ざらない?せっかくなら二人で楽しもうじゃないか」
「・・・ボスと3Pってこと?え〜フクザツだなぁ」
「そんなこと言って君まだ出してないだろ?」
混ざることを提案された楽が鼻で笑うも、否定はしてこないし僕に犯された後の彼をまた犯すつもりだったのだろう。
「そもそもボスこいつで勃つ?」
「ん〜彼がレイプされたことを知った坂本と南雲のことを考えると興奮して勃起できると思う」
平然と答えると楽が小さく笑って僕たちに近付く。意識があってもボンヤリしている彼の瞳が徐々に怯えに変わってその場にしゃがんで足を開かせる。
さっきまで楽自身が入っていた秘部は赤く腫れて、物寂しそうに蠢いていた。
「すごいね、南雲に教え込まれたのかな?」
「っ、なぐも」
南雲、という言葉に反応した彼が弱々しく名前を呼んで動かなかった体が逃げるようにマットから出ようとしたから腰を掴んで引き戻す。
「自分以外に犯された体を南雲はなんて言うだろうね」
「っ!」
「今日から僕らの仲間になるんだ、沢山可愛がってあげるよ。この映画が出来たら南雲と一緒に観れば?」
携帯のメッセージのやりとりから見て南雲は彼を大事にしているのが分かる。逆に大事にしすぎて、赤尾リオンのように大事な存在がまた消えることに恐怖しているのではないかと手に取るように分かる。
ーーそれなら彼も壊して、奪ってしまおう。ーー
「ーー!」
そういえば彼はエスパーだったことをすっかり忘れていた。以前ラボを乗っ取って読心の超能力を持つ彼を攫おうとしていたのが随分懐かしい。
僕の考えを読み取った彼が恐怖に満ちた表情に変わり、その恐怖した表情が加虐心を煽って興奮した。
勃起した自身を曝け出し、濡れた秘部にあてがうと「やだ、やだ」と僕の腕に触れて首を振ってくる。
「大人しくしろって。ボスが可愛がってやるって言ってんだからさ」
腕に触れて抵抗する彼の手を楽が掴んで頭上に移動させた。先端を秘部に押し込むと彼は足をバタバタと暴れて、あれだけ薬を投与されたのにまだここまで抵抗できるとは意外だった。
「ぐ、ぁっ、あ・・・っ」
虚ろな瞳を揺らしてだらしなく喘ぐ声は掠れていて、非常に僕好みだ。
「すごく柔らかいし狭いな。もしかして南雲とはまだそんなにエッチしてなかったの?」
「っ」
ーー分かりやすい子だ。ーー
きっと彼は南雲にとって生きてる人間のなかで一番大事にしたい存在だ。そんな彼を大事にするあまり、愛情表現のひとつでもあるセックスをして恋愛に疎い彼が傷付いてしまわないか恐れたのだろう。
彼の快楽を受け入れるのに慣れてない仕草とウブな表情はあまりセックスの経験がないことは明白で僕はクスリと笑って更に腰を進めた。
「は、ゔ、っ、や、だ・・・」
「いいぞ・・・いいぞ!恥じらいながらも抵抗するが逃げられずに快楽を味わうその表情!とてもカメラ映えする顔をしているぞ!」
カメラワークを変えながら歓喜する京に楽がまた舌打ちするも文句は言ってこなかった。
奥に進む度に薬で強い快感を得ている彼の中が僕自身を迎え入れるように締め付ける。まだ動いていないのに触れていなかった彼自身はすっかり勃ち上がっていた。
「楽、おいで」
「・・・はいはい」
半分ほど入ったところで楽が彼の手を離すも抵抗なんてもうできないのか固定しなくても彼の手は頭上に垂れている。
楽が再びズボンと下着をズラして彼の顎を掴んで無理矢理横向きにさせて緩く反応した自身を口に押し込む。
「っぐ、む・・・っ」
