コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「手紙、送ったよ!」
コンコンコン。ノックを三回、『入って』と扉の奥の人物から言われ、『失礼します』と言って中に入る。
「ありがとう」
隻が来るまで輝は、机とにらめっこしていたようだが、セキが入ってきた事により、前を向いた。
「お仕事邪魔しちゃった? ごめんね?」
「ううん、大丈夫だよ」
ヒカリは書類仕事をしていたようだった。セキや月希が頑張って手紙を作っている時にやっていたようなので、お疲れのようだ。
『丁度いいタイミングだよ、ありがとう』と言って、席を立った。もうそろそろ休憩しようかな、と思っていたらしい。ただ、やめ時がわからなかったとか。
そして、総統室に兼ね備えてあるティーカップを用意した。
「セキは飲む?」
「んー、うん!飲む!」
折角お誘いの言葉を受けたのだから、とお言葉に甘えて紅茶を飲む事にしたセキ。
ヒカリはよく自分で紅茶を作っていたらしく、わざわざ調理室に行くのも面倒くさいと、総統室にティーセットを用意してもらったとか。
柊も、ヒカリが紅茶を作る為にうろちょろしていたが、それもなくなったので随分と楽になったそうな。 よく、『もー、紅茶作るならぼくが行くから!ヒカリはここで待ってて!』と、叫んでいた。
「今日のお紅茶はなにかなー?」
「ふふ、なんだろうねぇ」
紅茶の種類はできあがるまで内緒。セキはそれをいつも楽しみにしていた。
ヒカリの作る紅茶は美味しいから、皆、飲んで『ゔぇ…』となる事はないそうだ。
「はい、どうぞ」
「わーい!」
今日はたまたま紅茶に合うお菓子はないけど、あってもなくても紅茶は美味しい。
「んま!」
また今度、楓達に作ってもらおう、と心の中でそう決めたヒカリだった。
⚫
今日も、幹部や兵士達は訓練に励み、楽しんだ。
ただ、ひとつ違う事とすれば、ベルス国から返事が来た事だ。
「承諾しました。〇日においでください」とだけ書かれた手紙を、セナが咥えて持ってきた。
セキ達が手紙を書いた日から、数日が経過した頃にセナが手紙と一緒に帰ってきたわけだが、ヒカリは少々、怖い顔をしていた。
セナはヒカリのペット。可愛がってる子が数日間、完全に信用できていない国に滞在していたとなると、少し不安があったのだ。
「そこで、少し人間性が明らかになったな」
「そうだねぇ」
まあ、セナは怪我なく無事に帰ってきたのだから、そこはよしとしよう。
ベルスには行く目的を伝えていない為、いい人のフリをしているだけかもしれない。
ベルスに行くのは三人とした。ヒカリ、ヒイラギ、セキの三人。その他は、国で待機してもらう事となった。
「訓練してた方がいいか?」
凪がそう問うた。
「嗚呼、そうしてくれ」
と、ヒカリが答えた。
大事な話のはずなのに、短い会話文で話し合いは終了。皆、やりたい事はわかっていたようだ。
いつでも戦争ができるように、訓練は怠らず。やはりヒカリの考えは、簡単でわかりやすいようだ。
⚫
指定された日になったため、正装でベルスに向かう事になった。
三人以外はいつもどおり、訓練をして待っていてもらう事になったので、問題はないだろう。
「それにしても、なんか対応雑というか…。いい人演じてそうだなって思うんだけど、ぼくだけ?」
「この日においでくださいって文だけだったもんね!」
セナを何日もベルスに置いていたくせに、セナが持ってきた手紙には簡潔にまとめられていた。
ヒイラギが言うように、いい人を演じていそうだな、というのは国で待機してもらう人達も思っていた事だった。
「まあ、それでホントにいい人だったら申し訳ないけどねぇ」
まだしっかりと話した事はない。だから、総統も、周りの人間もどんな人なのかはわからない。
取り敢えず、まだ会ってもない人達に大分悪い偏見を言った事には変わりない。
長々と時間をかけて、ベルスに着くと一人の男が扉の前で待っていた。
「お待ちしておりました。こちらです」
挨拶もホントに軽くで。素早く建物内に案内された。長々と馬車に乗ってきた者としてはありがたかった。
話す場所は、入口に近い談笑室だ。やはり、ベルスは我々を警戒しているようである。
それはそうだろう。警戒するのも無理はない。関わった事はほぼないし、急に手紙を送ったのだ。見てみたい、という内容の手紙は送ったが、どういう意図かはわからないだろう。
「わさわざありがとう。街を見させてもらったけど、とても綺麗で感動したよ」
「お褒めの言葉、感謝いたします」
セキの言う通り、水色と黄色が特徴的な街並みは、お世辞抜きで綺麗だった。
まあ、そんな綺麗な街並みとは裏腹に、建物の裏側は真っ暗な世界が広がっているのだろう。
ヒカリはまだ、見た事ないけど。
取り敢えず、本題はそんなものではないから、ジーッと見つめてみる事にした。ただ、何も発さずに。
相手はなんだなんだ戸惑っている様子。それも無理はないが。自分よりも偉い人間に無言で見つめられて、困らないやつはいない。多分。
何かボロ出さないかなぁ、なんて、無謀な希望を抱いて見つめる。そんな、見つめるだけでボロ出すわけがないだろう。
ホントにそんな事はないのだけど。
「…あなた方から見た国って、どんな感じなの?」
このまま黙っていても埒が明かない。だから、遠回しに色々と探ってみる事にした。
