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ビヨグランデの庁舎バルコニーにて、スーツ姿の男性議員を野次馬たちが取り囲んでいる。怒気も露にガヤつく雑踏に、四十絡みの男性議員が上ずった声を投げる。
「コホン! この度可決された、帝国への支援金に対して説明させていただく」
議員があざとく咳払いすると、観衆が静まり返る。
「これは断じて上納金ではない。増大する魔王軍の脅威に対抗するため、不可欠な経費なのだ」
檀上から諭すように訴えるが、不平の唸り声が返って来る。
「我々共和連合は平和を是とする民主同盟。餅は餅屋。危険を伴う戦闘は野蛮な帝国に任せるべきなのだ」
言い訳をかぶせた議員に向かい、刺し棒が突き付けられる。
「お言葉ですが議員。共和同盟の若者たちも徴兵され、国防任務に勤しんでいます」
舌鋒鋭く問い詰めたのはオトサタ教官だった。その後ろには弱り顔のユミヨが付き従う。
「軍事力の多寡にビビりあがって、血税貢いでいるのでしょう? ねえ、答えて下さいよ議員!」
オトサタがドS剥き出しで追及する。尖った顔のパーツが怒気をはらんで紅潮していた。
「この売国奴が! 帝国に貢ぎたいなら、お前ら政治屋が身銭を切れや」
「そうだ、恥を知れ!」
周囲を囲う市井の人々がここぞとばかりに野次を飛ばす。だが、彼らが一斉に宙を見上げると、口を半開きにして唖然とする。
「まあ、その辺にしときなさいよ」
空中から言葉を投げたのはヨタナンだった。議員の真上付近からフワフワと舞い降りてくる。
「お疲れちゃん、そろそろ下がりなよ」
「かたじけない。恩に着ますぞ」
モズルフと目礼を交わした議員がスルリと逃げを打つ。
「俺は見たことあるぞ、ハルヴァードの宮廷魔術師ヨタナンだ!」
「何故ここにいる? 勇者に同行したんじゃないのか」
控えめにざわつく市民を見渡すと、着地したヨタナンが口火を切る。
「政治家には民衆に開示できない裏事情がわんさとある。そうそう理想論は通らないものじゃ」
ヨタナンの言を受け、市民たちの興奮が鎮まる。そして、その口元にマイクが突き付けられた。
「魔王と戦いになった場合、元君主と戦う覚悟はお持ちですか?」
質問を投げたのはユミヨだった。驚いたオトサタが、女王様眼鏡のふちを上げる。
「フフ、こりゃあ予想外だ」
ヨタナンが心底愉快な様子で破顔する。
「任せておけ、大ベテランの儂がついておる。故郷奪回の暁には、まっ先にあんたらと友好条約を結ぼうぞ!」
ヨタナンが杖を振り上げると、周囲に割れんばかりの歓声が轟いた。
その翌日
ユミヨは再びゾノドコ新聞本社を訪れていた。幅広い通路の突き当たりにある扉。その真上には木彫りで『社長室』と刻まれている。
意を決したユミヨが扉をノックする。
「お招きいただいた新入社員のユミヨです」
「入りたまえ」
野太い声が応え、ユミヨが扉を開く。
「失礼します」
入室すると、デスク後方にジレベストを着た初老の男が座っていた。面長で台形の顔面がモアイ像を彷彿とさせる。
デスク前にはモズルフが待機しており、二本指で挨拶を寄越す。ユミヨがペコリと一礼すると、モアイ顔の社長が話し始める。
「私が社長のバッキネンだ。そして、彼女が秘書のノファナさ」
紹介を受け、優しげな中年の女性が微笑みを浮かべる。ユミヨもつられて相好を崩す。
「ユミヨさん、外回りの仕事は大変だろう。勇者覚醒の号外でかなり部数を伸ばせた。ありがたい限りさ」
社長が分厚い唇に笑みを浮かべる。
「いえ。たまたま帯同できる流れになっただけで、運が良かっただけです」
ユミヨが首元に右手を当てて恐縮する。
「勇者たちに猫かぶりの森を案内した事がきっかけだったのだろう? 流れを作った君の功績さ」
モズルフの言を受け社長が立ち上がる。
「立ち話もなんだ、座ってくれたまえ」
社長が手振りでソファーに誘導すると、それに応えたユミヨたちが腰を落とす。
「この地図を見てほしいのだが……」
社長が両手を広げ、ローテーブルの上に地図を広げる。
「勇者たちは今からハルヴァード王国の首都、ゾナーブル城砦に向かう。その道中、最大の難関がここだ」
社長の指が地図上の『サパトマ山脈』を指さす。
「この山脈を貫通する洞窟、サパトマ大迷宮のことですよね?」
ユミヨの言に、社長とモズルフが顔を見合わせる。その表情には驚きが浮かぶ。
「単に地理に明るい、では説明がつかないと思うが。公的資料には載っていない極秘情報のはずだ」
モズルフに顔を覗き込まれたユミヨがギクリとする。
(まずいなぁ。知識をひけらかすのも、ほどほどにしないと……)
「だが話が早い。やはり、勇者パーティへは君に同行してもらいたい。先方もそれは了承済だ」
ユミヨの表情が明るくなる。
「当然ながらサパトマ山脈に到着するまでだ。そこで彼らが帰還するまで、馬車を見張る手はずになっている」
意気消沈したユミヨが下を向く。
「馬車の見張りは私が受け持つ。ともかく、現地まで随行して最後の取材を頼む」
「承知しました。渾身のドキュメンタリ―を作成してみせます!」
モズルフが発破を掛け、ユミヨが一転やる気を漲らせる。魔王との邂逅を果たすには、このチャンスを見逃すわけにはいかなかったのだ。
#ファンタジー