「言っとくけど噛んだらお前の右耳取るから」
突然陰茎を押し込まれて苦しそうに眉を寄せるも楽の脅しの言葉は彼に届いたのか、息苦しさに噎せながらも楽自身を受け入れた。
「シンくん、動くよ?」
「っ、ゔ、む゛っ、っ」
腰を強く掴んで律動を始めると口淫を強要されている彼の体が跳ねる。瞳からはポロポロと涙を流すから腰を揺らしながら体を屈めて涙で濡れた頬を舐めてあげた。
「っ」
「これだけで感じるの?可愛いね」
耳元で低く囁くと中が締め付けられて鼻で笑った。
それなりに鍛えられた上半身を撫でると敏感に反応するも口淫をされているから声がくぐもる。
「喘ごうとして舌動かしてくるのエロ〜」
緩く反応していた楽自身も徐々に硬さを帯びて彼の後頭部を掴んで陰茎を押し込まれて彼の太ももが痙攣した。
息が吸えなくて窒息するギリギリまで押し込んでから一気に髪を引っ張って陰茎を引き抜くと彼の口から白い粘り気ある唾液が垂れる。
「何コイツエロい」
「楽気に入った?」
仲間に引き入れようとしていた時に唯一納得していなかった楽が彼に興味を持ったことは嬉しいことだ。
人に執着しなくて、僕以外の他人に冷たくて興味持たない楽の側にちょうど同年代くらいの同性がいたら楽しいんじゃないかと思った。
「気に入ったなら君のペットにすればいい」
「え〜?でもコイツ弱いから連れ回せないっすよ」
「エスパーの力を駆使すれば君と二人は上手くいくよ」
咳き込む彼を他所に容赦なく律動を激しくしながら楽と会話すると「その会話は台本にないから却下だ」と京が独り言のように呟く。
「ん゛っ!あ゛っ!ッ〜」
「またイッたの?」
こちらの質問には答えられず、彼は奥の前立腺を突かれてまた絶頂を迎えてしまった。楽が手を伸ばして腹部に飛び散った精液をわざと臍周りに塗りたくって下腹部を押すと彼の喘ぎが甘くなる。
「シンくんココ押されるのが好きなんだ」
「は?マゾじゃん」
臍下あたりの、ちょうど僕自身が入っている下腹部を押すと彼は敏感に反応した。
「俺まだ出してねーから頑張れって」
「ん゛ぐ・・・」
楽自身の口淫が再開されるも先程とは違って抵抗もなく、むしろ舌を使って奉仕しているのが分かる。
慣れない暴力的な快感で自我が壊れた彼にはきっと薬が抜けてからとんでもない絶望が待ち侘びているだろう。
「シン、だっけ?口の中に出すからちゃんと飲めよ」
どうやら楽は彼の名前さえ覚えていなかったがやっと覚える気になったらしい。そのくらい気に入ってるのだろう、内心微笑ましく感じていると彼自身からは先走りが先端に溢れている。
薬で感じやすくさせられていくら絶頂を迎えても収まらない燻りが苦しいのか彼は自らの手で自身を慰め始めた。
「っ」
楽が息を詰めて彼の体がまた跳ねる。達したのか楽は恍惚な溜め息を漏らしながらゆるゆると腰を動かして精液を彼の口内に注ぐ。
「ん、ぅ」
陰茎が口の中から離れて楽が開いた彼の口を手で押さえると喉元が何回か動いた。楽の手が離れる彼は楽に見せるように口の中を開けて見せるから楽は小さく笑って彼の口の中に指を入れる。
「む、ぁっ・・・」
「楽のを気持ち良くしたんだから次は僕にも奉仕して欲しいな、シンくん」
「ひゃ、あ゛っあ!」
前立腺を抉るように突くと彼は悲鳴に近い喘ぎを上げた。ピストンを激しくさせ、下腹部をわざと強めに押すと彼の口が酸素を取り込もうとハクハクと動く。
「南雲はまだ君がこんなに乱れるところを知らないんだろうね」
