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中学3年生になった優馬は、未来への漠然とした不安を抱えていた。
周囲の友人たちが受験や部活動に熱中する中、自分だけが何となく毎日を過ごしている。
春、満開の桜が舞う校庭も、優馬にとってはただ過ぎ去っていく景色の一部にすぎなかった。
その日の昼休み、優馬は友人たちから少し離れ、校舎裏の桜の木の下で一人、ぼんやりと空を見上げていた。
地面に落ちた花びらが、風に舞い上がり、まるで時間が止まったかのようにゆっくりと降り注いでくる。
その光景を、優馬はただ眺めているだけだった。
そこに、一人の少女がやってきた。
少し色素の薄い髪と、儚げな雰囲気をまとう彼女は、この春転校してきた莉子だった。
体が弱く、学校を休みがちだと噂で聞いていた。
莉子は優馬に気づかず、桜の木の下にしゃがみ込み、掌に乗せた小さな花束をじっと見つめていた。
その花束は、可憐な白い花と、鮮やかな赤紫の花で彩られていた。
優馬は、なんとなく気になって声をかけた。
「…その花、きれいだね」
莉子はゆっくりと顔を上げ、優馬の姿を捉えると、少し驚いた表情を見せた。
「うん、そうなの。この白い花はね、アネモネっていうの。花言葉は『希望』」
莉子はそう言って、優しく微笑んだ。
その微笑みは、桜の花びらにも負けないくらい、優馬の目に焼き付いた。
「この花束は、新しい学校で、みんなと仲良くなれるといいな、っていう私の希望」
優馬は、莉子の言葉にハッとした。
自分が何も持っていないと思っていたのに、莉子は希望という花を大切に抱えていた。
莉子のひたむきな姿に、優馬は胸の奥がざわつくのを感じた。
「君は、何となく生きているように見えるけど、本当は違うんだよね?」
優馬は、莉子の言葉に何も答えられなかった。
彼女は、初対面の自分の中身を見透かしているかのように、優馬の心を揺さぶった。
莉子は、優馬の戸惑いには構わず、再び花束に視線を戻した。
「でも、心配しないで。アネモネは、白い色だけじゃなくて、赤紫の花もあるんだよ。それは『固い誓い』。私ね、病気だけど、絶対に諦めないって決めてるから」
優馬は、彼女の言葉と小さな花束が持つ意味の重さに、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
莉子との出会いは、優馬の「何となく」だった日常に、小さな風穴を開けた。
優馬は、この日初めて、誰かの「希望」と「誓い」に触れたのだった。
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誤字等ありましたら、教えてくださると嬉しいです。感想なども大歓迎です!
また、今週中に時間をおいてこの小説は投稿し、完結いたします。最後までどうぞお楽しみくださいませ…