テラーノベル
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嵐のような騒がしさが去った、深夜の遊郭。 昼間の喧騒が嘘のように静まり返った縁側で、おさくは一人、夜空を見上げていた。その横顔には、誰からも慕われる「生き菩薩」の微笑みはなく、どこか遠くを、悲しげに見つめる影だけがあった。
衣擦れの音がして、隣に人影が腰掛ける。二位の遊女、おみこだった。 おみこは何も言わず、懐から煙管を取り出し、火をつける。紫煙がゆったりと夜空へ上っていく。
「……あの子、完全に裏に引っ込められたね」
おみこが静かに口を開いた。
「顔にもガタが来始めてるってさ。客たち、ひどいもんだよ。『あいつの方が本当の化け物だ』なんて、陰口叩いてさ。自分が流した噂に、自分が食い殺されたようなもんだ。自業自得だけどね」
おさくは、おみこから煙管を一吹き、細く白い煙を吐き出した。煙は冷たい月明かりに溶けて消えていく。
「……ええ。客の口ほど、恐ろしいものはないわね。でもね、おみこ」
おさくは遠い夜空を見つめたまま、ぽつりと言った。
「あの子のあの浅ましさも、必死さも、私にはどうしても憎みきれなかったの。だって、あれはあの子なりの『この地獄で生き残るための足掻き』だったんでしょう?」
おさくの脳裏に、あの禿の頃のまばゆい記憶がよぎる。どれほど醜く嫉妬され、陥れられようとも、かつては紛れもない、唯一の親友だった。
「ここにいたらね、誰かを蹴落とさなきゃ自分が生き埋めになる。あの子はただ、必死に息をしようとして、もがいて、泥水をすすって、溺れただけ。……私だって、一歩間違えればあそこに転がっていたわ。私たちはみんな、この綺麗な籠から出られない鳥なんだから」
おさくの静かな言葉に、おみこは一瞬だけ目を見張った。自分を嵌めて自爆した相手に対して、そんな悲しげな、深い慈悲を向けるなんて。 おみこは呆れたように、けれどどこか愛おしそうに、フッと鼻で笑った。
「……本当に、どこまで行っても敵わないねえ。自分を嵌めて、勝手に自爆した相手をそんな風に言うなんて。あんた、実は化け猫なんかじゃなくて、お釈迦様か何かなんじゃないの?」
おさくは煙管をおみこに返し、ふふ、といつもの優しい、けれどどこか寂しげな笑みを浮かべた。
「まさか。ただの、欲深くて運が良いだけの女狐よ」
二人はそれ以上何も言わず、ただ夜空を見上げ、交互に煙管を吸った。紫煙の向こうにある月は、彼女たちを閉じ込める格子窓の形に、冷たく切り取られていた。
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naru
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コメント
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うわあああ…このエピソード、静かだけどすごく苦しくて綺麗だった😭💔 おさくの「私にはどうしても憎みきれなかった」って台詞が刺さりすぎた…。蹴落とす側と蹴落とされる側、どちらも同じ籠の鳥って視点が切ないよ。 二人で煙草回しながら月を見上げるラストシーン、絵になりすぎて泣ける…次の話も絶対読みます!!🌸✨