「あ゛っ、なぐ、も、なぐも、ぉ、ッ、ごめっ・・・ごめんなさぃ・・・ん゛っ」
未だに恋人の名前に反応した彼は泣きながら謝るが中では僕自身に感じて、善がっていてそんな姿がアンバランスでとても魅力的だった。
「シンくんに凄く興味が湧いたよ。ねぇ、南雲にはもう中出しされたの?」
「ぁ、あっ、やだ、ぁ゛、ッ」
「そうなんだ、まだ中出しされたことないんだね」
途端に弱い抵抗を見せてきてまだ自我が完全に壊れていないことに関心しつつ、どんどん彼を快楽に追い詰めていく。
「やだ、やだ、やだ!なぐも、なぐも」
「人の名前出して煽るタイプ?もう二度と名前呼べないくらい犯してあがようか」
下腹部を押していた手で勃ち上がった彼自身に触れるとビクンと大袈裟なくらい体が震えて虚ろだった彼の瞳が僕を睨んだ気がする。
「ーー気に入った、すごくイイね」
口角を上げて強引に奥を突くと射精を促すような中の締め付けに息を詰めて達した。彼も殆ど同じタイミングで絶頂を迎えて、薄くなった精液を僕の手の中に吐き出す。
「すごい、まだ締め付けてきてるね」
「あ、ぅ」
中に出されているのも快感なのか彼の瞳はさっきと同じ虚ろなものに戻って短く喘ぐ。ゆっくり引き抜くと彼は静かに涙を流した。
秘部から受け止めきれなかった精液が溢れて、京がすかさずカメラを向けて真剣な眼差しで彼を映す。
この映像を観たら坂本と南雲はどんな顔をするのだろうか、それを考えると心の底から楽しくて仕方ない。
荒い息を繰り返す彼の乱れた金髪を撫でて「これからもっと楽しもうね」と耳元で囁いたあと、濡れた頬を再び舐めてみる。
2回目の彼の涙はなんだか甘い味がした気がした。
昨日と同じ薬を投与された彼はまだ尚自我をギリギリまで失っていないらしい。
「これ以上与えたら死ぬ可能性がありますが、どうしますか?」
犯されたことが余程屈辱で、もう逃げられないことを悟った彼は舌を噛んで自害しようとしたから口枷を着けているらしい。
彼の様子を淡々と離す鹿島に「そう」と短く答えて部屋に行くと既に京がいた。
「あなた!勝手に薬を投与してはいけないとあれほど・・・っ」
「うるさい!これは必要な行為だ、カメラを回すから黙って観ておけ」
どうやら鹿島を無視して更に薬を投与したらしい。口枷は外されて、椅子に座ってぼんやりしている彼はもう生気が感じられなくて言い合いをしている京と鹿島の話は聞こえていないみたいだった。
「鹿島、黙って観ていよう」
「しかしっ・・・!」
言いかけるも鹿島は僕の言うことには逆らえないから黙って二人から離れて僕の隣に移動する。京は「フン」と鼻を鳴らしたあとノートパソコンを彼の前に開く。
「少年、いま目の前に映っているのは誰だ?」
「・・・葵さんと、花ちゃんと・・・ルー」
パソコンには隠し撮りらしき映像が映っている。公園だろうか、晴れた空の下ではしゃぐ子供と笑顔の女性がふたり、坂本太郎の妻子とバイトのチャイナ娘だ。
生中継らしく、ところどころ映像は荒いが彼は3人の姿を観て明らかに動揺している様子だった。
「そうだ。お前の大事な家族だな」
「かぞく・・・」
「ああ。そんな大事な家族に今魔の手が忍び掛かっている」
カチ、とエンターボタンを押すと画面が切り替わって公園の周りに怪しげな人物が何人か映っている。
「彼らは殺連に恨みを持った海外のプロの殺し屋だ。俺がスカウトしてこの3人を殺すように命令した」
「っ、させない!」
