テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
おぼしずのしず
229
#八重桜純
どっかのリーダー
166
舞踏会の中盤、ひらひらと舞うドレスが動きを止めて広間の端に退けていく。
開いた道を、イソトマ=アルシュタインは奥に向かって歩いた。
正装のタキシードは灯りに照らされて白くキラキラと輝く。
大広間の奥には、寄り添い合う二人が待ち受ける。
イソトマの婚約者のはずだったアスランズ王国第一王子ルシアン=アルヴェルト。
ルシアンが守るように腰に手を回すのは、リリー=カトレア。見事、王子の心を射止めた庶民の男子だ。
(主人公は、そうじゃないとね。メインヒーローを射止めて当たり前なんだから)
そう、ここはBLゲーム『いつか花咲く君のために』の世界だ。
イソトマは、見事に異世界転生を果たした悪役令息だ。
本来なら、この二人が憎くて仕方がない、はずだが――。
「なんて美しいんだ」
感嘆の声が漏れた。
ルシアンとリリーが寄り添って立っている絵は、ゲームのスチル以上だ。
(まさか、寄り添う推しカプを生で拝める日が来るなんて、思っていなかった)
しかもこのシーンはイソトマが断罪される婚約破棄イベント。
ルシアンとリリーはイソトマと同じようにタキシードを纏っている。
(スチル以上の本物……神様、ありがとうございます)
感涙する勢いでライト教の神々に全力で感謝した。
後ろに控える護衛騎士のディルクに、背中を突かれた。
はっとして、イソトマは頬をペチペチした。
息を吸って、気持ちを整える。目の前の二人を見据えた。
ルシアンが、イソトマを見据えた。
「弁明はあるか? イソトマ」
ルシアンが静かに問う。
温厚なルシアンらしくない、鋭い瞳だ。怖くて泣きそうになる。
気持ちを整えるためイソトマは、もう一度息を吸った。
「僕ではなく殿下の隣にいる、その男に聞くべきです。僕は、悪魔リリー=カトレアに陥れられたのです。信じてください」
イソトマは悲痛の叫びを上げた。
「殿下は、その悪魔に騙されているのです。目を覚ましてください」
イソトマの声が響くほど、大広間に人々の声が、ひそひそと広がっていく。
好奇の目がイソトマに浴びせられる。
「悪魔だなんて、酷い。僕は何もしていないのに」
リリーがルシアンの胸で泣き崩れた。
泣き顔まで可憐だ。美しい推しに、うっかり見惚れる。
涙するリリーの肩を抱くルシアンの仕草は、完璧なスパダリ王子だ。
二人の姿が絵画のようだと思った。
(さすが、僕の推しカプ、ルシリリ。最高すぎて辛い)
ディルクに後ろから突かれて、イソトマは表情を整えた。
「そうやって泣く姿も、リリーにとって演技なのですよ。今も殿下を騙そうとしているのです」
得意げに顎を上げてみる。
きっと今のイソトマは、小憎らしく見えることだろう。
ルシアンが呆れたように息を吐いた。
「救いようがないな、イソトマ。今の言葉は、私までをも愚弄する発言だ」
「僕より、悪魔を信じますか」
ルシアンの鋭い目が、イソトマを見詰めた。
「もはや協議の余地はない」
ルシアンが、徐に手を上げた。
「イソトマ=アルシュタイン、王族への無礼な言動、不貞行為により不敬罪に処す。私との婚約を解消し、爵位を剥奪後、国外追放とする」
ルシアンの声が高らかに響き渡る。
大広間が、水を打ったように静かになった。
(決まった……ルシアン、格好良い)
上がりそうになる口角を必死に抑える。
ルシアンが周囲の憲兵に目を向けた。
「イソトマを捕らえろ!」
憲兵が戸惑いながらイソトマに、にじり寄る。
後ろに控えるディルクがイソトマの体を抱き上げた。
憲兵の隙間を縫って走り出した。
「ディルク!」
「全力で逃げるぞ」
イソトマの護衛として控えていた黒騎士、ディルクが足を速めた。
「ありがとう。本番は、ここからだもんね。頑張ろう」
「後ろは任せた」
イソトマは魔法銃を展開して、後ろを狙った。
「任せてよ」
憲兵を華麗に避けて、ディルクがバルコニーから飛び降りる。
ディルクの胸に抱き付く。イソトマは、ひっそり笑んだ。
「断罪中でもルシリリは尊いなぁ」
その顔を眺めて、ディルクが苦笑した。
「楽しそうで何よりだ」
イソトマを抱えながらディルクが剣を振る。
抱えられながら後ろの憲兵に向かい、イソトマは煙幕弾を撃ちまくる。
この先に待ち受ける試練を思って、イソトマは表情を改めた。
「さぁ、僕らの自由を勝ち取りに行こう」
推しカプを守るために、推しキャラを幸せにするために。
ゲームにはないシナリオに、イソトマは手を伸ばした。
コメント
1件
えっと、これめっちゃ面白かったです!イソトマが断罪されてるのに内心「ルシリリ尊い…」って推しカプに萌えまくってるギャップがたまらなくて、笑いそうになりました。しかも護衛騎士ディルクと連携して逃亡するところ、めっちゃかっこいいし、これからの試練にワクワクしました。BL×異世界×オタク転生のこのノリ、大好きです!続きが気になります!