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荷物をまとめて中庭を通ると、静まり返った中に少人数の人だかりが見えた。私はその横をただ通り過ぎようとすると、聞き捨てならないセリフが聞こえてきた。
モブ「お前に帰る家があったなんてな!」
モブ「お父様のお家には入れてもらえるのか?」
明らかに嘲笑の声だ。しかしこんなのはどこにでもある、と、止めに入るのを少し渋った。しかし、次の台詞を聞いた私は、何かが心の中で切れるのを感じた。
モブ「穢れた血がスリザリンにいると知って、お父様は腰を抜かしたよ!」
モブ「血を裏切る者はいつか俺らのことも裏切るさ」
イ「ちょっと!!」
一同が私に視線を向ける。
モブ「おやおやこれは、ハイゼンベルク家のご息女様」
わざとらしく一礼をするその姿に、悪寒すら感じた。
イ「何をしていたの」
モブ「嫌だな、我らの純血を穢しうる者に制裁を与えようとしただけです。」
モブ「貴女も、由緒正しきハイゼンベルク家の方ならお分かりいただけるでしょう?」
次々と口を開く彼らの声は、もはや雑音にしか聞こえなかった。
イ「……うるさい」
モブ「は…?」
イ「聞こえなかった?うるさいって言ったの」
モブ「なっ……こいつ!!」
怒りに身を任せて肩に掴みかかろうとした時、
イ「コンファンダ」
錯乱呪文で相手をいなす。
イ「お手を触れないでいただける?純血だの穢れた血だの、生まれや家柄で差別するような人間とは口を聞かない主義なの。」
モブ「この野郎…!」
イ「オスコーシ」
口を消す呪文を唱えると、モゴモゴと暴れだした。
モブ「おい!行くぞ!」
遠くで倒れていた生徒が、暴れる1人を無理やり連れてこの場を去っていった。
その場に立ち尽くしたまま終始何も言わなかった被害者の姿を見て、ため息が漏れた。
イ「どうして何も言わなかったの?悔しくないの?」
尾「前にもこんなことがあって、返り討ちにしてやったら減点食らったんだよ。」
イ「じゃあ私も減点対象ね」
少しだけ得意げに言って見せた。それでも彼は表情一つ変えず、ただその真っ黒な瞳に私を写しているだけだった。
尾「お前こそ、なぜ俺を庇った」
イ「なぜも何も、私が嫌だっただけ」
そうだ。何一つ大義名分などない。単に私の神経を逆撫でするような発言だったから。癪に障るような態度だったから。しかし、「嫌」という単純な感情だけでここまで行動したことは、自分にとっては初めてだった。
尾「なぜお前が嫌がる?お前は純血で、優れた魔女だ。違うか?」
イ「それは違う。家柄で優劣が決まることなんてないもん」
尾「……」
イ「それに、純血であろうとなかろうと、優れた魔法使いを私は知ってるしね」
意味ありげにそう言ってやると、彼は眉を潜めた。
イ「……帰るんでしょ?汽車間に合わないよ?」
尾「…嫌でもな。」
彼が冗談めかしく笑うので、自然と私の口角も上がった。
イ「はぁ……いい夏休みを」
尾「ああ」
半ば呆れつつそういう私に、彼はぶっきらぼうに返事をした。
長い夏休みが私たちを待っていた。