明らかに薬で蝕まれている体なのに彼が椅子から立ち上がろうとするのを京は「まだ話は終わってない」と肩を掴んで座らせる。
そして上着のポケットからペンチをひとつ、テーブルに置いた。
「坂本太郎はお前を探して情報屋に行ってフェイクの情報を掴んでいる最中だ」
「さかもと、さん」
「殺し屋は全員で5人。プロの殺し屋相手に敵わないお前のためにチャンスを与えよう」
口元は楽しげに、それはまるで目の前の彼を面白い被写体かオモチャくらいにしか見ていない眼差しはどこか狂気さえ感じる。
「そのペンチで自分の爪を剥げ。一本の指の爪を剥がしたら一人の殺し屋を退かせる」
右手にペンチを持たされた彼が小刻みに震えていた。怯えた様子の彼に京は更に追い詰めるように顔を近づける。
「早くしないと一人ずつ殺していくぞ。・・・まずはそうだな、坂本太郎の愛娘からーー」
「っ!」
愛娘、と聞いた彼が咄嗟にペンチを自分の親指の爪に向けるが手が震えていた。恐怖か、それとも薬の影響か彼の息は荒くなり昨日よりもその背中は小さく見える。
「はっ・・・は、ッ」
きっと京は彼の体よりも先に心を壊しにきたのだろう。薬を過剰に与えたのは、まもとな判断ができなくなってギリギリのところまで耐えている彼を壊すためだ。
かなり精神的に追い詰められた彼はいつものように考えられなくてペンチで指の爪を剥ぐしか方法はないと思い込んでしまったのだろう。
この姿もカメラに収めているのを確認して口角が上がった僕も余程悪人だ、と自嘲する。
「どうした?爪の剥ぎ方が分からないのか?特別に教えてやろう」
「ひっ」
「何も怖くない。恐怖すると更に痛みがあるだけだ」
彼の右手に添えて左手は動かないように掴まれて彼の声は上擦った。
「早くしないと家族が死ぬぞ、ほら」
「ぁあああ゛あ゛っ!!!!」
爪を剥ぐ姿をこんなに間近で見ることは一生ないだろう。痛烈な悲鳴は室内に響くが京はいつもの様子で「ほら、2本目は自分でやれ」と言い放つ。
映像が切り替わって3人の姿が映る。
何か話しているのか楽しそうに笑っている姿は彼の目にも映っているのだろう、彼が再びペンチを持って続けて人差し指の爪を今度は自分から剥いだ。
鹿島は三本目の指の爪を剥ぐところからは顔を背けていたけど、僕はしっかり小指の爪を剥ぐ姿を見た。
「うむ!非常にイイ表情だ!約束通り殺し屋は全員退かせよう。・・・俺の命令を終えた殺し屋たちはもうフリーだ。後は誰を殺そうが問題ないな」
「っ・・・お前!」
「この部屋にカメラを数台設置した。いいものが撮れたら使ってやる」
満足そうにパソコンをしまった京が絶望のどん底に落とされた彼を見下ろしながら部屋を出た。
「鹿島、手当てしてあげて。爪は南雲に送っておいて」
「かしこまりました」
机に突っ伏した彼はそのまま体力と精神が尽きて気を失ったらしく、簡易ベッドに寝かせて鹿島が手早く手当てした。彼の剥いだ爪を回収して部屋を出たのを確認してから僕はベッドの端に座る。
左手を掴むと包帯を巻かれた五本の指からは血が滲んでいて僕は躊躇いなくその指を咥えて、軽く噛んだ。
じんわり血の味が口の中に広がり彼が痛みで目を覚ました。
背中に手を回して体を起こさせると彼はまた体を震わせている。きっと京に与えられた恐怖と昨日の犯された記憶が混ざっているのだろう、彼の息がどんどん荒くなる。
「家族なんて作るからこんな目に遭うんだよ」
耳元で囁くと彼は「かぞ、く」と震えた唇を動かす。
