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夏休みも、もう半分。
冴の机の上には、問題集が積み上がっていた。
「……。」
一問目。
二問目。
三問目。
「……分からない。」
数学の問題を前に、冴はペンを置いた。
そのとき。
スマホが鳴る。
『神崎:宿題終わった?』
冴は少し考えてから返信した。
『まだ。数学が分からない』
数秒後。
『俺も!』
「……。」
思わず笑ってしまう。
そしてすぐに、もう一通。
『一緒にやる?』
冴は画面を見つめた。
少しだけ迷って。
『うん』
-–
翌日。
二人は学校近くの図書館で待ち合わせた。
「おはよ!」
「……おはよう。」
「じゃあ、やろう!」
「うん。」
机の上に問題集を広げる。
最初の十分は順調だった。
……十五分後。
「石川。」
「なに。」
「この問題。」
「うん。」
「分からない。」
「……。」
冴は問題を見て、少し考える。
「ここ。」
「この数字を先に移項する。」
「なるほど。」
奏斗が解き始める。
「……できた!」
「よかった。」
「石川、教えるの上手いな。」
「そう?」
「うん。」
「先生みたい。」
「……。」
冴は少し照れたように目をそらす。
-–
しばらくして。
今度は冴が手を止めた。
「……。」
「どうした?」
「この問題。」
「分からない?」
「うん。」
奏斗は問題を見る。
「これなら俺分かる。」
「本当?」
「任せて。」
奏斗はノートに式を書いていく。
「ここがこうで……。」
「だから答えは――」
「……あ。」
冴が身を乗り出す。
「分かった。」
「でしょ?」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
二人は顔を見合わせる。
近い。
一瞬。
どちらも動かなかった。
「……。」
「……。」
冴が先に視線をそらした。
「……次。」
「う、うん。」
二人とも、さっきより少しだけ静かになった。
-–
昼休み。
図書館を出て、近くの公園へ向かう。
「疲れたー!」
奏斗がベンチに座る。
「でも、結構進んだ。」
「うん。」
「石川のおかげ。」
「神崎も教えてくれた。」
「じゃあ、お互い様。」
「……そうだね。」
二人で笑う。
-–
帰る前。
奏斗が突然言った。
「石川。」
「?」
「夏休み。」
「まだ半分ある。」
「……うん。」
「もう一回、一緒に宿題しない?」
冴は少し驚く。
「宿題。」
「……じゃなくてもいいけど。」
「え?」
奏斗は少し照れながら笑った。
「また一緒に遊びたい。」
冴は黙った。
でも。
すぐに小さくうなずく。
「……俺も。」
「じゃあ決まり!」
「うん。」
二人は並んで歩き出す。
-–
その日の夜。
冴は机に向かって、残った宿題を見つめる。
今日のことを思い出す。
「……。」
そして、小さく笑った。
宿題はまだ残っている。
でも。
「……また会える。」
そう思うと、不思議とやる気が出てきた。
一方。
奏斗も自分の部屋で問題集を開いていた。
「よし。」
そして一言。
「……次、何しようかな。」
宿題よりも。
次に冴と会う日のほうが、ずっと楽しみだった。
コメント
1件
読ませていただきました!今回のエピソード、すごく好きです。二人で教え合う宿題の時間が、ただの勉強じゃなくて距離を縮める瞬間になっていて、特に「近い」と感じて一瞬止まるシーンが胸に響きました。最後の「次に会う日が楽しみ」という奏斗の気持ち、宿題よりもずっと大切なものを見つけた感じがして、こちらまで温かい気持ちになりました。二人の関係がゆっくり優しく変わっていくのが伝わってきます🌷