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「……また逃げ出そうとしたな?」
冷たい声が背中に突き刺さる。振り返ればそこには、琥珀色の瞳を細めて微笑むレオナルドが立っていた。手には鞭が握られている。
「ごめんなさい……ただ、あの薔薇を見たくて……」
ルークの言葉が終わる前に、パシンという音と共に背中が熱くなった。痛みに顔をしかめるも、その表情には確かな恍惚感が浮かんでいる。
「言い訳か? お前は誰のものだ? 言ってみろ」
レオナルドは静かに近づき、傷ついた背中の筋肉を指でなぞった。触れられた場所から全身に走る痺れのような感覚にルークは小さく喘ぐ。
「あなたのです……レオナルド様……」
震える声で応えるルークの頬を、主人の手が優しく撫でた。
「いい子だ。だが次はない。わかったな?」
首輪の鎖が引っ張られ、ルークは膝を折って跪く。頭上から降ってくるのは叱責ではなく愛の囁きだった。
「俺だけを見ていればいいんだ。他のものは全部要らないだろう?」
頷くことでしか肯定できない状況。しかしルークの中には確かな安堵があった。この人なしでは生きられないという依存心が胸を締め付ける。
夜になると二人だけの時間が始まる。薄暗い部屋の中で交わされるのは言葉ではなく、もっと原始的な感情の交わりだった。
「痛いのが好きなんだな? 本当に変態だ」
嘲笑混じりの声とともに皮膚が裂ける音。痛みとともに広がるのは快楽なのか恐怖なのか。もうルークには区別がつかなくなっていた。
それでも幸せだった。愛する人に求められることが。そして彼の所有物として扱われることが。
「もっと罰してください……僕をあなたのものにして……」
その言葉に答えるように再び鞭が振るわれる。二人の関係は歪んでいたが、それは確かに愛情のかたちをしていた。
互いに離れられないほど深く結ばれた絆。それを象徴するかのように壁には血文字でこう刻まれていた。
“永遠に共に”と。