「君はもう坂本の相棒にも南雲の恋人にもなれない」
「ーー俺は・・・帰りたい」
「君の帰る場所なんてもうないよ」
「!」
ビクリと彼の肩が震える。優しく抱き締めるが抵抗してこない彼は「どうしよう」と小さな子供みたいに呟いた。
精神的に不安定になっている彼の心はとても洗脳しやすい。薬でまともな判断ができなくて、拷問を受けた後だから僕の言葉は何よりも甘く聞こえるだろう。
「俺たちの仲間になりなさい」
毒を流し込むように甘く低く耳元で囁いて彼をシーツに押し倒す。彼の体に覆い被さると涙で濡れた瞳で「でも」と呟く。
「腐敗した殺連を共に潰そう、全ては尊い正義のために」
彼の耳にはもう僕の言葉しか今は届かないだろう。頬を撫で、首筋に指を這わせると彼が身動ぐから身体を屈めてキスをする。
まるで恋人同士がするみたいに啄むようなキスを繰り返すと彼はまた静かに涙を流して僕の背中に手を回した。
シーツに散らばった短い金髪を指に絡めながら、この先の彼に与えられる絶望を考える。すっかり抵抗をしなくなった彼の服を脱がすと彼が手を伸ばしたからその手を握り、僕の頬に当てた。
「僕の名前は有月っていうんだ、言える?」
「・・・有月、さん?」
「シンくんはいい子だね」
微笑んで頭を撫でるとシンくんは虚ろだった瞳はトロンと恍惚なものに変わって、きっとその姿はこの部屋に設置されたカメラにも映っているだろう。
京の作る映画は興味なかったが、シンくんの出てくる映画は随分と面白そうだと嘲笑しながらシンくんに再びキスをした。
『オリオンの膝下で』Ⅵ
早足で錆びた鉄製の階段を駆け上がると、目当ての部屋の扉は中途半端に開いていた。破裂しそうな心臓の音をうるさく感じながら扉を開けた。
玄関には見慣れたシューズが一足転がっていた。いつもシンくんが履いている靴があるということは当然室内にいる筈なのに、室内からは人の気配がしない。
荒くなった息を整えずに、室内に足を踏み入れる。リビングに入ると室内は荒れていた。棚に整理されていた本や漫画が散らばり、床にはまだ新しい血痕が残っている。
テーブルには半分以上食べ進められたオムライスと、まだ手をつけていないオムライスはラップが被せられていた。
「ーーシンくん、僕を待っててくれたんだ」
上着のポケットからシンくんに貰ったばかりのアパートの鍵を取り出す。
この鍵を使って今日はシンくんの家に行って「ただいま」と言う筈だった。帰りに花屋に寄ってシンくんは詳しくないだろうけど、ちゃんと花言葉も調べた薔薇の花束を30本買って渡そうとした。きっとシンくんは驚くだろうし花束を貰ったことがないって以前話していたから喜んでくれるかもしれないと思っていた。
それを全てXに奪われた。
床に落ちている血痕はシンくんの物で間違いないだろう。襲ってくる敵に対抗しようとするも敵わずに連れ攫われてしまった。
「僕はまた守れなかったんだ」
坂本商店の付近で動いている彼らが、シンくんを狙っているなんて容易に考えられることだ。元伝説の殺し屋の坂本太郎の弟子、そしてORDERの僕の恋人であるシンくんを攫えば坂本くんや僕が動かざる得ない。
そんなことも気づかずに、坂本くんに話さずに行動してしまった。せめて坂本くんの付近にXが動いていることを伝えていればシンくんは今日、早めに仕事を終わらせて手料理を作って僕の帰りを待つことはなかっただろう。
唇を噛み締めると口の中から血の味がして浅く息を吐くと後ろから足音がして振り返った。
