※本作品は二次創作でありstgr内のストーリー、PL様には一切関係がありません
「オールイン!」
積み上げられたカジノチップを手前に押し出し宣言する。
「お前またそれかよ!心臓に悪いからやめろって」
「どうせハッタリだ。コイツの賭け方ほんとイカれてんだよ」
コール、と隣の男はチップを置いた。向かいの男もさらにチップを重ねる。
どうやら周りは降りる気がないらしい。
俺はニヤリと笑い、手持ちのカードを公開した。
「──ははは!あいつらまじでばかすぎ!さいこーさいこー」
俺は金貨でパンパンになった袋を振り回しながら笑った。
その声が聞こえていたのか、同卓してたやつらがこちらを睨んでいる。が、気にせず店をでた。
俺はギャンブルが好きだ。
運という不確かなものに自分の人生を賭けるその行為は、何よりのスリルを感じさせてくれる。
特にここ最近は負け続きで、あと1敗でもすればパンツ一丁になるところだった。想像するだけでズボンを履く手が震えるような日々…。
「けどかった。おれはギャンブルがうまい!」
そう高らかに唱えていると、店の裏手の路地から男の怒鳴り声が聞こえてきた。同時にゴッという鈍い音。
……喧嘩か。この近辺は治安が悪いので日常茶飯事だ。
いつもならスルーするところだが、今日は機嫌が良かったので興味半分に俺は声のする方へ歩みを進めた。
そこには、茶髪の少年とそれを取り囲む大柄な男が3人がいた。男の1人は少年の胸ぐらを掴んでいる。
少年の方はというと、すでに1発殴られたのか左頬が腫れ上がっていた。しかし抵抗する素振りはなく、ただただ殴られるのを待っているかのように見えた。
まるで死んでいるかのような虚ろな目をしている。俺は何故かそれが酷く気に食わなかった。
「なにしてんの?」
そう声をかけると、男たちは一斉にこちらを向く。
「……あ?誰おまえ、こいつの友達?」
「邪魔すんなよガキ。こっちは今……グハッ!?」
言葉を遮るように、男のみぞおちに拳をめり込ませた。
他2人も顔を真っ赤にしてこちらに殴りかかろうとする。しかしこちらの動きより遥かに遅いパンチは空を切り、なにも反撃出来ぬまま俺の攻撃であっさり沈んでしまった。
「ふん。よっわ」
脚についたホコリを払い、少年の方を向く。
その場に立ち尽くしていた少年は、地べたに倒れた男3人をただ呆然と眺めていた。
「お巡りさん!こっちです!」
通行人がこちらを指さして叫ぶ。どうやら警備隊を呼ばれてしまったらしい。面倒なことになった。
「──こっちきて」
腕をひかれ目を向けると、少年が俺を掴んでいた。言葉を発する間も無く、少年はそのまま走り出した。
少年に引かれるまましばらく逃げていると、やがて警備隊の姿は見えなくなった。
「もう追ってきてないみたい」
少年は肩で息をしながらこちらを振り返る。
「…………」
気まずい沈黙が流れた。
順番的に俺が喋るのを待っていたらしい少年は、慌てたように口を開く。
「君、喧嘩つよいね。僕と同い年くらいなのに男3人に殴り勝っちゃうなんて」
「……」
「えっと、どうして助けてくれたの?」
「……べつに、なんか…きぶんよかったから」
「そっか……」
「はいこれお礼」
少年は巾着袋を差し出した。中には大量のカジノコインが入っている。
「えっ!くれんの?」
「うん。僕はもう換金出来ないから、君にあげる。……ありがとうね」
少年はそういうと微かに微笑んだ。
そして、そのまま人気のない路地の方へと消えていった。
みすぼらしい子供だと思っていたが、あの少年が案外金を持っていたことに驚く。
……ともあれ今日は本当に、ついてる日みたいだ。
次の日、俺はまたカジノにやってきた。
「きのうでけっこうかったけど…かんきんついでに、もうひとしょうぶ、いくっしょ!」
大量のカジノコインをぶら下げ、にやにやが止まらないまま意気揚々と店のドアを開ける。
さて、今日のカモはどこにいるか。
受付でカジノコインを換金していると、近くの客の話し声が耳に入ってきた。
「あの茶髪のガキ、店出禁だとよ」
「あー聞いた聞いた。イカサマしてたんだって?」
「アイツに金巻き上げられたやつ多いだろ。相当恨み買ってんじゃねぇの」
「今頃どっかで捕まってるかもなw」
「…しかしよくやるよ。あのガキ、ここ数日でざっと2億は稼いでるぜ?結構名のある詐欺師だって噂も…」
「お客様。コインの換金が終了致しました。こちらになります」
受付嬢は積み上がった金貨をにこやかに差し出した。
あいつは…まさかこれを昨日の1回で稼いだのか?
