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「……別に、私はそういうの、興味無いよ」
「へ?」
「何よ、その反応」
「いや、だって何か意外だったから」
「……そりゃ、私に好きな人も彼氏もいなかったら……多少は期待したし興味も持ったかもしれないけど……今は、違うでしょ? 仮だけど、一応、付き合ってるし、私たち」
「……ふーん? 一応、意識してくれてんだ?」
「あ、当たり前でしょ? とにかく、これ以上恋愛で失敗したくないし、返事を保留にしてる身だし……中途半端な事はしたくないもん」
「そっか、ちゃんと考えてくれてんだな」
「何よ? 馬鹿にしてる?」
「してねぇよ、喜んでんじゃん」
「もう、言わなきゃ良かった!」
「何だよ、何で怒るんだよ?」
「知らない!」
一之瀬の反応を目の当たりにした私は余計な事を言わなければ良かったと後悔した。
だって、これじゃあまるで私が一之瀬に気がある事を認めてるみたいだから。
(何よ、ニヤニヤしちゃってさ……本当……言わなきゃ良かった……)
これ以上動揺すると一之瀬の思う壺だと思った私は恥ずかしさで上がった体温を冷ます為、少し前に頼んだウーロン茶を勢い良く流し込んでいくけど、
「あ、おいっ! それウーロンハイだぞ――」
「え?」
私が手にしたグラスには一之瀬が頼んでいたウーロンハイが入っていたようで、一気に流し込んでしまった事で酔いは増していく。
「馬鹿! きちんと確認しろよ。ほら、ウーロン茶」
「ごめん……」
「平気かよ?」
「うーん、ちょっとクラクラするかも……」
「ったく。ひとまず外出るか。店ん中暑いし、風に当たって酔い冷ました方がいいだろ」
「うん……」
私の体調を気遣ってくれた一之瀬の提案によって私たちは店を後にすると、繁華街から少し離れた場所にある噴水広場にある空いていたベンチに腰を下ろした。
「ほら、水」
「ありがとぉ……」
夜風に当たりはしたものの、酔いはどんどん回っていた私はベンチの背もたれに寄りかかりながら一之瀬からミネラルウォーターのペットボトルを受け取った。
予め蓋を緩めておいてくれたらしく、すんなり開ける事が出来た私は水を一気に流し込んでいく。
「美味しぃ〜」
「お前、結構酔ってるな?」
「そんな事ないよぉ?」
「嘘つけ。気持ち悪いとかねぇか?」
「うん、大丈夫」
「ならいいけど」
口では大丈夫なんて言っているけれど少し気持ち悪さがあった。
けれど、頭がフワフワする感覚と共に吐き気よりも睡魔の方が酷く襲ってきた私は、
「っお、おい、陽葵?」
「ごめん……少し……だけ――」
隣に座る一之瀬の肩に身体を預けるように寄りかかると、安心感と夜風の気持ち良さからそのまま眠ってしまったのだった。
「うーん……」
「おい、陽葵?」
「……ん? 一、之瀬?」
名前を呼ばれた事で意識がハッキリしてきた私はゆっくり目を開ける。
「ようやく起きたかよ」
「え? あれ? 私、寝てたの!?」
一之瀬のその言葉と、彼の肩に寄り掛かっていた事で眠っていたのを知った私は慌てて身体を離した。
「ごめん!」
「いや、まあいいけど」
「結構寝てた?」
「いや、三十分くらいだよ」
「そ、そっか……」
「つーかさ、お前無防備過ぎない?」
「え?」
「所構わず、男の前で無防備に寝るとかさ」
「あ、うん、そうだよね。ごめん」
「ま、それだけ信用されてるって事なのかもしれねーけど、くれぐれも、他の男が居る前でそんな事するなよ?」
「分かってるよ……」
確かに、いくら仮にだけど付き合ってるとはいえ、一之瀬は男なんだからちょっと無防備過ぎたかもしれない。
でも、誰が居る前でも寝る訳じゃない。
何ていうか、一之瀬が傍に居ると安心するのだ。
だから、何だか睡魔に襲われると我慢できなくなって、いつの間にか眠っちゃう。
他の人が居る前でそんな事、した事なかったのに。
「さてと、そろそろ帰るか」
「あ、うん! あーでも何か少しお腹空いたかも」
「マジかよ? けどまあ、俺も少し小腹空いたな。よし、ラーメンでも食いに行くか」
「いいね! 行こう行こう!」
一之瀬と居ると、本当に自然体で居られる。別にお洒落に手を抜いている訳じゃないけど、変に飾らなくていいし、好きな物は好き、食べたい物は食べたい、とにかく変に遠慮したりする事が無いくらいに自分が出せるのだ。
これってやっぱり、一之瀬とが一番合うという事なのだろう。
(何かもう、一之瀬が彼氏でいいような気がするな……)
じっくり時間を掛けて決めようと思っていたけれど、ここまで合う人が他にいる気もせず、ついつい答えを出したくなってしまう。
(あ、そう言えば、来月の終わりって一之瀬の誕生日だったよね? その時に、正式に返事、しようかな?)
お試し期間の三ヶ月の間に返事をすると決めていたし、どうせなら何か記念の日に返事をした方が思い出に残るかもしれないと思った私は来月末の一之瀬の誕生日に返事をしようと決めたのだけど、その決意を揺るがす出来事が起こってしまうなんて、この時は考えもしなかった。