「・・・南雲」
きっと僕から連絡きた後走って来たのだろう、玄関の扉を開けただけで何があったのか察した坂本くんに僕はせめて気丈に振舞って見せる。
「やぁ、坂本くん。いや〜Xにまんまとやられちゃったよ。でもシンくんを殺さずに攫ったってことはまだ生きてる可能性は高いし僕や殺連がーー」
「南雲」
僕以上にシンくんを見てきた坂本くんの方が現状は辛い筈だ。何とかいつも通りの笑顔を浮かべて話すも坂本くんは軽く僕の肩を叩いた。
それだけで、我慢していた感情が両手いっぱいに溢れるように僕の表情から笑みが消えてしまった。
「ごめん、シンくん守れなかった」
「お前のせいじゃない」
「僕のせいだ。シンくんを守れなかった僕が悪い」
もしかしたらXたちに拷問されているかもしれない、今この瞬間もシンくんは死よりも辛い拷問をされながら心身ともに壊されているかもしれないと思うと助けられなかった僕自身が憎くて仕方ない。
「落ち着け、南雲。冷静を欠いたら『また』失う」
「っ・・・そう、だよね」
珍しく取り乱す僕に喝を入れた坂本くんの言葉のおかげで多少は冷静になれたが、シンくんがこの室内にいない事実は変わらない。
「僕は殺連にこのことを報告するよ。何かXとシンくんについての情報が分かり次第坂本くんにも共有する」
「助かる」
思えば神々廻からシンくんの名前が出た途端、電話を切ってここまで来たからきっと神々廻はかなり怒っているだろう。
携帯を取り出すと想像通り神々廻からの着信と、数分前に受信したシンくんからのメッセージが表示されていた。
心臓の音が急激に早くなる。ドクドクと血が巡る音がやけにうるさく聞こえて震える指先でメッセージをタップする。
短いメッセージだった、それはもしかしたらシンくん本人ではなくXやその仲間が打ち込んだメッセージかもしれないが僕はその短いメッセージをこの先の生涯で忘れることはないだろう。
『オリオンの膝下で、待ってる』
僕はまだこの言葉の意味が分からずに、しかし何か大事な意味があることだけ理解した。
鼻歌を口遊んでいると「それは何の曲ですか?」と鹿島がソファーの脇のテーブルにコーヒーが入ったカップを置きながら聞いてくる。
「何だったかな。施設にいた頃聴かされていた気がするが・・・あまり思い出せない」
カップを手に取って暖かいコーヒーの匂いを嗅いであとゆらゆら揺れるコーヒーの湯気を眺めて口角が上がった。
「不思議だね。気分がいいと無意識に名前も知らないこの歌を口ずさんでしまうんだ」
幼い記憶は殆どないのに体や脳が覚えているのは不思議な感覚だ。
「ところで楽は?」
「ついさっき『あの部屋』で見張りを頼みました」
あの部屋、と聞いて僕はもう一口苦いコーヒーを啜ってから「様子を見に行こうかな」とソファーから立ち上がってカップをテーブルに置いた。
部屋を出て奥の部屋に向かうと以前のような叫び声は聞こえない。鍵のついてない扉を開けるとカーテンで締め切った室内は日中でも薄暗く、そして埃臭い。
簡易ベッドでシンくんを組み敷いている楽は昨日と変わらず無表情でシンくんを見下ろしている。
「随分仲良くなったみたいだね」
「あ、ボス」
近付いて声をかけると楽が漸く僕の存在に気付く。前のように暴れてこないから拘束具も着いていないシンくんは目の前に僕が現れても虚ろな眼差しで楽だけを見ていた。
京に脅されて爪を自ら剥がしたのを知らない楽はシンくんの両手に巻かれた包帯を掴んだ。
