テラーノベル
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夏休みの午後。
朝はあんなに晴れていたのに、夕方になるにつれて空が暗くなっていった。
「……降りそう。」
駅前の本屋から出た冴が空を見上げる。
「天気予報、晴れだったのにな。」
奏斗がスマホを見る。
その瞬間。
ポツ。
「……。」
ポツ、ポツ。
「やば。」
次の瞬間、雨が一気に降り始めた。
「走ろ!」
「え、ちょっと――」
二人は駅の屋根の下へ駆け込んだ。
-–
「……すごい雨。」
「ほんとだ。」
屋根の向こうでは、道路があっという間に雨で白くなっている。
二人とも少し息を切らしていた。
「濡れた?」
「少し。」
「こっちは?」
「大丈夫。」
奏斗は笑う。
「よかった。」
しばらく、雨音だけが続く。
ザーッという音が、駅前を包んでいた。
-–
「……神崎。」
「ん?」
「今日。」
「?」
「楽しかった。」
冴が小さく言った。
「本屋行って。」
「雨降って。」
「……それでも?」
「うん。」
奏斗は少し驚いた。
「俺も楽しい。」
「……。」
「夏休みって、もっと暇になると思ってた。」
「俺も。」
「でも、石川と会うようになってから。」
少し考えてから、奏斗は続けた。
「学校がない日も、悪くないなって思った。」
冴は黙って雨を見る。
そして、ほんの少しだけ笑った。
「……俺も同じ。」
-–
雨はなかなか止まない。
「まだ降ってる。」
「傘、持ってきた?」
「持ってない。」
「俺も。」
「……。」
二人で顔を見合わせる。
「どうする?」
「待つ。」
「だな。」
駅の時計を見る。
午後五時二十分。
まだ時間はある。
奏斗はベンチに座った。
「石川も座れば?」
「……うん。」
二人は少し離れて座る。
それでも、以前より自然だった。
-–
「そういえば。」
奏斗が言う。
「この前貸してくれた本。」
「うん。」
「続きも読みたい。」
「じゃあ、今度持ってくる。」
「ほんと?」
「うん。」
「楽しみ。」
冴は少しだけ笑う。
「……本当に本が好きなんだね。」
「好き。」
「そんなに?」
「うん。」
そして少し間を置いて。
「石川が選んでくれた本だから、もっと好き。」
「……。」
冴は言葉を失った。
「……そういうこと、普通に言うんだ。」
「え?」
「なんでもない。」
窓の外を見る。
耳が少し赤い。
-–
しばらくして。
雨が弱くなってきた。
「止みそう。」
「ほんとだ。」
奏斗が立ち上がる。
「じゃあ帰ろうか。」
「うん。」
駅を出る。
空には、雨雲の隙間から少しだけ夕焼けが見えていた。
「きれい。」
冴が空を見上げる。
「……うん。」
奏斗も同じ方向を見る。
そして思う。
学校じゃなくても。
特別なイベントがなくても。
こうして一緒にいるだけで楽しい。
その気持ちが、少しずつ大きくなっていることに。
奏斗自身も、まだ名前をつけられずにいた。
-–
駅の分かれ道。
「じゃあ、また。」
「うん。」
「次、本。」
「忘れない。」
「約束。」
「約束。」
二人はそれぞれの帰り道へ向かう。
少し歩いてから、冴が振り返った。
奏斗も、ちょうど振り返っていた。
目が合う。
二人とも少し笑った。
そして今度こそ、それぞれの家へ帰っていった。
雨上がりの道には、水たまりに夕焼けが映っていた。
コメント
1件
**リオン 📚** 雨宿り、っていう日常のほんのひとときが、こんなに愛おしく描けるのはすごいな。本屋で過ごした時間、突然の雨、駅の屋根の下で交わす何気ない言葉。特別なことは何も起こらないのに、二人の距離が少しずつ縮まっていく空気感が、静かに伝わってきた。特に「石川が選んでくれた本だから、もっと好き」って奏斗が自然に言えるところ、冴が耳を赤くして「……そういうこと、普通に言うんだ」って呟くところ、すごく好き。雨上がりの夕焼けが水たまりに映るラストも、余韻が美しい。この空気感、大事に続けてほしいな。
*.꒰ঌ𝕐𝕦𝕚𝕜𝕒໒꒱.*
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Luna Emma
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