コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
一晩明けての朝食の席。
単純なコユキは昨日の晩に感じた善悪に対して抱いてしまった怒りを、寝て起きたらすっかり忘れていたのであった。
反して夜中、いいや明け方までジッとザンボ〇ト3を、いやいや正確にはその背中部分に書かれたサインを見つめ続けて居た善悪の方は、深く色濃い隈が貼り付けられていて如何にも疲労困憊、睡眠不足丸出し状態である。
肝心のサインの方は見続けている内に、『良二善悪(よしふたぜんあく)』に送られた物の様に見えて来てしまっていた。
恐らく今の善悪では、銀行や病院などで『幸福さーん』とか呼ばれても返事はしないのでは無かろうか?
多分『良二(よしふた)さーん』と呼ばれた方が、『はーい』と応えてしまう事だろう。
やはり睡眠不足と洗脳施術の成否は強い結びつきがあるのだと、認識を改めた私、観察者である。
両目を3にしてボーっとした表情の善悪が、目の前で朝からコッテリとした回鍋肉(ホイコーロー)を頬張っているコユキに問い掛ける。
「んで、今日はどこに迎えに行くのでござるか? 最後のレグバ、えーと、何でござったか? はてな?」
コユキは丁度空になった丼に山盛りのご飯(六杯目)をよそいながら答える。
「ん? ああ最後のレグバさんだったらロットよ、ロット・ラダって言うんだってさ、どうやらこの近くに暮らしているらしいのよね、そうなんでしょ? デスティニーさん」
善悪特製のスムージーを飲んでいたデスティニーが答えた。
「うん、そう」
シンプル過ぎる声を聞いた善悪は頷いて呟くのであった。
「そうでござるか…… この良二寺(よしふたじ)の近くに…… あれ? 何かおかしいような…… 気のせい、か……」
善悪の疑問はごみの様に無視されて、最初に合流した北海の神、フェイトが濃い目の緑茶を啜りながらデスティニーを嗜(たしな)めるように言う。
「おい、スッツ! そんな適当な返事は無いだろう? ちゃんと分かり易くコユキと善悪に伝えなければいかんじゃろうがっ!」
ふむ、なるほど、尤(もっと)もな意見だと思える。
続けてフューチャーもサイフォンから注がれたコーヒー、今朝は東ティモール産のフェアトレードの逸品を啜り上げながらゆったりとした表情で重ねる。
「なあ、デスティニーよ…… 最後のラダ、ロットの居場所はお前だけが知っているんだろう? ちゃんとコユキと善悪に説明しなければならないんじゃないか? 少しは成長したかと思ったが相変わらずいい加減な奴だな、全くけしからん! フェイトの指摘と私の言いたい事は全く同じなのだぞ? この国はそもそもお前の本拠地で地理についてもお前が一番詳しいのだから、聖女コユキを確りと導かなければならないだろう!」
面倒臭そうでは有ったが、スッツ、いいやデスティニーはハッキリと告げたのであった。
「ん? ああ、そうかそうか…… じゃコユキ、この近くにガス爆発でぶっ壊れた団地があるだろう? どうだ思い当たる廃墟とか知ってる?」
コユキはワザとらしくハッとした風な表情を浮かべて言うのであった。
「あっ! あの…… 相方が…… あの日彼と別れを覚悟した、いいえ別れを選択せざる得なかったあの…… 悲しみの団地の事を言っているのん? だとしたらここから近いわよ? 良くリエやリョウコが子供達を連れて遊びに行っているJYパークもとい、現Jパークの隣の団地跡よね?」
デスティニーはニヤリとしながら言った。
「ふーん、そうかー、何か悲恋の匂いがするじゃん、興味は湧くけどまずは本題からだな…… その団地の裏手、藪(やぶ)を進んだ先にね、百年位前に廃村になった集落跡がある、と言っても残っているのは粗末な石の祠(ほこら)一つだけなんだけどさ、そこにロットがいる筈(はず)だ」
只の日直の相方だと言うのに軽薄なデスティニーはラブロマンス、それもロストラブの秘話を期待しているらしい。
コユキの気が向けば悲しくも儚い相方との馴初(なれそ)めから別れまでの、作り話を聞かせて貰える機会もあるかも知れない。
コユキは九杯目の丼を平らげてから徐(おもむろ)に口を開いた。
「ほーん、あの裏の藪の先か、本当にすぐそこじゃないの! 分かったわ、午後にでもフラッと行って連れて来るわね」
善悪が怪訝(けげん)な表情を浮かべながら言う。
「そんな近くにクラックが? おかしいのではござらぬか、今まで大体の位置を聞いた後だったらオルクス君がクラックを見つけられたのでござるよ? 良二寺(よしふたじ)とそこまで近いんなら何故今まで見つけられなかったのでござる?」
ペットボトルの蓋に入れられたスムージーから顔を上げたオルクスがこの声に返す。
「ウン、イマモ、ミツカラ、ナイヨ」
「ほらー、嘘なんじゃないの? で、ござる!」
疑いの眼をレグバ達に向ける善悪であった。
「ああ、多分もうクラックを維持出来無いんだと思います」
「そうだね、虫の息って感じかな?」
「死んではいないっしょ? 多分」
口々に言うレグバに向けてコユキが丼から口を離して聞く。
「ね、ねえそれって死に掛けてるって事なんじゃないの?」
「多分」
「恐らく」
「ダイジョブなんじゃね?」
酷く適当だ…… 仲間意識とか無いのだろうか?
戦慄を感じたコユキの耳にオルクスの声が届いた。
「ア、イタ! チッチャイ、マリョク…… ダイタイ、コトリ、クライ……」
「ヤバイじゃないのよっ! ちょっ、善悪アタシ行ってくるわよっ! それから良二寺じゃなくて幸福寺だからね、ここっ!」
「え? コウフク、ジ? そうなの? コウフク……」
「そうよっ! アンタは幸福善悪、コウフク、ゼンアク! 分かった? コウフクッ! ゼン――――」
「モウ、ムシ、クライ、ダー!」
「『加速(アクセル)』!」