「コイツ、完全に壊れてますね」
「そうだよ。もう洗脳は終わったから楽の好きにしていいよ」
裸のシンくんは既に楽自身を挿入されてて、動いていないのに艶めかしい吐息を漏らして楽が動くのを待っていた。
大量の薬を投与され、体にも心にも負担のかかる拷問を強いられたシンくんはもう僕らに抗うことはしない。
「今のシンくんは綺麗で真っ白なキャンバスだ。僕らでたくさん可愛がろうよ」
楽の耳元で囁いてシンくんの下腹部に手を這わせるとピクン、と腹筋が震えるから下腹部に触れる手の力を加えて押し込む。
「あ゛、あ゛っ・・・」
「動いてねーのに締め付けてくんのエロすぎ」
シーツを握り締めてこれだけで快感に悶えるシンくんを鼻で笑った楽がローションで濡れた指を既に楽自身が埋まっている秘部に押し込んできた。
「ゔ、い゛・・・っ」
根元まで咥えている秘部に更に指を追加するとシンくんの表情が痛みで歪む。
「鹿島さんから貰ったローション使ったら指まで入るようになったんですよ。ボスのも入るんじゃないっすか?」
「ん〜、まだキツイんじゃない?もう少し慣らしてあげなきゃ」
何かしら良からぬ成分が入っているであろうローションのボトルを手に取って楽の指と秘部の間に大量に入れるとシンくんは子供みたいに首を振って腰をくねらせる。
楽が軽く腰を揺すると奥を突かれて気持ちいいのか、指も入っているのに甘い声を漏らし出す。
「あ、あ、っ!」
「楽の指、気持ちいい?」
揺れる度に短い金髪がシーツに散らばって綺麗だった。淫らなシンくんの頬を撫でて聞くとやっと僕を見たシンくんが「X様」と力の抜けた笑みを浮かべる。
「はい、っ、ん゛、気持ちいい、です」
「京の映画が完成したら南雲と観たら?きっと喜ぶよ」
完全に堕ちたシンくんはもう『南雲』と聞いても動揺するでもなく泣くでもなく「はい」と素直に頷いたから嘲笑した。
グチュグチュといやらしい音を立てて指でも楽自身でも快感を植え付けられたシンくんを南雲や坂本が見たらどんな顔をするか楽しみだ。
「でも映画でセックスシーンがあると気まずいよね」
「あ〜分かります。お互いどんな反応すればいいか分かんねーっすよね」
いつも通りのテンションで会話を繰り返す楽が指と楽自身を抜いてシンくんの背中に手を回して膝立ちにさせた。
急に埋まっていた陰茎が抜けて戸惑うシンくんの手を引いて膝上に寄せる楽に微笑ましく感じる。
僕もベッドに乗り込むと楽が寝転んで、その上に跨ったシンくんが自ら勃ち上がった楽自身を挿れた。
「ぁ、あ、っ〜〜っ」
「挿れただけでイッたの?我慢できなかったんだね」
まだ半分も入ってない時点でシンくんが全身を震わせて絶頂を迎えた。後ろから耳元で囁いてシンくんの腰を掴んで強引に下ろさせる。
「う、ぁ、あ゛、あ、おく、だめ」
「ダメなんて嘘はいけないよ」
絶頂の余韻に浸る間もなく腰を下ろされて奥に埋まっていく感覚にシンくんは堪らず甘い声を上げた。
奥まで挿れて、正常位とは違う角度に震えるシンくんの背中を押すと簡単に楽の方に倒れて臀部をこちらに突き出すような姿勢になった。
シンくんの痴態で昂った自身を晒して、指をまず楽自身が入っている秘部に押し込むとローションと薬の影響でだいぶ柔らかくなっていることを確認して指を引き抜く。
腰を掴んでゆっくり先端を押し込むとシンくんの体がビクンと大袈裟なくらい震えるけど抵抗はしてこない。
