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貴方は太陽
青い海を渡り、島へとやってきた異国。
それが「日帝」だった。
軍服を身にまとい、銃と刀を持った日帝姿に、島の人々は恐怖を覚えた。
化身といいつつも、まだ小さなパラオもまた、怯えた目で遠くから彼らを見ていた。
……怖い。近寄りたくない。
心の中でずっとそう叫んでいた。
だが、島に住み始めた日帝は、思ったよりも優しかった。
文字すら知らなかったパラオに、読み書きを教えてくれる。
畑を耕し、一緒に魚を釣って、火を囲んでご飯を食べる。
日帝は緘黙なだけで、凄く優しいのだとパラオは気づいていた。
そんな日帝をパラオは大好きになっていたのだった。
ある日、泥だらけになりながら木を運ぶ日帝の姿を見て、パラオは思わず口を開いた。
「……ないち」
「ないち?」
「うん。」
「…ないちってどういう意味だ…?」
「んー…なんとなく?」
「なんとなく…?」
「パラオにとって、太陽みたいにキラキラしてる存在だからかな?」
少年の素直な言葉に、日帝は少し照れたように笑った。
それから彼のあだ名は「ないち」になった。
最初は拒んでいたはずなのに…
気づけばパラオは、「ないち」の隣にいることが心地よくなっていた。
一緒にご飯を食べ、勉強をし、笑い合う日々。
「ないち、大好き!」
そう叫ぶたびに、日帝は少しだけ目を伏せて笑った。
別れというのは、突然やってくるものだった
海が、燃えるように赤く染まっていた。
その日、空の向こうから現れたのは、太陽ではなかった。
………米国軍
島に鳴り響く砲声。
揺れる大地。
逃げ惑う人々。
パラオは、ただ名前を叫んでいた。
「ないち……!ないち!!」
日帝は振り返った。
あの、いつもの優しい笑顔で。
「……ごめんな、パラオ」
その声は、波音にかき消されそうなほど穏やかだった。
「ここから先は、俺の仕事だ」
パラオは首を振った。
嫌だ、と。離れたくない、と。
だが日帝は、そっと頭に手を置く。
「パラオがお月様だとするなら、俺は太陽だ」
「今は太陽の番だから」
一瞬、沈黙。
そして、決定的な言葉。
「だから……離れるんだ」
背を向けた日帝の背中は、もう戻らなかった。
砲火の中へ、太陽は沈んでいった。
それ以来。
日帝は、パラオの前から姿を消した。
どれだけ呼んでも、返事はない。
どれだけ空を見上げても、あの太陽は昇らない。
夜は長く、冷たかった。
数年後。
戦争は、終わった。
島に、また新しい人がやって来た。
かつての軍靴ではなく、穏やかな足取りで。
その姿を見た瞬間、パラオは息を呑んだ。
_似ている。
雰囲気も、立ち姿も、
ふと見せる笑顔まで、あまりにも。
けれど、違う。
あの重さがない。
あの覚悟がない。
そして、あの「ごめんね」もない。
それは、日本。
大日本帝国の後を継ぐ存在だった。
パラオは最初、戸惑った。
“あの”ないちとは、似ても似つかない方だっなから。
でも、
新しい日本は、急がなかった。
寄り添い、話を聞き、共に笑った。
気づけば、曇っていたパラオの心に、
ほんのりと光が差し込んでいた。
一度沈んでしまった太陽も、
暗い夜を耐え抜けば、また朝日として昇る。
あのないちと、このないち…は違うかもさはれない、
けれど、パラオにとっては確かに“光”だった。
明るさを取り戻したパラオの胸には、
今もはっきりと、日帝の笑顔が残っている。
忘れない。
消えない。
でも、前を向ける。
今日も、幼い国の化身は、
国民たちと共に、笑顔で暮らしている。
空の下で、新しい朝日のもとで。
――完――