「ふぅん…」
俺はニヤリと笑い、およそ3000万円分の金貨を受け取った。
滅多に人の通らない裏通り。僕はこの近辺が好きだった。静かで、枯葉の揺れる音が心地いい。
金稼ぎをする以外の時間は、この通りに住んでいるホームレスの爺さんとずっとお喋りをして過ごしていた。
気のいい爺さんだった。心休めるような時間は僕にとってずいぶん久しいものだったと思う。
「でももう、この街にはいられないな。次の移転先の目星をつけておいて良かった」
腫れた頬を撫でながらため息をつく。一晩たっても痛みがまだ残っている。すごく不快だ。
仕方ない、 イカサマは繰り返していればいずれバレるものだ。バレたときに逃げ損ねてボコボコにされるのも想定内。まぁ大金の対価の思えば安いもの。
…それにしても、昨日のあの人、すごい強かったな。ここ最近あのカジノに出入りしていたのはよく見かけていたけど。
風貌からして、良いところの坊ちゃんって感じだった。僕とはまるで住む世界が違うような、そんな雰囲気を纏っていた。
「とにかく、今日中にここを出なきゃ。あの馬鹿どもに見つかる前に…」
「──その馬鹿ってのは俺らの事かよ。なぁ?イカサマ野郎」
「……っ!?」
振り返るとそこには昨日の男3人が立っていた。なぜ、と言おうとする間もなく、男の1人に首を掴まれる。
「がっ…かハッ」
「まさか本当にここに居るとはな。嘘つかまされてんじゃと疑ったが…なかなかやるじゃねぇかあのジジイ」
「テメェのこと徹底的に調べたぜ。街のあちこちで詐欺をはたらいて逃げ回ってるんだってな。まさか、懸賞金をかけられているほどの大物だったとは驚いたぜ」
そうか。もうそこまで情報が回っていたのか。
へんぴな街だから自分を知るものはいないだろうと、変装を怠った僕のミス。
……他人を信じたことも、僕のミスだ。
「てめぇを差し出せば俺らの負け分はチャラ…いやむしろプラスだ。大人を騙そうとしたこと後悔させてやるこのクソガキ」
「……っう…ふ、ははは」
思わず笑いが込み上げてきた。
「……プラスだって?おもしろいね。ギャンブルに溺れて妻と子供に逃げられたのに?しかもその八つ当たりに、 通りすがりの女の子を襲ってたっけ」
男は僕の言葉を聞いて青ざめる。
「なっ…なんで知って…このッ!」
瞬間、首根っこを掴まれたまま、ものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
途端に息が出来なくなる。
「気に入らねぇなぁおい!自分の立場わかってんのか!?なぁ!?」
男は興奮気味に叫びながら、僕の首をギチギチと締め上げる。
声を出そうとするが、口からは空気がだけが漏れた。
「どこまで俺のこと調べてたのかは知らねぇが、次舐めた口聞いたら殺すぞ!殺すからな!!」
念を押すように畳み掛ける男の声が、だんだんと遠くなっていく。視界もぼんやりしてきた。
小さく空いた口から唾液が垂れる感覚を感じとる。
「お、おい、そのくらいにしとけ。懸賞金かかってるんだぞ」
「はぁ…はぁ……クソッ!」
男は息を切らしながら手を離した。
僕はがハッがはっと激しく咳き込み、地面に手をついた。急速に意識が戻ってくる。
このまま捕まるわけにはいかない。
酷く痛む頭をなんとか働かせながら、逃げ出す策を講じていた、その時だった。
男たちの背後から、聞き覚えのあるような低い声が聞こえてきた。
「けんしょうきん?ふーん、そんなのもあるんだ」
見るとそこには、昨日助けてくれた僕と同い年くらいの少年が立っていた。
「な…テメェ、昨日の…!」
男たちは驚いた様子で後ずさる。
少年は首を傾げた。
「んーっと、だれだっけ?おれ、かねもってないやつにはきょうみないんだよね。だからどけよ」
少年は挑発的な笑みを浮かべながら、地面に倒れ込む僕を指さした。
「ほしいのはそいつ。……の、かね」
「クソが!てめぇも懸賞金目当てかよッ…おいお前らやるぞ!」
「オオ!」
そのまま乱闘になる。が、やはり彼の強さは今まで出会った誰よりも圧倒的で、男たち3人は瞬く間になぎ倒されていった。
その様子に僕はただただ目を奪われていた。
ふぅ、と一息ついた少年は地面に転がる男を一瞥して僕の方へと向き直る。
目が合い、ドキッと心臓が跳ねた。
まるで肉食動物に睨まれた兎みたいな気分だ。
少年は僕の方へとゆっくり歩みを進める。
そして、手を差し出した。
予想外のことに呆気にとられる。
「ん。おれMonD」
少年はそうぶっきらぼうに呟いた。
──他人なんて全く信用できない。この手をとってしまえば、またきっと後悔する。
「僕は………」
「……無馬。無馬かな」
けれどもそこには、その手には、僕の求める自由がある気がした。
mondとnsm
コメント
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コメント失礼します。 とても読みがいのある作品でした。続きが楽しみです☺️💕 溢れる文才で読み進めるのが本当に楽しくて、本当におもろしかったです!! そして、大変恐縮なのですが、サムネに使用しているイラストはどこで投稿されたのものでしょうか。宜しければ教えていただけたら幸いですっ。絵柄に惚れてしまって…、ご自身でお書きでしたらアカウントを教えていただけたら天にも昇る思いです…!長文失礼しました。