後ろから挿入されているから何をされているのか分からないシンくんは圧迫感と異物感に口をパクパクと酸素を求めるように動かすと楽が噛み付くようにキスしてくる。
「ん゛、ふ」
少し腰を進めると楽がシンくんの腰を掴んで浮かせてきたから奥に挿れるとシンくんはキスに集中できずに喘いだ。
手を回してシンくん自身に触れるとすぐに先走りを零したから先端を親指でグリグリと弄ると中を甘く締め付けてくる。
「可愛いね、南雲にも見せてやりたい」
「ぁ、あ、っ、なぐ、も、ん゛っ」
ほんの僅か、南雲の名前を聞いて瞳が揺らいだのを見逃さなかった。まだ辛うじて理性が残っているなんて図太い精神力の持ち主だ、更に壊し甲斐がある。
「いいかい?君はこれから楽と行動して殺連の組織を潰すんだ。尊い世界のために君の力が必要なんだ」
耳元で囁くだけでシンくんの息が上がって瞳が更にトロンと蕩けた。
「あ、ふ・・・ぁ、あ゛」
「あ〜、やべ。ボス、イきそうっす」
「じゃあ仲良くみんなでイこっか」
無防備な頸を血が出るくらい噛み付くとシンくんの体が跳ねる。
「シンくん中出しされるの好きだよね?」
「っ、あ゛、だめ、やだぁ・・・」
「あんだけヤッたのに今更やだなんてよく言えるよな」
首を振るうシンくんに楽がキスを再開して律動によって与えられる強い快感にシンくんは涙を溢しながらくぐもった喘ぎを漏らす。
楽自身が奥に入って腰を引いたかと思えば僕自身が奥に入ってくるのを繰り返すうちにシンくんは二本の陰茎を挿れても快感を得ることができた。
ーー安心して、これからもっと壊してあげるから。ーー
わざと心の声を読ませると、こんな時でもエスパーを使ったシンくんが心を読んで肩を震わせる。
「っ」
「ぁ、あ゛〜〜っ」
「・・・っ」
絶頂を迎えて中に射精するとシンくんも絶頂を迎えて楽の唇から離れた。楽も中で達したのか、シンくんの下腹部に触れると少し膨らんでいた。
ゆっくり自身を引き抜くと楽も自身を抜く。するとシンくんは支えがなくなって楽の胸元に倒れ込んだ。
「う、ぁ、あ・・・っ」
秘部からトロトロと2人分の精液が出てくる景色は卑猥で、淫靡だ。快感の余韻で小さく喘ぐシンくんの後頭部を掴んでシーツに押し付けて僕は小さく笑う。
「次、洗脳されたフリをしたら坂本太郎の家族をひとり殺す」
「っ」
「薬飲まされたフリもいいけど演技が下手だったね」
強姦しても爪を自ら剥がしても折れない心を壊してみたくなってきた。もう抵抗する力なんてないのに、あと一歩で完全に堕ちるのに踏み止まるのは余程、今の仲間や恋人が大切なのだろう。
シーツに押し付けられたシンくんは下手くそな演技をやめて僕をキッときつく睨むが生気を感じられない瞳で睨まれても全く怖くない。
「さっきの映像だけを京に頼んで南雲に観せてあげるよ」
「!やめ、ろ・・・」
「へぇ、まだコイツ壊れてないじゃん」
すっかり壊れたと思い込んでいた楽がシンくんの言葉を聞いて口角が上がる。今の楽にはちょうどいい遊び相手かもしれない。
「じゃあ僕はそろそろ行くよ。2人とも、ほどほどにね」
「は〜い」
僕がベッドから出ると楽がシンくんの体に覆い被さる。なかなか壊れないオモチャは楽のお気に入りになるだろう。
「さて、まずはORDERの南雲から殺そうかな」
部屋を出て自室に戻ると鹿島が立っていた。僕は何てことなかったみたいに微笑んでソファーに座り直して鼻歌を口遊む。
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