テラーノベル
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俺は、じんとのことを全部知っていると思っていた。
負けず嫌いで、何でも最後までやり切ろうとするところ。
誰かが困っていたら、自分が大変でも手を差し伸べるところ。
普段は少し冷たそうに見えるのに、実は誰より周りを見ているところ。
そういう部分をずっと近くで見てきたから、俺はじんとのことなら分かると思っていた。
でも。
ある日、知らなかった表情を見た。
それは、本当に小さな違和感からだった。
いつものように二人で話していた時、俺は何気なくじんとの近くに座った。
別に特別な意味なんてなかった。
ただ、いつもより距離が近かっただけ。
「じんと、これ見て」
スマホの画面を見せようとして、少し顔を近づけた。
その瞬間。
じんとの動きが止まった。
ほんの一瞬。
でも俺には分かった。
いつもならすぐ反応する奴が、少し固まった。
「……?」
「どうした?」
俺が聞くと、じんとはすぐいつもの顔に戻った。
「何が?」
「いや、今」
「何でもない」
即答。
それが逆に怪しかった。
「嘘」
「嘘じゃない」
「じんと」
「何」
「分かりやすい」
そう言うと、じんとは少し不満そうに眉を寄せた。
「はやとは人のこと見すぎ」
「じんとのことだから」
何気なく言った。
でも。
その言葉に、じんとは少し黙った。
それからだった。
俺は気づくようになった。
じんとは、距離が近くなると少しだけ固まる。
特に耳の近く。
誰かがふざけて近づいた時も。
髪を直そうとされた時も。
一瞬だけ表情が変わる。
でも、すぐ隠す。
まるで。
誰にも知られたくないみたいに。
ある日。
二人で帰っていた時。
俺はとうとう聞いた。
「じんと」
「ん?」
「聞いていい?」
「何」
「耳」
そう言った瞬間。
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じんとの足が止まった。
「あ」
やっぱり。
反応した。
「やっぱり何かあるじゃん」
「別に」
「別にって顔じゃない」
「……」
じんとは少し困った顔をした。
その顔を見るのは珍しかった。
いつもなら言い返してくる。
絶対に負けない。
そんな奴が、言葉を探している。
「触られるの苦手?」
俺が聞くと。
じんとは少し目を逸らした。
「……うん」
小さな返事。
その瞬間。
なぜか胸がいっぱいになった。
弱いところを見せてくれたことが嬉しかった。
「なんで隠してたの」
「別に隠してたわけじゃない」
「じゃあ?」
「言う必要ないと思ってた」
じんとはそう言った。
でも。
本当は違う気がした。
「恥ずかしい?」
そう聞くと。
じんとは少し睨む。
「何が」
「そういうところ」
「……」
図星だった。
「かわいい」
「また言った」
「思ったから」
「すぐ言う」
「だって本当にそうだから」
じんとはため息をつく。
でも、少しだけ笑っていた。
その日から。
俺だけが知っている秘密になった。
もちろん。
面白半分で使うつもりなんてなかった。
むしろ逆だった。
じんとが嫌なことを、俺が知らないまま近づく方が嫌だった。
だから。
少し距離を取った。
触れないようにした。
でも。
そのことが逆に、じんとを不安にさせた。
それから数日間、俺は少しだけ意識していた。
じんとの隣に座る時も、前みたいに何も考えず近づくことができなくなった。
今までなら、くだらないことで笑いながら肩を叩いたり、ふざけて距離を詰めたりしていた。
でも今は、ほんの少しの動きでも一度考えてしまう。
これは大丈夫か。
嫌じゃないか。
近すぎないか。
そんなことばかり気にしていた。
もちろん、じんとに気づかれないようにはしていた。
いつも通り話す。
いつも通り笑う。
いつも通り隣を歩く。
俺の中では、それで完璧なつもりだった。
ただ少しだけ。
触れないようにしているだけ。
それだけだった。
でも。
じんとは、思っていた以上に俺を見ていた。
「はやと、今日眠い?」
ある日、急に聞かれた。
「なんで?」
「なんとなく」
「寝たよ」
「そうじゃなくて」
じんとは少し考えるように俺を見る。
「なんか変」
また。
その言葉。
俺は笑って誤魔化した。
「気のせい」
「最近それ多い」
「そう?」
「うん」
じんとはそう言いながら、俺の顔をじっと見る。
その視線から逃げるように、俺は話題を変えた。
「今日さ、あれ見た?」
「話そらした」
「……」
「図星?」
本当に。
じんとは鋭い。
でも。
言えるわけがなかった。
「じんとの嫌なことを知らないまま近づきたくなかった」
なんて。
そんなことを言ったら。
きっとじんとは気にする。
「俺のせい?」
って思う。
それだけは嫌だった。
だから俺は、今まで通りにした。
つもりだった。
でも。
少しずつ。
小さな違いが積み重なっていった。
前なら、じんとが疲れていたら自然に隣に行った。
何も言わず近くにいた。
でも今は、少し離れた場所に座る。
前なら、じんとの髪に何かついていたら普通に取っていた。
でも今は、言葉で伝えるだけ。
「ついてるよ」
それだけ。
自分では些細なことだと思っていた。
でも。
じんとにとっては違った。
「はやと」
「ん?」
「最近、俺に触れなくなったよね」
その言葉を聞いた瞬間。
心臓が跳ねた。
気づかれていた。
「そんなことない」
反射的に言った。
でも。
じんとはすぐに首を振った。
「ある」
いつもの強い言い方。
でも。
少しだけ寂しそうだった。
その顔を見て。
俺は初めて気づいた。
俺はじんとのために距離を取ったつもりだった。
でも。
じんとからしたら。
俺が離れていっているように見えていたんだ。
「じんと」
「何」
「嫌なことしたくないだけ」
そう言うと。
じんとは少し黙った。
「……俺のため?」
「うん」
「勝手に決めないでよ」
少し強い声。
でも。
怒っているというより、寂しそうだった。
「俺は」
じんとは続ける。
「はやとにまで気を使われたくない」
その言葉が刺さった。
俺はずっと。
守っているつもりだった。
でも。
じんとは一緒にいたかっただけなのかもしれない。
「ごめん」
「また」
「……」
「謝るの禁止」
少し笑う。
その顔を見て、俺も笑った。
「じんと」
「ん?」
「俺、じんとのこと大事にしたい」
言うと。
じんとは少し固まった。
「急に何」
「思ったから」
「……」
「かわいい顔してる」
「今関係ない」
「ある」
「ない」
そんなくだらない会話。
でも。
その時間が好きだった。
俺はまだ知らなかった。
この小さな秘密が。
二人の距離を変えるきっかけになることを。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡1000
コメント
1件
読んだ読んだ…めっちゃ刺さったわこれ。 「知ってるつもり」から「知らない顔を知る」って導入がもうグッと来るし、じんとの「耳が弱い」発覚からの、はやとが距離を取ったら逆にじんとが寂しがる構図が尊すぎる。「触れなくなったよね」って指摘が泣ける。お互い思いやってすれ違う感じ、解像度高いわ…。続きめっちゃ気になる🔥