教室の窓際で、私は今、空を眺めている。
時計が針を刻む音と、風に揺られるカーテンの音だけが、私の体を包みこんでいた。
いつもの喧騒は何処を探しても見当たらず、まるで、世界の真ん中に取り残されてしまったかのような感覚を覚える。
「………静かだなあ」
口の中で飴玉を転がしながら、私は鮮やかな橙色の空に手を伸ばした。
沈んでゆく太陽には、届きそうで、届かない。此処から見ればあんなに小さいのに、実際は、地球よりも大きいのだ。
まるで、
……人間を表しているみたいだ、と思った。
目標がある。夢がある。欲しい物がある。
でもそれは、そう簡単に手に入る物じゃない。手を伸ばせば届きそうなのに、あと少し足りなくて。 届かなくて諦める度に、自分を責める。
「もっと頑張らなくては」「皆頑張っているんだから」……と。
実際、私の周りの人達だってそうだった。
親から、知人から、教師から、
「もっと頑張れ」と鼓舞され、期待に応えようと全力を尽くす。
でも、そんな事を続けていく内に、何だか疲れてしまって、少し立ち止まるんだ。
そうしたら、叱られる。「休んでいる暇は無い」「何も出来ないくせに」
心無い言葉を浴びせられ、刺され、押され、進む事を強制させられる。
ボロボロになった心臓はもう動く事は無いと、知っている筈の人間達が、自らの手で誰かを傷付けている。
人知れず泣いているあの子の後ろ姿に、石を投げて、笑い者にするんだ。
どこかで、「貴方より辛い思いをしている人がいる」という言葉を聞いたことがある。
知った事か!と、思った。
人間 皆、自分の事だけで精一杯だ。
辛いのは知っている。でも辛いのは私達だって同じだ。辛さに順位を付けて、果たして誰が救われるのだろうか。
こんな醜い世界で生きるなら、自分の事だけ考えていた方が、まだ生きやすい。
すると、心に少しだけ余裕が出来る。そうしたら、今度は自分の番だ。
同じように苦しんでいる誰かの事を、優しく包み込む立ち位置になれば良い。
例え綺麗事だろうが矛盾してようが、それで良いのだ。これで誰かが救われれば、きっと、社会は少し明るくなる。
そんな事を頭の中で考えて、私はふっと溜息を零した。
そんな簡単に社会は変わらないと言うのに、
一つの可能性に欠けている自分が馬鹿らしく思えてしまう。
グラウンドに溜まった水溜りに反射する夕陽の光が、教室内を明るく照らした。
「………もう、帰ろうかな」
そう呟いて、私は教室を後にする。
口の中で甘く溶けた飴玉は、
少し、優しい味がした。
コメント
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リハビリの甲斐があったわね!めちゃくちゃ読みやすいし語彙力上がってるわ!!
幸せ話をして「あなたより幸せな人たくさんいるんだから」とは言われないのに、不幸話をして「あなたより辛い人たくさんいるんだから」って言われるの変だね〜 マジでめっちゃよかった
心にグッとくるなぁ 書いただけで偉い!