地下都市に来て数時間が経つ。
ルティのことは別の意味で心配になるが今は気にしないことにする。荷物持ち改め、盗賊の新入りとして外に出ることになったからだ。ここでやることは砂地では無く、草地に置き去りにされた武器や防具を盗むこと。
盗むということに疑問に思いながらも、複数存在する出口から外に出る。
「新入り! あそこにいる連中が見えるか?」
「あれは……冒険者パーティー?」
「ほぅ。目もいいようだな。今夜はあの連中が餌食となる」
「餌食?」
「夜は魔物が活発になる。それがどういう意味か分かるか?」
自分たちが手を下さなくても自然と手に入る、ということは――
「……襲われて全滅するってことですか?」
「そうだ。俺らの仕事は全滅した連中が身に着けていたモンを盗ることだ」
やはりか。しかし危険な場所をわざわざ冒険者が進む――何ともおかしな話だ。冒険者が故意に捨てたものではないことは理解出来た。全滅を待って身に着けていたモノを頂くとなれば、確かに盗みと言ってもおかしくない。
それを磨いて売っているのも盗賊らしいといえばらしいことだ。
「それにしたって何故ここを通るのですか? 冒険者だって危険な道ということくらい分かっているはずでは?」
「ここレイウルムは、王国と共和国へ行くために必ず通らざるを得ない場所だ。それ以外は海を渡るか湿地帯を突っ切るしかない」
「それほどまで危険なエリアなんですね」
「ハハハッ! 儲かるぜ、この仕事はよ! しかも王国も共和国も今ひっきりなしに兵を集めているからな。ここを通る冒険者パーティーが減ることはねえ。良かったな、新入り!」
「は、はぁ。しかしリスクがあるのにここを通るなんて」
ラクルに開設された航路は恵まれていると言える。もっとも王国周辺に強い魔物がいるとなれば、並の冒険者では行けるはずもないだろうが。王国と共和国、双方で戦争を始める気がある。
あるいは単なる人集めに過ぎないのか?
それとも――
「王国周辺は魔物がいても逃げ場所があるが、ここでは地下しかない。地下が安全ってわけだ! 俺らの仕事はバカな冒険者どもが似合いもしねえ装備を無駄にするってのを再利用することにある」
「人助けはしないで物だけは盗る……ですか」
「人助けぇ? 割に合わねえぞ、そんなもん! 俺ら《盗賊》に魔物を倒せるほど強い奴はいねえよ。おっと……お頭は別だ」
「お頭の、えっとジオラスさんは元冒険者か何かです?」
「冒険者じゃねえよ。剣士だ! 新入りが逆らって敵う人じゃねえぞ。それは覚えておけよ?」
落ち延びた剣士が盗賊団を率いてしょぼいことをしてる――それは理解した。
「冒険者パーティーは夜にやられるはずだ。明日の朝になったら外に出るからな?」
「……分かりました」
「――ってことで、町に戻るぞ。メシだメシ!」
色々疑問はあったが素直に聞いておいた。お頭であるジオラスの経歴も気になるが、本人に確かめればいいだけのこと。
「あんた、ケガは無いかい?」「おう、無事だぜ!」などと、あちこちで男たちが声をかけ合っている。外から戻って来る男たちを女性たちが総出で迎えて声をかけているようだ。その光景だけ見ればあまりに大げさすぎるが、その中にルティの姿が無い。どうやら別の仕事をさせられているようだが、落ち込んでいないだろうか。
「ごぼふっ……!?」
何やら背中に強烈なダメージを負って思わず変な声が出た。しかも徐々に背中を締め付けてくるが、不意打ちによる締め付けと嗚咽が同時に起きている。
「うぅぅ~うぅ~……アッグざば、アック様あぁぁぁ」
「うっ、うぎぎぎ……ルティだよな? ちょっと落ち着――」
「ざびしかっだです~……」
「うげげげ……ま、待っ……」
(何たる怪力だ)
このままでは地下都市で息絶えてしまう。
そうなる前に――
「ルティシア! おれの正面に立て!」
「――! は、はいっ! 今すぐに!!」
すぐに締め付けから解放されルティがおれの前に立つ。ルティの母であるルシナさんから聞いていただけなのだが、今まさに役立っている。ドワーフでは規律が厳しいとかで、泣きじゃくってもすぐにそれに従うらしい。
正面に立ったルティは泣き顔でぐしゃぐしゃだ。それでもとても嬉しそうにしている。外に出て何かをしてきたわけでもないが安心感は確かに得られる感じだ。
「あの、アック様? わたしに何か……そのぅ」
「ただいま、ルティ」
何となく自然とルティの頭を撫でていた。
「はふぅっ!!」
「おっと、悪い」
「い、いえいえいえいえ! そ、それとアック様! お食事を作りましたっ!! ご一緒に食べましょう」
「そうだな。頂くよ」
他のみんなのことも心配だが、この娘《こ》がいてくれて良かったと言える。
「その後で構わないので、あのあの……わたしと添い遂げをですね」
「――ぶっ!? 落ち着け。とにかくメシを頂くから、その話がどこから出て来たのか聞くぞ」
「はいっっ! こちらです~」
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