ベルス総統から見た「国」は、段々と強くなっていて誇らしい、らしい。お世辞で『光石国には及びませんけど』と笑っていた。
次は「街」。街の人は皆ニコニコしていて、とても楽しそうだ、と言っていた。
「(…それだけじゃ、ないでしょうに)」
街の人は皆、ニコニコしているだけのはずがない。そう、セキがあの日見た光景のように―――。
まあ、こうして遠回しに聞いてても、正直に話してくれるはずがない。こういう時は、正直に直球で聞いた方がいいだろう。
「…こちらの外交官が、路地裏に入ったのですが―――」
「ッ!? 待ってください、一度ここへ来ていたんですか?」
見事な迄の慌てっぷりだ。もはや笑えてくるほどには、とてもわかりやすい。
思わず、座っていたのにガタッと立ち上がっている。光石国を見下しているような図にも見えなくはない。
ヒカリ、ヒイラギ、セキは顔を見合せてこう思う。
黒だ―――と。
路地裏に入ったというところでガタッと立ち上がったので、路地裏には見せたくないものがあると言ってるようなものだ。
何かあるとは思っていたが、本当にあるとは。今のところ、関わった国でいい関係を築けているのはゼルトただ一国のみだ。
ここら辺の国は、本当に残念な人間ばかりがいるみたい。
「あれ、なにか見せたくない大事なものでも隠していたの?」
「え、あ…。そ、そうなんですよ!誰にもバレたくない大事なものがあって!」
完全に焦ってるな。てか、先ず路地裏に入ったのなら、行けるところまでは行くでしょうに。
セキは怖がりながら行くからね。
「と、冗談は置いておいて。外交官が路地裏の奥まで行くと、ボロボロの布を着た少年少女達と、貴族らしい男達を見たらしいんだ。それについて、どう思う?」
「……………」
結局はだんまりだった。何を言えばいいかわからない、とでも言いたげな顔をして。
今の説明だけでも、奴隷がどうのこうのって話はわかるはずだ。よっぽどのバカじゃなければ。
「僕らにはその子供達が奴隷の何者でもないと思うんだけど…。何か弁明はあるかい?」
「…………」
ずっと無言を突き通すようだ。何があっても喋らない、そう決めているような気がした。
ならば、喋らせるまで。脅しになるかもしれないが、話してもらうにはそうやるしかない。
こいつが軽い脅しのようなもので簡単に答えてくれるとは思っていないが、物は試しだ。やる事にした。
「話さないつもりならば、宣戦布告しようと思うのだが」
「ッ…!?」
そういう反応するのはわかってた。宣戦布告なんて、自国が潰れる可能性が大きいのだから、それはなるべく避けたいだろう。
しかも、相手はナンバー1の国、光石国。不本意だが、ベルスは戦いたくはないだろう。
ぐ、…と声を出し、薄く息を吸って吐いた。これ以上自国を危険に晒すような脅しはされないようにと、仕方なく話す事にした。
「…ああ、そうですよ。路地裏にいる子供達は奴隷です。私が、彼らに頼んでこき使ってるんですよ。…それを知って、何をなさるおつもりで?」
ビンゴ。 軽い脅しというか、完璧なる脅しになってしまったが、それに乗ってくれてよかった。
何歳かもわからない子供達が、あんなボロボロな布を着ていて、奴隷じゃないわけないと思ってたんだ。
「何、って、僕の国に連れていくだけだけど」
「はぁッ!?」
今回の話で一番声が出たベルス総統。お前、そんなデカい声出せるんだな、と感心しつつ、相手の言葉を待つ。
「そんなの、私が許すわけないでしょう!」
「子供達の人生を壊す貴方こそ許されないでしょ」
―――了承しなければ、本気で宣戦布告をする。と、完璧なる脅しをつけて、言葉を返した。
奴隷を作って働かせればやらせてる側としては楽に過ごせるし必要だ。だが、宣戦布告をされるのは不本意だ。
――どうする?
「―――はあ、子供達の事は諦めますよ。あなた方の国に宣戦布告をされては、解決するどころか国がなくなってしまいますからね。して、その子供達をどうするのです? 引き取った上で奴隷にしますか?」
と、最後の方は煽りのような形で聞いてきた。こいつ、静かで攻撃的ではないにしろ、かなりイライラする相手だ。
まあ、その挑発には絶対にノらないけどね。ニヤッと相手にわかりやすいように笑って見せた。
「ふふ、あんたじゃないんだから、奴隷にするわけないだろ?」
なんか、手応え全然なかったな。 結局はどこの総統も底辺なバカという事がわかった。これからあまり他国と関わるのやめようかな、と思ってしまったヒカリ。
ゼルトだけしかいいやつがいない。上にいる奴ほど「偉い」という立場に溺れている。自分は賢いと思っているどうしようもできないバカしかいなかった。
「…折角いい貿易品を渡そうと思ったんだけど、期待はずれだったねぇ。さ、早く子供達を連れて帰ろう」
「そうしましょう」
相手の返事は聞かずに、目すら合わせずに応接室から出ていく。相手は、惜しい事をしたかも、というハッとした表情を出した後、苦虫を噛み潰したような顔をした。
ざまあみろ。その言葉に尽きる。
早く行かないと、助かる命も助からない。こうしている間にも、こき使われている子供達がいるのだ。
総統との会話に時間がかかった分、早く子供達がいるところへと行かなくてはいけない。
「セキ、その場所に案内してくれ」
「勿論です!」
投稿遅れてすみませんでした。
待ってないと思うけどね。